‘経済法’ Category

JASRACは音楽教室団体に勝ったの?

金曜日, 3月 9th, 2018

今日は、著作権について書いてみよう。

ニュースでも流れているところであるが、平成30年3月7日付で、「音楽教育を守る会」がおこなった一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)に対する裁定の申請を認めないとする内容の裁定を文化庁が行った。

文化庁:著作権等管理事業法に基づく裁定について
http://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/1402106.html

ニュースの字面だけみると、文化庁が、JASRACを勝たせて音楽教室を敗かしたように聞こえてしまう。

しかし、上記のURLを辿って、内容をよく読めば、別に全然そんな内容ではない。

文化庁はJASRACを勝たせてもいなければ、もちろん敗かせてもいない。

裁決の結論は以下の主文に書いてある。判決でも主文というのが結論である命令となる。

 主 文
平成 29 年6月7日付けで一般社団法人日本音楽著作権協会から文化庁長官に届出のあった使用料規程については,音楽教育を守る会が求める実施の保留は行わず,著作権等管理事業法第 24 条第3項に基づき,本裁定の日をもって実施の日とする。

これは、JASRACが届け出た使用料規程の実施時期を延期しない、というだけの意味である。

一方、別に、「音楽教室を守る会」は、JASRACに対して平成29年6月20日、訴訟を提起し、現在、東京地方裁判所において係属中である。

音楽教室を守る会
https://music-growth.org/

JASRACによる音楽教室における著作物の使用料徴収に対し、東京地裁に「音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認訴訟」を提起しました
https://music-growth.org/topics/170620.html#box-psc01

正確にいえば、同会に所属する249社が原告団を結成し、JASRACによる音楽教室における著作物の使用料徴収に関し、音楽教室でのレッスンには著作権法に定める演奏権は及ばず、JASRACの徴収権限は無いことを確認するための「音楽教室における著作物使用にかかわる請求権不存在確認訴訟」を東京地方裁判所に提起した、というものである。

要は、音楽教室がJASRACに使用料を払わなければいけないかどうかは、あくまで裁判によって決着がつくべき話である。

おそらく音楽教室もJASRACも引くことはないと思うので、最高裁判決まで至ることになるであろう。

では、この文化庁の裁定というのは、いったい、なにを審理していたのか。

本来ただの民間の社団法人であるはずのJASRACが、通信カラオケの月額使用料から、あるいはテレビ・ラジオ局から、あるいは音楽を流すカフェなどの店舗そのほか音楽の著作権法上の利用に該当する行為をしている利用者に対し、いきなり訴訟を起こしたりして、著作権使用料を請求できる根拠は、「著作権等管理事業法」という法律に基づくものである。

JASRACは、著作権管理事業法に基づき、指定著作権等管理事業者として、指定されている団体であり、2001年以前は許可制であった(JASRACは許可を得ていた)が、2001年以降は届出制となっている。

指定著作権管理事業者は、なにもJASRACだけではない。

こんなにある。

http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/kanrijigyoho/jigyosha/index.html
一般社団法人 日本音楽著作権協会
協同組合 日本脚本家連盟
協同組合 日本シナリオ作家協会
公益社団法人 日本複製権センター
一般社団法人 日本レコード協会
公益社団法人 日本芸能実演家団体協議会
有限責任中間法人 出版物貸与権管理センター

残念ながら私もJASRAC以外ほぼ知らない。100パーセント独占ではないということだけ知っている。

それくらい、音楽著作権管理の業界は、圧倒的にJASRACの寡占が生じており、実際は事実上独占に近い。

独占禁止法で違反として分割すべきではないかとまで批判されるのも、わからないではない。

さて、では、指定著作権管理事業者が、どんな事業から使用料を徴収できるのかは、実は、著作権管理事業法にはなにも規定されていない。

著作権管理事業法13条1項により、指定著作権管理事業者は、使用料規程を定めて、文化庁に届け出なければならないとされている。

届出であるから、文化庁は、届出された使用料規程を否定(たとえば却下したり不受理にしたり)は、できない。

もっとも、指定著作権管理事業者が使用料規程を定めたり変更しようとするときは、利用者又は団体から意見を聞く努力義務(13条2項)、公表義務(13条3項)、使用料規程の届出から実施まで30日を置く義務(14条1項)がある。

さらにいうと、その使用料規程が著作物等の円滑な利用を阻害するおそれがあると認めるときは、文化庁は届出受理日から3か月(最大6か月)を超えない範囲内で実施日を延長することができる。

また、指定著作権管理事業者は、利用者から協議を求められれば協議に応じなければならず(23条2項)、協議が成立しないときは文化庁に裁定を求めることができる(24条1項)。

さて、それであれば、著作権のもめごとはなんでもこの裁定で決めてもらえるのだろうか、といえば、実は全然そうではない。

この裁定が決めてくれるのは、当該使用料の金額・料率などの条件だけである。言ってみれば高いか安いか。

24条6項において

 使用料規程を変更する必要がある旨の裁定があったときは、当該使用料規程は、その裁定において定められたところに従い、変更されるものとする。

とされているのがそれである。

つまり、「音楽教室が著作権使用料を払う必要があるかないか」「音楽教室が教室内の演奏により音楽家の著作権を侵害しているか」「いくらを損害賠償として支払え」というのは、文化庁の法24条裁定の審理の対象ではない。

あくまで裁判所が判決で決めることなのである。

だから、上記の文化庁裁定は理由中でこう書いている。長くなるが引用する。

 申請人は,本件裁定申請とは別に,その会員の一部を原告,相手方を被告として,本件使用料規程が対象とする音楽教室における著作物の使用に関して相手方に請求権がないことの確認を求める訴えを提起し,東京地方裁判所において現に係属中である(以下「別件訴訟」という。)ところ,申請人は,そのことを理由として,別件訴訟の判決が確定するまで本件使用料規程の実施を保留することを求めるものである。しかし,仮に申請人の求めるとおり保留するとすれば,保留されることとなる期間は一義的に明確ではなく,また,仮に上告審まで争われる場合には長期間を要する可能性があり,その場合には著作権等管理事業法が定めている上記の実施禁止期間を大幅に超えてしまうこととなる。したがって,別件訴訟の判決が確定するまで本件使用料規程の実施を保留することはできないと考えられる。
 また,仮に別件訴訟が早期に終了する可能性がある場合であっても,そもそも,著作権等管理事業法においては,原則として,当該利用区分に係る個別具体の利用行為に著作権等が及ばないと利用者が主張していることを理由として,文化庁長官に届出のあった使用料規程の実施を裁定によって保留することは予定されていないと考えられる。
 なぜなら,上記「2」記載のとおり,著作権等管理事業法においては,使用料規程が届出制とされており,届出制のもとにおける使用料規程の実施の効果は,利用区分ごとの使用料の額等が明確化されるにとどまり,それを超えて,当該利用区分に係る個別具体の利用行為に著作権等が及ぶことを公に認めるというものではなく,当該利用区分に係る個別具体の利用行為に著作権等が及ぶか否かについては,著作権等が及ばないことが一義的に明らかである場合等は異なる扱いをすることがあり得るとしても,当事者間による協議,それが妥結しないときは最終的には司法の判断により決定されるということが予定されていると考えられるからである。
 翻って本件を見ると,別件訴訟における争点である相手方の請求権の存否については,法律分野に係る有識者からもその判断が容易ではない旨の意見陳述があったところであり,本件使用料規程については,少なくとも,著作権等が及ばないことが一義的に明らかである場合等(注3)には当たらない。このことを踏まえると,当該利用区分に係る個別具体の利用行為に著作権が及ばないと利用者代表が主張していることを理由として,文化庁長官に届出のあった使用料規程の実施を裁定によって保留することはできないと考えられる。
 以上のことから,申請人の求めるとおり,別件訴訟の判決が確定するまで裁定によって本件使用料規程の実施を保留することが妥当であると認めることはできない。また,このように,裁定によって本件使用料規程の実施を保留しなかった場合であっても,そのことは,当該利用区分に係る個別具体の利用行為に著作権が及ぶことを公に認めるものではなく,この点については司法判断に委ねられるものであることは上記のとおりである。

裁定は、くどくどしいくらい、音楽教室の音楽の利用行為に著作権法が及ぶかどうかについては司法判断にゆだねられるものであること、文化庁が著作権管理事業法で裁定するものではないと言っている。

裁定では正面から争いにはなっていないようであるが、仮にJASRACの利用料規程が高いか安いかを判断しようにも、司法判断が確定しないと無理だ、ということになるのであろうか(少なくともJASRACの利用規程が不当に高額かどうかは現時点でも裁定申請にはなじむと思うのだが、音楽教育を守る会が全面的に戦うという姿勢からすると、腰折れな争い方になるのでその係争方針はとらなかったものと思われる)。

なお、裁定の末尾において、文化庁は、JASRACに対して、かなり釘を刺している。長くなるが引用する。

 上記のとおり,裁定によって本件使用料規程の実施が認められるとしても,当該利用区分に係る個別具体の利用行為に著作権が及ぶか否かは司法判断に委ねられるべきものである。このため,確かに,相手方が本件使用料規程に基づき使用料徴収行為を開始する場合には,その態様如何によっては,申請人が指摘するとおり,当該徴収行為により社会的混乱が生じるおそれが考えられる。この点,相手方は,文化審議会著作権分科会使用料部会に提出した平成30 年2月1日付け文化庁長官宛文書において「演奏権が及ぶことを争う者に対しては,演奏権が及ぶかどうかの争いがある使用態様につき,司法判断が確定するまでは個別の督促(利用許諾契約手続の督促・使用料の請求)は行わない」こと(ただし,「演奏権が及ぶ(相手方の使用料請求権が認められる)との司法判断が確定した場合には,契約手続督促・使用料請求業務を保留していた音楽教室事業者に対しては,使用料規程が実施された日以降の使用料相当額を遡及して請求する」こと)を提案しているところであり,社会的混乱の回避のため,演奏権が及ばないと主張している音楽教室事業者に対する配慮が期待されるところである。また,演奏権が及ぶことを争わない者に対して使用料の請求を行う場合であっても,本件使用料規程において規定する料率を上限とし,利用者の利用の実態等を踏まえ,適宜協議を行うなどにより適切な額の使用料の額とすることも期待されるところである。
 以上のことを踏まえ,文化庁長官として,相手方に対し,本裁定とは別に,本件使用料規程の実施に当たって社会的混乱を回避すべく適切な措置を採ることを求めることとする。

特に最後の一文などは、予想以上に、余計なくらい、JASRACに釘を刺しに刺しているという印象を感じるのは私だけだろうか。

裁判官なら判決でこの最後の一文は書かないであろう。

一歩間違えれば蛇足である。

行政庁の裁定だからか、ある意味大岡裁き、というべきか、採決で行政指導をしているというべきか。

それ以上に、ほう、と感じたのは、

個別具体の利用行為に著作権が及ぶか否かは司法判断に委ねられるべき

という一文である。

これは、意外に意味が大きいと思われる。

音楽教室における練習に対して、「公衆に対する演奏」であるから著作権侵害である、と主張するJASRACの論理には、「味噌もくそもいっしょにして金をとろうとしている」という批判は、かなりの程度妥当せざるをえないと私は感じている。

なぜなら、音楽教室では、教師や生徒が楽譜を購入して使用料を払い、発表会ではホールやスタジオなど演奏会場の使用料を通じてJASRACに使用料を払っている。

つまり、仮に音楽教室が使用料を払っていない部分があるとすれば、通常は、先生と生徒、あるいは生徒単独での練習の場面くらいであろう。

「JASRACは、練習を、「公衆」に対する演奏と言うのか?」というのが、今回の音楽教室訴訟において疑問の生じる、重要なポイントなのである。

通常は、公衆は、鑑賞目的で聴きに来る公衆のことを言うし、そこに限定して事足りると思われる。この見解に絶対的・公権的解釈があるわけでは必ずしもないが、少なくとも長い間そういう感覚が世間では一般的だったと思われる。

社会通念上そうでしょう、というべきか。

もちろん音楽教室での演奏でも、発表会となると公衆に対する演奏だろうが、練習を鑑賞目的で聴きに来る公衆などというのは、仮にいたとしてもまれで(例えば3歳5歳の子供のレッスンに親が同席した場合に、親は公衆だというであろうか。さすがにJASRACもそうは主張しないだろう。あるいはグループレッスンで他の生徒の鳴らす楽器の音を聞いたものは聴衆だろうか。これもこじつけのように思われる)、それを理由にJASRACがレッスン料全般から利用料を取る理由になるのだろうか?というのが普通に沸く疑問である。

レッスン料というのは音楽家がレッスンをする指導の対価ではないのか。

せいぜいそこに場所代が入っている程度ではないのか。

そういう疑問が出て当然である。

こうやって細かく分析していくと、レッスンを「公衆に対する演奏である」と、言いくるめようとする、JASRACの請求は、一般人にとっては、詭弁に聞こえかねない微妙なものである。

JASRACが音楽業界のあちこちに使用料規程の網掛けを広げてきてことごとく勝訴してきたことは確かであるが、さすがに音楽教室の練習から徴収とは、まさか、長年誰もそんなことは考えたこともなかった、と思われてきた、理論的にも空白の領域であろう。

公衆に対する演奏と言うには、あまりにニッチでせこいところを狙って網を打ってきた、というのが、今回のJASRACに対する私の評価である。

なお、著作権法の法学者としての大家である中山信弘東京大学名誉教授が、音楽教室側で意見書を書いている。

https://music-growth.org/topics/180205.html

中山信弘教授は西村あさひ法律事務所に所属しているわけで、意見書自体が手前味噌と受け取られる可能性はあり、また思ったほど整理されていないようにも思えるが、示唆的な記述は多い。

少なくとも私は、生徒と先生の間での、本番でない練習における演奏を、公衆に対する演奏ということには、違和感があるを超えておよそ否定的である。

そこまでの保護が著作権法において想定されているとも思われないし、必要とも思えないということである。

著作権法が「音楽指導」により対価を得ている行為に対して著作物の利用であると定めているのであればさておき、著作権法にはそんな定めはない。

だからこそJASRACは、公衆演奏権を徴収の根拠に持ち出してきたのである。

指導であっても、最低限楽譜を買えばできると思われるところであるが、そもそもレッスンのときに生徒の持っている楽譜を少し見れば、その場で暗譜で鳴らしてしまうのが指導者というものである。

発表会など本番における演奏に対して、ホールやスタジオなどの使用料を通じて徴収すれば通常は事足りる(もちろん音楽教室がそういう設備を備えていれば徴収は可能と思う)というのが、社会通念に照らした常識的理解ではないかと思われるところである。

そもそも音楽教室の練習で音楽を習うものが増えるほどに教材となる楽譜の売上には貢献すると思われるのである。

楽譜を売るという行為には、これで練習してください、それには1人1冊買ってくださいという意味がこめられており、そこに、楽譜の所持者が練習することの許諾は含まれているであろう。

モーツァルトの時代から、作曲家は楽譜を出版して生業とし、他の音楽家がそれを教材として家庭教師などをして音楽指導に用いてきたわけで、でも、音楽を教える先生の報酬については楽譜代と別にその都度著作権法上の利用にあたるから作曲者に金を払え、などという理解は、およそ伝統的にそう理解されていたとは言い得ない。

JASRACは音楽教室だけでなく個人教授であっても将来的に徴収の例外ではないことをWebで宣言している。

2018年4月1日から楽器教室における演奏等の管理を開始することになりました(JASRACサイト)

http://www.jasrac.or.jp/news/18/0308_01.html

本件管理対象の範囲 
楽器メーカーや楽器店が運営する楽器教室を対象とします。これらの教室の管理水準が一定のレベルになるまで、当分の間、個人が運営する楽器教室については管理の対象としません。将来的に管理の対象と考えているのは、ホームページなどで広く告知や広告して不特定多数の生徒を常時募集しているような場合を想定しています。

個人の先生がホームページを持っていて、そこで生徒随時募集と書いてしまうと「不特定多数」というべきだからほぼアウトで、いずれJASRACから警告が飛んでくるようである。

レッスンにおいて、先生につかずに楽譜だけで独習できるのは、ほぼ音楽を生業とするプロである。

いや、独習だけで済むのは、さらにそのプロの一部だけであろう。

みんなが楽譜で独習できれば、プロの音楽家は指導者として食い詰めてしまう。

練習中にわずかに先生が生徒に手本をみせたら、というより指導に使うこと自体が公衆に対する演奏であるというのが、JASRACの見解なのである。

これまたニッチな極端な、ということになるのも当然である。

ただ、これを極端だと思うか当たり前と思うかは、裁判官の現場感覚にかかっているのかもしれない。

あるいは、音楽出版社は、楽譜に、「この楽譜は音楽指導には使えません。その場合は別途著作権者に利用料をお支払いください」と書き込むようになるのであろうか。

それが時代の変遷ということなのか。

著作権者集団のベースを構成しているプロの音楽家たちの生業を支えている音楽教室の、しかも本番ではない練習の場面だけを、公衆に対する演奏だとして使用料を取るというのは、一歩間違えれば、音楽業界の自殺にも近い。

一方で、モラルの低い音楽教室で楽譜を個人的利用の範囲を超えて違法コピーするようなことがあれば、それは著作権侵害となるわけである。

が、それを取り締まるべきであるという視点は、公衆演奏権の侵害とはおよそ別の問題であり、その償いに音楽教室に著作権使用料を払えと言うのは理屈として成り立たない無理筋であり、またJASRACもそんなことは言っているわけではない(JASRACが音楽教室において楽譜が違法コピーされる場合があることを音楽業界の自殺に等しいと苦々しく思っていた可能性はあるが)。

JASRACの収入に多少でもあずかれるような音楽家は極めて一部である。

一方、それを裾野で支える圧倒的にほとんどのプロは、音楽指導を生業にして暮らしている。

JASRACからの収入にあずかれるトップの音楽家たちも必ず裾野をくぐり抜けてきた立場であり、トップの音楽家たちは、裾野の音楽家たちに支えられる運命共同体においてたまたま上にたどり着くことができただけの幸運な(もちろん才能は必要であるが)存在である。

JASRACが踏み出したものは、音楽業界の自殺ではなく、ごく少数のトップによる裾野の搾取、なのかもしれない。

このJASRACの動きに対する、音楽家たちの複雑な思いが透けて見えるようである。

NHK受信料最高裁判決の衝撃

木曜日, 12月 7th, 2017

最高裁判所大法廷平成29年12月6日判決(受信契約締結承諾等請求事件)が、NHKの全面勝訴という結果で確定することとなった。

その結果はまさしく衝撃的な内容である。

何十年間未払いという人が、仮にNHKから訴訟を起こされ、判決が確定するところまで行ってしまえば、時効主張が全く認められないで敗訴してしまう、というものである。

つまり受信機を設置した日以降は、たとえ何十年分であっても、民法上5年で時効消滅したと主張することができない。

最高裁判決の全文は、pdfで以下の裁判所のサイトで読むことができる。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87281

特に重要なのは、判決文中、3か所である。

 

上記条項を含む受信契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合,同契約に基づき,受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生するというべきである。

 

受信料は,受信設備設置者から広く公平に徴収されるべきものであるところ,同じ時期に受信設備を設置しながら,放送法64条1項に従い設置後速やかに受信契約を締結した者と,その締結を遅延した者との間で,支払うべき受信料の範囲に差異が生ずるのは公平とはいえないから,受信契約の成立によって受信設備の設置の月からの受信料債権が生ずるものとする上記条項は,受信設備設置者間の公平を図る上で必要かつ合理的であり,放送法の目的に沿うものといえる。
したがって,上記条項を含む受信契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合,同契約に基づき,受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生するというべきである。

 

受信設備を設置しながら受信料を支払っていない者のうち,受信契約を締結している者については受信料債権が時効消滅する余地があり,受信契約を締結していない者についてはその余地がないということになるのは,不均衡であるようにも見える。しかし,通常は,受信設備設置者が原告に対し受信設備を設置した旨を通知しない限り,原告が受信設備設置者の存在を速やかに把握することは困難であると考えられ,他方,受信設備設置者は放送法64条1項により受信契約を締結する義務を負うのであるから,受信契約を締結していない者について,これを締結した者と異なり,受信料債権が時効消滅する余地がないのもやむを得ないというべきである。
したがって,受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権(受信契約成立後に履行期が到来するものを除く。)の消滅時効は,受信契約成立時から進行するものと解するのが相当である。

 

さて、もしこの裁判所の判例検索サイトのアクセス数を検証したら、史上最大のアクセス数をこの数日に記録することになるのではないかと思われる。

なにしろ、NHK受信料の推計世帯支払率は、平成28年度末で78.2パーセント(前年比1.3ポイント増)。テレビがあって契約しなければいけない推計4621万世帯のうち3612万世帯しか契約をしていないので、1000万世帯以上、2割強の世帯は契約をしていないままテレビを見ていることになる。

平成28年度 NHK受信料の推計世帯支払率

http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/otherpress/pdf/20170523.pdf

問題はさらにあって、ホテルなど各部屋にテレビがある宿泊施設である。

宿泊施設は1部屋1契約が必要となる。

ホテルの回転率、空き室率などは考慮してくれない。

まあ確かに住民でも毎日テレビを見ているわけではないとはいえる。

ただ、この論点については、別の裁判が係争中のようであり、最高裁での結論は出ていない。

が、なんとなく流れとしては宿泊施設側に厳しそうである。

2017年3月29日には東京地方裁判所の判決で、東横インに対し、過去最高の計約19億3千万円の支払いが命じられた。
http://www.sankei.com/affairs/news/170329/afr1703290030-n1.html

以下はNHKのコメント。
https://pid.nhk.or.jp/pid99/osk/000000/000001820.pdf

ついでであるが、今回の最高裁判決を受けたNHKのコメントがこれである。

https://pid.nhk.or.jp/pid99/osk/000000/000042197.pdf

なにより衝撃を受けておられると思われる層は、NHKの受信料の徴収員の来訪に対して長年、「うちは払わない」と言って、拒否し続けていたような世帯や、事業所と思われる。

この最高裁判決で、もしNHKが強気になれば、悪質な契約拒否者として把握している世帯から、重点的に、過去のテレビ設置時にさかのぼって支払いを求めてきて、「不満でしたら裁判を起こしますよ」と言ってくることは、十分ありうる。

残念ながら、弁護士が交渉しようにも法的な抗弁は立たない、下手をすればやぶ蛇、というのが、この最高裁判決後の状況判断になる。

さて、では、この最高裁判決を受けて、これまで未契約だったが自分からさらっとNHKを契約する人はどうなるであろうか。

最高裁判決によれば、「消滅時効は、NHKとの受信契約時から進行する」、ということなので、テレビを買い直すなどして、家電店でそしらぬ顔でNHKと契約をしてその月から払い始め、5年間NHKから何事も請求なく過ごせば、それで過去の分は一応時効消滅するだろう、という理屈になる。

でも契約しても一安心ではなくて、契約から5年以内なら、NHKとしては過去にさかのぼった全額が請求可能であり、「あの人は開き直っていた、徴収員を困らせていた、悪質だったから、今さら素知らぬ顔をしてもだめですよ、遡って請求します」ということはありうる。

今回の最高裁判決を読んでみて、現判決が維持されているだけであるから、ある程度予測はついた内容である。

NHK受信料が放送法により発生する特殊な債権であることから、放送法の規定ぶりにしたがって法律を論理的に順に当てはめていけば、判決で命じられてしまうと時効消滅の主張が認められないという結論になるという論理は、確かに形式論理の積み上げとしてはそういわれればそうなる、ということになる。

ただ、それを感覚的に首肯できるかというと、普通の契約上の債権債務の時効消滅と異質な法的論理の過程をたどっているので、かなり違和感がある。

浮世からいささか遠い最高裁判所の裁判官といえ、違和感がないはずはないだろう。

最高裁判所が、あえて、契約未了のNHK受信料債権については、時効消滅をさせない、という判断に至ったポイントは、速やかに受信契約をした者とそれを遅延した者との間で差が出るのはやむを得ない、という価値判断であろう。

最高裁判所として、全世帯の2割に対して、そう言い切るのは、ある意味、勇気が要っただろう、と思うが、最高裁大法廷の15人の裁判官中、反対したのは一人だけで、14人は賛成しているから、ほぼ不動の結論だったと思われる。

これでNHKが強気になったら、世の中が荒れるな、という嫌な予感はするところである。

NHKとしては、今回の最高裁判決は、さすがに勝ちすぎである。

勝って驕らず、と言う言葉がある。

弁護士として、自戒を持って身に染みる言葉である。

NHKのコメントは上記のとおり、一応謙虚なものである。

NHKも、そのあたりのバランスを取って、徴収率アップを図らないと、さすがに全国民の2割をまるごと敵に回してしまうと、NHKどころか、総務省や政府全体までが炎上してしまいかねないと思われるところである。

裁判所であったり法曹というのは、むやみに世間の目を気にして流されることなく超然と理に従って公正に判断するという素養が染みついてしまっているが、政府や政治家としては、そうもいかないだろう。

政治の世界の論理は、世間の目を気にして流される声が大きくなりがちな空間にあり、法律家の世界とは寄って立つ基盤が違っているからである。

なおNHK受信料は、全世帯が払わなければいけないわけではない。

免除制度(生活保護等公的扶助受給者、障害者の方の一部など)
https://pid.nhk.or.jp/jushinryo/taikei-henkou.html

別居する家族割引・別宅割引
https://pid.nhk.or.jp/jushinryo/FamilyPlanPostExp.do

事業所割引
https://pid.nhk.or.jp/jushinryo/jigyousyo-waribiki.html

などもある。免除や割引申請できるのに忘れている方がいるかもしれないので、ご一読をお勧めする。

米国腐敗防止法とサムスン

月曜日, 1月 16th, 2017

本日のニュースによると、韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領と友人の崔順実(チェ・スンシル)氏を捜査する特別検事が、2017年1月16日、贈賄容疑などでサムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長の逮捕状を裁判所に請求したとのことである。

昨年から、報道において、サムスングループ企業のサムスン物産と第一毛織の合併に関し、朴大統領がサムスン物産大株主で政府所管の国民年金公団を通じ合併のための便宜を図った見返りとして、崔順実氏がドイツに所有する企業「コレスポーツ」と220億ウォンに上るコンサルティング契約を結び、崔被告のめいのチャン・シホ被告が運営していた韓国冬季スポーツ英才センターに16億2800万ウォンの後援金を支払ったことなどの疑いが取り上げられ、問題視されていた。

国によって贈収賄の法制も認定も異なるため、一概に比較はできないが、日本であれば、崔順実氏の職務権限の壁を越えるのは簡単なことではないと思われ、このようなケースで贈収賄を起訴に持ち込むことは検察官が断念した可能性も高いように思われる。

一方で、以前から韓国社会で接待や賄賂が横行する風潮については批判が絶えず、その懸念が最悪の形で露呈したということなのかもしれない。

昨今の、韓国世論の朴槿恵大統領や崔順実氏に対する非難の声は、あまりに厳しく、韓国の検察としても世論の注視に抗しきれず、立件をしないわけにはいかなくなったのではないかと思われる。

サムスングループトップが贈賄罪で有罪になるかは、韓国の司法判断と、事実関係によるので、にわかに判断しようがないところである。

しかし、仮にサムスングループトップが、サムスングループの合併に関して贈賄罪で韓国で有罪になった場合、米国腐敗防止法(FCPA)の適用、それに関しサムスングループの経済的活動への重大な影響、という懸念が、顕在化する可能性が高まる。

そしてその韓国経済への影響は、甚大なものになる可能性がある。

米国腐敗防止法は、米国から見て外国の公務員への賄賂を米国法で処罰するものであるが、米国以外への域外適用の余地が非常に広く認められている。

藤川信夫「新たな国際汚職防止法の考察」 615ページ
http://www.law.nihon-u.ac.jp/publication/pdf/seikei/50_3/19.pdf
によれば、

株式または米国預託証券等の証券を米国証券取引所に上場している法人の場合、当該法人等およびその役員、取締役、従業員、代理人、株主(役員等)がFCPAの対象となる。

サムスングループは米国においても複数の子会社を上場させている。

他にも域外適用のルートは複数ありうる。

サムスングループのトップがサムスングループの事業に関し贈賄をおこなって韓国法で有罪となったとなると、米国腐敗防止法の域外適用を回避する可能性は極めて乏しくなるのではないか、と懸念を感じざるをえない。

もっとも、サムスン電子の広報部門は、サムスン電子は米国腐敗防止法の適用はない、とアナウンスしたようである。

サムスン電子のアナウンスをどこまで信じてよいものか、と感じる向きもあるだろう。

企業間取引の法務チェックの現場にいる弁護士の実感として、上場企業、外資系企業、輸出入関連企業はもちろんのこと、一見国内の中小規模の企業同士の取引であっても、取扱商品について上流下流の企業との関係から、米国腐敗防止法はじめ各国の腐敗防止法や贈収賄法規への抵触を禁止する条項を継続的取引契約で入れるのは、かなり当たり前になっている。

そういった契約条項では、仮に契約の相手方の企業の役員、従業員が腐敗防止法等に抵触すれば、無条件での契約解除や、取引打ち切りに関する損害賠償などが可能であることが定められている。

このような腐敗防止法抵触企業との取引解除ができることを広く定めるようになってきたのは、端的に、贈賄企業への経済的利益の提供により、共謀に問われることや、レピュテーションリスク、株主からの追及リスクを懸念するからである。

贈賄企業の株式を保有することも、リスクファクターとなる。

すなわち、現在のグローバル企業間の取引のスタンダードでは、贈賄企業との取引を強制解消して、取引関係を打ち切り、関係を遮断することが、社内コンプライアンスとなっているのである。

サムスングループトップが韓国内で有罪になったとすれば、サムスングループについて、米国の司法省による捜査は避けられないように思われる。

米国の司法省による、企業犯罪に対する厳罰化は、近年はなはだ厳しさを増しており、罰金や損害賠償合わせ数千億円単位の制裁が命じられている事例があとを絶たない。

しかしさらに問題なのは、サムスンは、アジアで最大規模のグローバル企業のひとつであることである。

サムスングループの経済規模は韓国経済の2割を占めるといわれているほどである。

サムスングループの取引先の大半も同様にグローバル企業であるから、米国腐敗防止法その他各国の腐敗防止法抵触の観点から、継続的取引契約を打ち切る可能性は相当程度見込まれると思うところである。

サムスンとの取引がサプライチェーン上欠くことができないような企業は、今回の報道を見て、社内コンプライアンスや契約条項との関係で対応をどうしたものか、頭を悩ませているものと思われる。

おそらくはサムスンだけに切るに切れず、というところであろう。

これが取引相手が中小企業で賄賂による立件騒動が起きたのであれば容赦なく切り捨てられるであろう。

しかしサムスン相手でも切りに行く取引先はあると思われる。

代替品が容易に調達できる製品やサービスならそうなるであろう。

サムスングループの販売する製品や商品で、BtoC、つまり一般消費者向けの商品であれば、売り上げへの悪影響はさほどではないかもしれない。

しかし、一般消費者向けの商品であっても、その部品調達ともなると、欧米日などの先端技術を持つ企業のサプライチェーンからの調達が不可避である。

そのサプライチェーンの企業らから取引遮断されてしまうと、商品供給に支障を生じることになるだろう。

BtoBとなると、取引遮断により、影響は深刻になる可能性がある。

さらに各国への官公庁購買における入札参加資格ともなると、サムスングループの排除は現実のものとなるであろう。

国によっては、米国腐敗防止法の適用などに動じない国家もあるかもしれない。

しかしそういった国の企業でも、米国での経済活動をしている場合は、リスクとは無縁でいられない。

財閥グループの寡占経済である韓国においても、特に、サムスングループにとっての打撃は、韓国経済への打撃に直結する。

他の財閥グループの類似事案掘り起こしによる贈賄罪立件の波及の懸念も高まることになる。

韓国の他の財閥企業グループもサムスンとの取引に躊躇せざるをえないことになる。

韓国経済への打撃が顕在化すれば、通貨安、外貨準備高の減少、とスパイラル的にダメージが拡大し、韓国通貨危機、さらに周辺アジア諸国への通貨安の波及もありうる。

おりしも日韓の通貨スワップ協定の協議も中断されてしまった。

しかしなぜか、昨年後半から年末年始にかけて、サムスングループへの贈収賄疑惑が取りざたされている中でも、サムスンの株価は下げるどころかじりじり上がり続けてきていた。

サムスングループの時価総額や利益額からして、着実な株価の上昇傾向自体はありうることであるし、むしろ市場心理が落ち着いているとすれば歓迎すべきことである。

しかしこれだけの不安材料があるなかでの最近の上昇傾向は、やや首をかしげるほどであった。

懸念が現実のものにならないことを祈るしかない。

その時は日本経済も無事ではないと思われるからである。

それにしても、韓国政治や、韓国マスコミの、全般的傾向としてのエキセントリックさ、振れ幅の大きさ、近視眼的傾向は、経済や安全保障も含めた国家的リスクを招いているように思われる。

対外勢力による煽動、政治工作に対しても脆弱にならざるをえない。

といって、そもそも財閥企業らによる極端な寡占経済、社会のゆがみ、その中での賄賂の横行が、国家経済にとって深刻なリスクファクターだったわけで、その弱点が露呈したと言えるわけだが。

押し売りならぬ「押し買い」に法の網

月曜日, 1月 6th, 2014

平成25年2月21日に施行された特定商取引法の改正により、自宅を訪問して宝石などの高額品を強引に安く買い取る商法が規制されることになった。

これまでの特定商取引法(特商法)は、訪問販売業者が「販売」する場合を規制していたので、買い取りの業態を規制するのはかなり画期的な改正である。宝石貴金属の訪問買い取り業者問題は、ニッチな業態でありながら、お年寄りなどに少なからぬ被害が続出して社会問題化していたので、訪問買い取り業者の訪問営業に法の網を掛けたのは大きな効果があるといえる。

宝石貴金属などの高額な家財の訪問買取を家人から呼ばれもしないのに回ってくるような業者は大半まともでないだろうというのが、規制の前提にあるということであろう。

規制の概要は以下のとおりであり、いずれもかなり強力なものである。特に不招請勧誘の禁止は強力である。また、書面交付義務の対象となる記載事項が要件を欠いたままの買い取り行為があれば、無期限にクーリングオフができる場合が多い。すなわち、買い取られたものの返還や、転買された場合には返還に代わる損害賠償ができるようになる。

但し除外品もある。四輪自動車、家庭用電気機械器具(携行が容易なものを除く)、家具、書籍、有価証券、CD、DVDなどである。自動車はすべての訪問販売規制の適用除外だから当然であるが、高額とはいえない商品もかなり広く適用除外されている。要するに、ある程度高額な商品の買い取り(宝石や書画骨董など)に関する規制であると考えればよく、よくある古本やCDの訪問買い取りまでは規制しないということである。

また、消費者が自分から買い取り業者に連絡して自宅での訪問買取を希望した場合なども、除外である。転居に伴う売却や一定の常連として反覆買い取りの実績がある場合も適用除外である。

規制内容は以下の通りであり、罰則としては刑事罰もある。違反すれば多くの場合に無期限でクーリングオフできるのが民事上の効力としては強力である。

1 不招請勧誘の禁止

来てくれと言われていないのにいきなりピンポンとドアベルを鳴らして訪問すること自体が禁止された。消費者から売却を申し出られた以外の物品の買い取りの勧誘も禁止された。

2 勧誘目的の明示

買い取り業者は、勧誘に先立って、事業者名や勧誘する物品の種類などを明示する義務を負うことになった。

3 勧誘意思の確認義務

消費者から訪問の要請を受けて訪問してた場合も、勧誘に先立って、勧誘を受ける意思があるかを確認しなければならなくなった。

4 再勧誘の禁止

一度取引を断った消費者への再勧誘が禁止された。

5 書面の交付義務

買い取り業者は物品の種類や特徴、購入価格、クーリング・オフ事項などが記載された詳細な書面を交付する義務を負うことになった。これに違反した場合は、無期限にクーリングオフができる。

6 引渡しの拒絶

消費者はクーリング・オフ期間中(書面交付から8日以内)は物の引渡しを拒める。買い取り業者はこれを書面記載して交付しなければならない。

7 クーリング・オフ

法律の要件を満たした書面交付から8日以内であれば、無条件で買い取り業者との契約の申込み撤回(いわゆる解除)ができる。