Archive for 12月, 2013

最高裁判決 性転換後の父親に嫡出推定を認める

月曜日, 12月 16th, 2013

最高裁判所第三小法廷平成25年12月10日判決が、性別適合手術(いわゆる性転換手術)を受けて女性から男性へ戸籍を変更した者が結婚して妻との間に他人の精子で子供を設けた場合に、その子に、嫡出子としての推定を認めた。

その最高裁判決を読んでみた感想である。

(以下引用)

抗告人X1は,生物学的には女性であることが明らかであったが,特例法2条に規定する性同一性障害者であったところ,平成16年に性別適合手術を受け,平成20年,特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者である。
(中略)
特例法4条1項は,性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,民法その他の法令の規定の適用については,法律に別段の定めがある場合を除き,その性別につき他の性別に変わったものとみなす旨を規定している。したがって,特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,以後,法令の規定の適用について男性とみなされるため,民法の規定に基づき夫として婚姻することができるのみならず,婚姻中にその妻が子を懐胎したときは,同法772条の規定により,当該子は当該夫の子と推定されるというべきである。もっとも,民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,その子は実質的には同条の推定を受けないことは,当審の判例とするところであるが(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁,最高裁平成8年(オ)第380号同12年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事189号497頁参照),性別の取扱い- 4 -の変更の審判を受けた者については,妻との性的関係によって子をもうけることはおよそ想定できないものの,一方でそのような者に婚姻することを認めながら,他方で,その主要な効果である同条による嫡出の推定についての規定の適用を,妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に認めないとすることは相当でないというべきである。そうすると,妻が夫との婚姻中に懐胎した子につき嫡出子であるとの出生届がされた場合においては,戸籍事務管掌者が,戸籍の記載から夫が特例法3条1項の規定に基づき性別の取扱いの変更の審判を受けた者であって当該夫と当該子との間の血縁関係が存在しないことが明らかであるとして,当該子が民法772条による嫡出の推定を受けないと判断し,このことを理由に父の欄を空欄とする等の戸籍の記載をすることは法律上許されないというべきである。(2) これを本件についてみると,Aは,妻である抗告人X2が婚姻中に懐胎した子であるから,夫である抗告人X1が特例法3条1項の規定に基づき性別の取扱いの変更の審判を受けた者であるとしても,民法772条の規定により,抗告人X1の子と推定され,また,Aが実質的に同条の推定を受けない事情,すなわち夫婦の実態が失われていたことが明らかなことその他の事情もうかがわれない。したがって,Aについて民法772条の規定に従い嫡出子としての戸籍の届出をすることは認められるべきであり,Aが同条による嫡出の推定を受けないことを理由とする本件戸籍記載は法律上許されないものであって戸籍の訂正を許可すべきである。5 以上と異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,抗告人らの本件戸籍記載の訂正の許可申立ては理由があるから,これを却下した原々審判を取り消し,同申立てを認容することとする。

長い引用になってしまったが、この最高裁判決の核心はどこにあるのだろう。

嫡出推定というのは実子と推定するということである。しかしながら、この場合は、遺伝子的、生物学的には、実子でないことは容易に証明できる、自明なことである。つまり推定は簡単に覆せる。役所の戸籍係にもそれは自明のことであった。上記の最高裁判決自身が述べるように、遠隔地に居住していたり別居して夫婦の実態がない場合の子については最高裁自身も嫡出推定を覆して否定する場合もあるのだから、戸籍係がそれに準じて嫡出子としての届出を不受理にしたこと自体は無理もないのである。

さて、たとえば、性転換した父が死んだ後、父の親や兄弟が相続分を主張して「あの子は実子ではない」という理由で、訴えを起こした場合はどうなるだろうか。結論は、父の親や兄弟が敗訴することは明らかだろう。

嫡出否認の訴えは1年で除斥期間にかかるからである(777条)。

(嫡出否認の訴えの出訴期間)
第七百七十七条 嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から一年以内に提起しなければならない。

では一年以内にこの父が死亡した場合はどうか。しかしながら、この場合は、父は嫡出の承認(776条)をしているに等しいともいえるところ、

(嫡出の承認)
第七百七十六条  夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。

最高裁判決の理屈でいえば、生物学的に父子でなくても嫡出の承認ができるということになるので、そもそも父の親兄弟が嫡出否認の訴えを提起することはむしろ不当で許されないということになるだろう。

さらに言えば、今後は、このように子供をなして夫婦の子として届け出たあとで夫婦が急に不和になって夫が一年以内に嫡出否認の訴を起こしたとしても、嫡出の承認をした場合に準じて、夫からの請求は否定されることになると思われる。

そもそもこの父が生まれた子を養子とすれば嫡出子と同等の相続権は認められる。さらに伏線として、そもそも嫡出子と非嫡出子の相続分の差自体が、最高裁平成25年9月4日判決で否定され、今国会の法改正によって決着が付いた。さらに遡れば、昭和62年に導入された特別養子縁組制度は、実際には養子なのに、実子として戸籍上表示できる制度である。

このような状況で、「生物学的に実子ではないから嫡出子でない」と言ったところで、戸籍制度が実子でないとわざわざ生物学的な戸籍記載を強制する意味があるのか、というのが、最高裁の支配的感覚だということであろう。

そもそも、戸籍制度はほとんど世界には存在しない。台湾、韓国など、戦前に日本法が適用された国くらいのものである。戸籍の記載の生物学的正確性にこだわるのではなく、父親が嫡出子だという意思を表明することが、嫡出子だという届出には必要十分だという価値判断が最高裁の裁判官の感覚にも働きつつあるということなのであろう。

この最高裁判決自体には、世間は驚くだろうが、私はあまり違和感はない(賛成か反対かと言われるとどちらでもない)。しかしながら他のケースにはどう影響するのだろう。たとえば、過去、最高裁は、自分の卵子を受精させて他の女性に産んでもらう、いわゆる代理母・借り腹という形式の出産では、実母としての戸籍の届出を認めなかった。いわゆる向井亜紀さんの裁判であり、最高裁平成19年3月23日判決である。この事例では、最高裁は、「立法による速やかな対応が強く望まれる」としながらも、東京都品川区の出生届の受理を命じた東京高裁決定を破棄し、受理は認められないとする決定をした。

2つの最高裁判決は、一貫していないように感じるのは私だけではないと思う。今回の最高裁判決の事例とのバランスでいえば、向井亜紀さんが、生物学的に自分の実子であることを証明しているのに、出産を代行してもらったことをもって戸籍上の記載を実子とさせないことを国が強制することが妥当なのか?

今度向井亜紀さんと同じ事例が係属した場合に、最高裁判決はどのような判断を下すのであろうか。次は最高裁判決が変更される可能性は十分にあるなと思うところである。

日本の戸籍制度はある意味世界におけるガラパゴスである。

さらにその記載に是非に拘泥して精緻な法解釈と裁判例を積み重ねて進化を重ねる日本の戸籍制度のダイナミズムは、外国から見るとまさにガラパゴス的進化なのかもしれない。

しかし一方で、戸籍制度をガラパゴスと一蹴してしまっては、日本の戸籍制度の実質がいろんな意味で崩れていくことにもなる。そうなると逆に国民感情的・政治的揺り戻しが起きる可能性も出てくるわけで、やはり取扱いが微妙な問題なのである。

以下の木内道祥裁判官の補足意見がわかりやすい。

木内道祥の補足意見は,次のとおりである。
1 私は,多数意見に賛同するものであるが,以下のとおり私の意見を補足して述べる。
2 民法772条の推定の趣旨
母子関係は,婚姻の有無にかかわらず分娩により定まることが判例上確定した解釈である。分娩は外形的にも第三者にも明らかな事実であり,それによって,一義的に明確な基準によって一律に母子関係が確定されることになる。父子関係は,分娩に該当するような外形的にも第三者にも明らかな事実が存在しないため,民法772条という婚姻による推定の制度が設けられている。この推定は,嫡出否認の訴えによらなければ覆すことができないものであり,証拠法則上の推定に留まるものではない。民法772条が出生時の母の夫を父とするのでなく,婚姻成立の200日後,婚姻の解消等の300日以内の出生をもって婚姻中の懐胎と推定し,婚姻中の懐胎を夫の子と推定したのは,親子関係が血縁を基礎に置くことと子の身分関係の法的安定の要請を調整したものと解される。夫婦の間の子の父子関係については,同条の定めによる出生に該当するか否かをもって父子関係の成立の推定を行うことにより,血縁関係との乖離の可能性があっても,婚姻を父子関係を生じさせる器とする制度としたものということができる。このような嫡出推定の制度によって,嫡出否認の訴え以外では,夫婦の間の家庭内の事情,第三者からはうかがうことができない事情を取り上げて父子関係が否定されることがないことが保障されるのである。
3 推定の及ばない嫡出子
民法772条の解釈として,婚姻成立の200日後,婚姻の解消等の300日以内に出生した子であっても,嫡出推定が及ばないとされる場合があることは従来の判例の認めるところである。「実質的には同条の推定を受けない事情」と多数意見が総称する事情とは,多数意見においては,夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住していたことが明らかなことであり,反対意見においては,夫婦間に性的関係を持つ機会がないことが明らかなこととされている。二つの意見が相違するのは,父子の血縁関係を一方の極に置きつつ,血縁関係の不存在が何をもって明らかであれば嫡出推定を及ぼさない事由となるのかという点においてである。血縁の不存在の確定的な証明があれば嫡出推定が及ばないとする見解があるが,これは,結局,血縁のみによって父子関係を定めるということであり,民法772条の推定の趣旨に反し,賛同できない。本件は夫が特例法の審判により男性とみなされる者であるから嫡出推定が及ばないとするのが,反対意見であり,これは,特例法の審判(ないしその審判が認定した事実)の存在によって血縁の不存在が明らかであることを嫡出推定を排除する事由とするものである(なお,この審判が戸籍に記載されるのは戸籍法施行規則の定めによるものであり,戸籍記載をもって明らかであることを民法772条による推定排除の理由とするべきではない)。特例法は,元の性別の生殖腺がないこと等を要件としているが,このことは,客観的に確実であっても,第三者にとって明らかなものではない。特例法で性別の変更をした者の元の性別も,必ずしも第三者にとって明らかなものではない。前記のとおり,民法772条による推定の趣旨は,嫡出否認の訴えによる以外は夫婦の間の家庭内の事情,第三者からはうかがうことができない事情を取り上げて父子関係が否定されることがないとすることにあるのであるから,血縁関係の不存在が明らかであるとは第三者にとって明らかである必要があるが,夫が特例法の審判を受けたという事情は第三者にとって明らかなものではなく,嫡出推定を排除する理由には該当しない。従来の判例において嫡出推定が及ばないとされたのは,事実上の離婚をして別居し,その後まったく交際を絶っていた事案(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁),懐胎当時,夫が出征していた事案(最高裁平成7年(オ)第2178号同10年8月31日第二小法廷判決・裁判集民事189号497頁)であり,いずれも,第三者にとって明らかであることを嫡出推定を排除する理由としたものである。
4 子の利益の観点から
子の利益という場合,抗告人らの子にとっての利益だけでなく,今後に生まれるべき子にとっての利益を考える必要がある。「実親子関係が公益及び子の福祉に深くかかわるものであり,一義的に明確な基準によって一律に決せられるべきである」(最高裁平成18年(許)第47号同19年3月23日第二小法廷決定・民集61巻2号619頁参照)というのもその趣旨と解される。子の立場からみると,民法772条による嫡出推定は父を確保するものであり,子の利益にかなうものである。嫡出推定が認められないことは,血縁上の父が判明しない限り,父を永遠に不明とすることである。夫がその子を特別養子としたとしても,そのことは変わらないし,出生後に夫婦間に意思の食い違いが生ずると子が特別養子となることも期待できない。子にとって血縁上の父をもって法律上の父とする方法がないことが子の利益にとってマイナスに作用することがありうるであろうが,この点は,父を確保することとの衡量を制度上にどのように反映するかという問題であり,今後の立法課題である。また,血縁関係がない夫が子の法律上の父とされることから,血液型・DNA検査などにより,偶然に,子が父と血縁がないことを知るという事態が生じ,子にとって不本意な葛藤を与えることがありうるが,これは,特例法による夫婦の登場によって生じたものではなく,民法772条の推定から不可避的に生ずるものであり,生殖補助医療の発達により,さまざまな場面であらわれていたことでもある。戸籍上の記載を現行制度から改めたとしても,近時の血縁関係の判定手法の発達普及を考慮すると(血縁関係の判定を法律上で禁止することができるのであれば別として),意図せざる判明の可能性は高まるばかりであり,この点についての子の利益は,子の成育状態との関係で適切な時期,適切な方法を選んで親がその子の出自について教示することにより解決されることという他ない。
5 特例法と民法の関係
特例法は,性別の取扱いの変更の審判によって民法上でも性別が変更されたものとみなすというものであるところ,民法が想定する婚姻・親子,特例法が想定する婚姻・親子がどういうものであるかについて意見が分かれることは,本件の各意見にあらわれているとおりである。特例法の想定の範囲はともかく,民法についていえば,高度化する生殖補助医療など立法当時に想定しない事象が生じていることはいうまでもない。それに備えてきめ細かな最善の工夫を盛り込むことが可能であるのは立法による解決であるが,そのような解決の工程が予測できない現状においては,特例法および民法について,解釈上可能な限り,そのような事象も現行の法制度の枠組みに組み込んで,より妥当な解決を図るべきであると思われる。

就業規則を作る(3) 36協定

土曜日, 12月 14th, 2013

就業規則は、従業員10人に達した時点で作らないといけない。

しかし、36協定(サブロクきょうてい)は、従業員1人でも残業をさせる場合には必ず作らないといけない。

作らないと刑事罰(普通は罰金)を受けてしまう。

罰金になるということは、労働基準監督署からなにかの理由で調査されることになったら、36協定がないだけで、たちまち検察庁に送検されてしまうことでもある。

もちろん、さらに労働基準監督署から是正勧告という行政処分も受ける。

労使紛争になってから、実は作っていませんでは、労働組合や労働者のクレームには耐えられない。従業員ともめてしまってからでは、調印に必要な従業員代表を選ぶ段階から暗礁に乗り上げてしまう。執拗な抵抗にも遭うし、条件闘争の1つの材料にされてしまう。

その間、時間外労働のルール作りができず、つまり時間外労働が一切できず、ヘタをすると業務が止まってしまう。

では、36協定ってどうやって作るんですか、と聞かれる。

これもやはり、東京労働局のWord形式の書式がある。

時間外・休日労働に関する協定届(36協定)

http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/36_kyoutei.html

記入例に従い、必要事項を埋めていくことである。これまでプロの手が必要とは思わない。

記入例の手引きは、下記のサイトの説明のほうがわかりやすい。

労務安全情報センター(新36協定の記載例と届出心得) http://labor.tank.jp/rouki/36_kisairei.html

就業規則を作る(2) モデル就業規則

土曜日, 12月 14th, 2013

さて、実際に就業規則をどう作っていけばよいのだろう。 実は、厚生労働省がWord形式のひな形を作っている。

厚生労働省 モデル就業規則について

(全体版) http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/model/

これは、そのまま使ってはいけないが、実によくできている。 これに手を加えていけば、十分なものに仕上がる。

但し、「そのまま使ってはいけない」というのが大事なところである。

ほとんどの会社では、これをそのまま使うとかなりあちこちで不都合が起きる。 会社側が想定していないような労働者有利な事態が起きてしまうのである。 どんな不都合が起きるかは、ひとつひとつ潰していくしかない。

あと気になるのは、懲戒事由の定め方がやや甘い。

具体的には、そこが労使紛争のプロが手を加えていかなければならない部分である。

ATOKを使う理由

水曜日, 12月 11th, 2013

日本語IMEというとどれを使っていますか? という質問は、最近、流行らなくなってしまった。それくらいに、Windowsパソコンなら標準で付属しているMSIME、スマホならGoogle日本語、といったIMEが定番になってしまった。

しかしながら、私はいまだに、というかおそらくこれからも、ATOKを使い続けるだろう。なぜか。理由は2つある。

1.キーカスタマイズの設定環境が簡単に引き継げる

ATOKは、キーカスタマイズの設定環境を、簡単にファイル(****.STY)に出力できる。この設定ファイルは、ATOKのバージョンが新しく変わっても必ず取り込んで引き継げるように上位互換性が確保されている。

MSIMEでキーカスタマイズすると、設定ファイルはWindowsのレジストリに隠れてしまい、探し出すのに恐ろしく苦労する。しかも、バージョンが違えばもう移行は不可能に近い。やってやれないことはないようだが、IMEのヴァージョンごとでいちいちやり方が異なり、煩雑窮まり無い。バージョンごとに設定のやり方も変わる。つまりPCを入れ替えるともう引き継げない。果てはPC一台ごとにキーカスタマイズを設定しなければいけないことになる。マイクロソフトはユーザーのことを考えていないダメなソフトメーカーだと思う典型的な場面である。

2.辞書ファイルの場所が極めて分かりやすい。

ATOKのユーザー辞書の場所はわかりやすく、

C:\Users\(ユーザー名)\AppData\Roaming\Justsystem\atok23(バージョンによって名称が変わる)

を探せばよい。バージョンが23なら、ATOK23U1.DICが辞書ファイルである。 場所がすぐにわかるので、定期的なバックアップもバックアップソフトでのフォルダの指定が極めて簡単である。

つまり、PCが変わってもキーカスタマイズされた入力環境と辞書登録や学習内容が統一できるので、何台もPCがあったり、OSのバージョンがバラバラでも、簡単に入力環境を統一できるので、ストレス無く入力できる。これは、文章書きにとっては代え難い。MSIMEではこうはいかず、設定や辞書の移行に四苦八苦してしまうのである。

私は、PCを使い始めて20年以上になるが、はじめに使っていたIME(当時はフロントエンドプロセッサ=FEPといった)は管理工学研究所の「松茸」であった。そのころから、法律用語や京都の地名辞書を地道に強化し、松茸なき今はATOKに引き継いでいる。20年間かけて育て続けることができた辞書の価値ははかりしれない。ATOKのおかげである。もっとも、松茸のほうが使い勝手は良かったと思うこともあるが、それは昔話が過ぎるのでおこう。

何度か、MSIMEを試してみたこともあるが、正直、ATOKの使い勝手にはとても及んでいない。すぐに嫌になって、そのたび、すぐに使うのをやめてしまった。

昨年になって、ジャストシステムから、月額300円で10台まで、Windows、Mac、Android端末にATOKの最新版がインストールされるという、Atok Passportが発売された。

https://www.justmyshop.com/products/atok_passport/

これを入れてしまえば、いよいよ、OSの種類まで関係なくなる。タブレットでもスマホでも可である。iPhoneはだめだけれども。

ライセンスの本数をあまり気にすることもなく、社内全体を、同じ入力環境、辞書環境で統一できる。ストレスがない。いい時代になったものである。

就業規則を作る(1) 従業員が10人になる前に

木曜日, 12月 5th, 2013

顧問先の企業からも、それ以外の企業からも就業規則のチェック、修正の依頼をよく受けます。労働者との紛争(解雇無効や残業代請求)が生じてから慌てて駆け込んでこられることが多いですが、頭を抱えることも多い、それが経営者側で労働事件を受けるスタンスを採る弁護士の宿命です。

従業員が10名以上になると就業規則を作る義務が発生します。
経営者には「10名になるまでは作らない」という選択肢もあります。それはそれで賢明な場合もあります。10名になる見込みも当分ない会社に、無理に作ることを勧めるのは、社会保険労務士や弁護士の商売にはなっても、かえって会社には害をなすこともありうるからです。

しかし、事業が順調に行き、将来的に10名に届く可能性が出てきたという場合には、早めに作った方がよいです。従業員が増えるほど、従業員の在籍年数や世代、家族構成にばらつきが生じ、従業員それぞれの思惑がバラバラになっていきます。そうなってから就業規則を定めるのは、意外にあつれきを生むものです。

大昔に作られた就業規則を、まずいから見直してくれと言う依頼はよくあり、こういう仕事はやりがいもありますが、あつれきや不利益変更への抵抗が起きて、実に大変な仕事です。

なによりも、一から作るときに、よくよく考えて、作りましょう。後悔しないために。

さて、就業規則を作るときに、一から社会保険労務士や弁護士におまかせして作ってもらいますか?
結論をいえば、「労使紛争に精通した弁護士と、細かな労働法規に精通した社労士が、経営者としつこいくらい意見交換しながら作るのがよい」のです。

労働事件が裁判にまで発展しなくても、ひやっとするような人間関係トラブルを経験したとき、こういうときが、問題意識が高まっており、いい就業規則を作成するチャンスになります。

注意すべきは、弁護士で、労働紛争に精通した弁護士というのは意外に少ないものです。特に会社側の立場で精密なアドバイスをしてくれる弁護士というのは少ないものです。一方で、社会保険労務士に任せきりにしてしまって、いい就業規則ができるとは限りません。かなり昔に作られたという就業規則をみせていただいて、とんでもなく労働者側に有利になっているという就業規則を、よくみます。これは、社会保険労務士が、「一般的にはこんなものですよ」という感覚で、他社で使っている就業規則(それが労働者に非常に手厚い大企業の就業規則だったりします)をコピーしていたものだった、ということが多いようです。

経験の少ない社会保険労務士が「とにかく安く作ります」「すぐ作ります」と言ってもむやみに信用はしないことです。他社の就業規則の引き写しは、いい就業規則になりません。税理士事務所に所属する、経験の浅い社労士が、事務所にあるひな形を使ってサッとつくる、これも必ずしもよくありません。様々な類型の労働紛争というものを心底シビアに経験していないうちは、資格者であっても、就業規則を作る怖さはわかりません。

労使紛争に精通している弁護士にとっても、恐ろしく細かい法規の整合性をとって一から十まで就業規則を作る作業は、簡単なことではありません。
さらに、企業の先を見据えて行き届いた完成品ができる弁護士というのはごく少数だと思います。少なくとも、弁護士も、社労士でもそうですが、経営者の人となり、事業の実態、従業員構成などを相当に咀嚼して理解していないと、いいものはできません。
10年先、20年、30年先にも不都合の起きないように先を読んだ就業規則、後継者の息子や娘の代になって古参の従業員とのあつれきで後継者を困らせることのないように配慮した就業規則、それが、質の高い就業規則です。

長期経営戦略の立案のなかで、質の高さを求めるべき最たるもの、それが就業規則です。「社員を急に増やす必要があって10名になりそうだから」などとあわてて安物を作らないように、くれぐれも気をつけてください。

Office2010、Office2007を使えるようにする クラシックメニューアドイン

木曜日, 12月 5th, 2013

Windows8以前に、マイクロソフトがおこなったインターフェース改悪の最たるものが、Office2007でのインターフェース改悪だった。 リボンというメニューを導入したのだが、ほとんどの人が、これまでの機能がどこに再配置されたか移動先がさっぱり分からず、大混乱に陥った。 いまだに、かなりの機能の移動先が分からない機能がある人は、多いのではないだろうか。

それを解決したのが、フリーウエアの、 Office 2007-2010 オールドスタイルメニュー

http://www.forest.impress.co.jp/docs/news/20120223_514076.html

だった。このアプリをインストールすれば、Office2000や2003の形のままの見慣れたメニューがリボンのタブの1つとしてよみがえる。快適で、ぜひ導入したいアプリケーションである。

Windows8.1を使えるようにする(2)デスクトップ初期起動編

水曜日, 12月 4th, 2013

Windows8.1は、起動するとタイルのような四角い大きなアイコンが並んだメトロUIというのが最初に立ち上がる。その左下の「デスクトップ」をクリックして初めてデスクトップ画面が立ち上がる。 メトロUIはまず使わないので、スキップしてデスクトップ画面を初期起動したい。

方法はいくつかあるが、2つを紹介する。

(第1の方法)

(1)デスクトップ画面に切り替えた状態でタスクバーを右クリック、「プロパティ」を選択

(2)開いた「タスクバーとナビゲーションのプロパティ」画面上部で「ナビゲーション」タブを選択

(3)「ナビゲーション」画面の中頃にある「スタート画面」項目から「サインイン時または画面上のすべてのアプリを終了したとき、スタート画面ではなくデスクトップに移動する」を選択

(4)「OK」をクリック、パソコンを再起動して確認

(第2の方法)

(1)テキストエディタ(秀丸エディタやnotepad)で、「デスクトップの表示.scf」という名前の空のテキストファイルを作る。

(2)そのテキストファイルの中に以下のように記述する。

[Shell]

Command=2

IconFile=explorer.exe,3

[Taskbar]

Command=ToggleDesktop

(3)上書き保存する。

(4)Windowsのスタートアップのフォルダにこの「デスクトップの表示.scf」を入れる

Windows8.1を使えるようにする(1)スタートメニュー編

火曜日, 12月 3rd, 2013

WindowsXPが2014年4月でサポートを終了し、ネット接続環境での使用は危険でできなくなる。そこでWindows8に移行することになる。が、なんとも評判が悪い。私もこれまでWindows8には手を出さないできたが、なにぶん、7では、サポート期間切れを起こすおそれもあるので、Windows8.1が出た段階で、挑戦することにした。

Windows8.1がダメな理由ははっきりしている。 1.スタートメニューがない 2.それ以前にデスクトップ画面が最初に立ち上がらない この2点である。あとは、そこまでいうほど悪くはないと思う

しかしこの2点が、Windows7までのバージョンを使っていた者にとっては、これは苦痛でしかない。 マイクロソフトは、Micorosoft Office 2007でリボンなるインターフェースを採用して旧来型メニューを廃止し、ユーザーを大混乱に陥れた。それをWindowsでまでやってしまったのが、このWindows8.1である。

マイクロソフトがこうやったときの対応は決まっていて、旧来型のスタートメニューを復活させる設定やアプリケーションを探す、ということになる。

旧来型のスタートメニューを復活させるにはどうしたらよいか。

実はWindowsの設定をいくらいじっても、復活してくれない。

アプリケーションを導入するしかない。

選択肢はいくつかあるが、出来のよさで1択することでほぼ疑問の余地がないのがフリーウエアの Classic Shell

http://www.forest.impress.co.jp/library/software/classicshell/

である。日本語化されており、ほとんどXPと同様のクラシックなスタートメニューを手に入れることができる。もちろん7風にもできる。

少なくともこれで、会社のスタッフが「電源をどうやって落としたらよいかわからない」と言って混乱に陥ることはないだろう。

山本太郎議員の園遊会問題

月曜日, 12月 2nd, 2013

この話題を出すと右派からも左派からも政治的にとられるので、ビジネス法務の世界に住む弁護士が触れるのは損な話題であるが、いろんな論説を読んでも今ひとつしっくりこないので、自分からの視点で書いてみたい。

1.天皇には国政の権能に属することでコミットメントを求めてはいけない

日本国憲法にてらしてあたりまえのことである。

第3条  天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。

第4条  天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。

山本太郎議員に対する批判として、「手紙を渡すのは天皇の政治利用だ」というものがある。私は「政治利用」という言葉には、微妙に違和感がある。 むしろ「国政の権能に属する政治的課題について、天皇にコミットメントを求めた」ことが、日本国憲法にてらして、許されないのである。これは、戦前への反省から日本国憲法の大原則として定められたことであり、右派も左派も共通の理解である。

次に、山本太郎批判に対し、自民党政権が、高円宮妃久子をブエノスアイレスのIOC総会でスピーチをさせたり、主権回復の日記念式典に出席させたといって、逆批判する向きがあるが、この逆批判はまるで的外れだと思う。そんなことを非難したら、皇室が出席する政府行事やスポーツ振興関係の式典など大半がアウトである。冷静にみて政治的コミットメントとはとてもいえない。そして内閣の助言に基づいている。それだけのことだと思う。

2.天皇陛下に秘密保全法反対を訴えたこと

私が、山本太郎議員の行動で特にまずいと思うのは、以下の点である。 以下の東京スポーツのWebサイトでインタビュー記事が載っている。

http://www.tokyo-sports.co.jp/nonsec/social/200284/

内容は?

山本:子供たちの被ばくや健康被害が福島だけではなく、この先、他にもたくさん出てくることや食品の安全基準が低い問題、  原発の高線量エリアで働いている作業員たちの健康や放射線管理があまりにずさんな話などです。また秘密保護法も通ってしまえば、権力者にとって原発事故も含め、都合の悪いことは隠されてしまい、戦前に逆行している、と。

 

なんで、天皇と秘密保全法が関係あるのだろう?全く理解不能である。山本太郎は宇宙人なのか。鳩山由紀夫のようなものかもしれない。戦前に逆行しているというなら、天皇制を否定し反発する方向にベクトルが働くだろうに、逆に天皇にわかってもらいたいと言って毛筆の巻き物で上奏するように信書を送るのだから、失笑するしかない。

マスコミの報道で、山本太郎議員が秘密保全法反対を天皇陛下に訴えたことは、驚くほど無視され、スルーされている。

マスコミは、第4の権力と言われるが、自らの基盤をゆるがすおそれのある制度改正には一致して反対してつぶしにかかる。たとえば、新聞の価格をカルテルで維持する再販制度の廃止には徹底して抵抗する。新聞社が、テレビ・雑誌・ネットなどのマスメディアのバランスで再販制度の是非を語ることは、今後もないだろう。若者の新聞離れはもはや絶望的なまでに進んでしまっているが。

秘密保全法反対の論調で、今マスコミは一色である。賛成論などは微塵もマスコミでは取り上げられることはない。反対となると大きく取り上げられる。わかりやすい。こればかりは右寄りと思われるメディアも反対一色である。これは単純な話で、マスコミが取材しにくくなる秘密保全法をつぶそうとするのは、自己保存本能による当然の生理的行動である。

公務員の守秘義務違反には今でも最高で懲役1年が課されるが、会社から企業秘密のコピー紙を持ち出しても窃盗だから最高で懲役10年である。民間企業であるメーカーも新聞社も、その程度には刑法で保護されている。そもそも公務員がコピー不可の役所の資料をこっそりコピーして持ち出せば窃盗罪で最高刑10年である。それが公務員が国の秘密を漏らすのは最高で懲役1年でなければ国民の知る権利が制限されけしからんというのは、冷静に考えればバランスがとれていない。果ては大新聞が、日本には守らなければならない秘密などない、とまで平然と書き立てる。 秘密保全法問題は、マスコミの報道は割り引いて考えなければいけない典型例であろう。

そんなマスコミの潮流一色のなかで、山本太郎議員が秘密保全法反対を天皇陛下に訴えたというのは、行為自体が常識外れでとても支持できることでは無いが、さりとてマスコミとしてはそれ自体を糾弾もしがたい。だから、秘密保全法反対を天皇陛下に訴えたという点はあえて無視して、スルーするのであろう。

3.毒物入りの手紙だったらどうする?

2003年11月 ホワイトハウスで手紙に封入されたリシンが検出。

2013年4月 バラク・オバマ大統領宛の手紙の中にリシンが混入されていることをシークレットサービスが発見。

2013年5月 ニューヨークのマイケル・ブルームバーグ市長あて手紙からリシンが検出。

 

アメリカで大統領などの要人に致死性の猛毒が混入した手紙が送りつけられている事件は記憶に新しい。山本太郎議員は知らないのだろうか? 要人に手紙を手渡すという行為は、極めてデリケートな行為である。天皇陛下や内閣総理大臣のような要職にある者に、事前のアポなしに、セキュリティのチェックなしに、手紙を渡してよいのか?よいはずはないであろう。周囲のシークレットサービスによる事前チェックが必須である。テロ対策の問題である。

山本太郎議員は、自分に対してアポなしで送りつけられてくる手紙もすべて自分で手渡しで受け取ったり開封して構わないと思っているのだろうか。あるいは山本太郎議員が、自分は天皇陛下に害を及ぼすわけがないから少なくとも自分はアポなしで手紙を渡してよいのだと思っているのだとしたら、あまりに傲慢で愚かである。他の誰でも要人に対して同じことをしてよいということになる。

というのが私の批判なのだが、さる11月13日に、山本太郎議員のもとに刃物入りの手紙が送られてきたのが発見されたという報道があった。これは脅迫であり犯罪というしかないが、要するに手紙を渡すにも要人側のセキュリティを考えないといけないということである。天皇陛下に直接手紙を受け取らせてしまって、侍従や警備担当者はセキュリティの甘さを露呈し、痛切に責任を感じて恥じているに違いない。罪なことをしたものである。

4.園遊会で前列に割り込んだ?

山本太郎議員は、園遊会で前列に割り込んだようである。お声掛けもない新米参議院議員が前列に並べるはずはないので不思議だと思っていた。 TBSの報道によれば、数時間前から並んでいた参列者の前列に割り込んで苦情を受け場所を移りながら、尚、別の場所で前列に割り込んだということのようである。

5.「陛下の御宸襟を悩ませた」と反省の弁

宸襟という言葉を、山本太郎議員が知っていたわけでは無いだろう。たぶん、右翼がかったスジからのクレームに出てきた言葉ではないかと思われる。 それにしても、「御宸襟」はない。「宸襟」であろう。しかも宸襟というのは天子の胸の内のことをいうので、「陛下の宸襟」というのもヘンである。用法が間違っていると言わざるを得ない。言葉を知らないのだから当然かもしれないと感じた。山本太郎議員がなお直接天皇陛下に会って謝りたいなどというのはぶしつけで失笑するしかないし、 二重橋に行ってお詫び申し上げているというのもいよいよ時代がかっている。

天皇陛下が山本太郎議員を気遣っているという報道が出るのも、天皇陛下の人間性が表れているとは思う。おおごとにされるほうが天皇陛下にとっても皇室全体にとっても負担になるからまして懸念されるのだろう。親しみやすくあるべきという戦後の皇室の立ち位置というものの難しさをよく理解されており頭が下がる。山本太郎議員にはそのような宸襟は理解の外であろう。だから直接会って謝りたいとか二重橋でという話になるのである。

一方、山本太郎議員が、宮内庁の職員や園遊会で割り込まれた列席者に対して申しわけない、と謝罪を表明しないところが、ひどすぎる話である。

それ以上に、天皇陛下になによりもまずなどと言ってあのように大仰にお詫び申し上げるより、まず、日本国憲法にお詫びを申し上げて欲しい、それがスジだろう、というのが、法律家としての感想である。なぜかこういった視点は、マスコミにもないようである。

みずほ銀行とNOVAと経済産業省(1)

月曜日, 12月 2nd, 2013

みずほ銀行が子会社のオリコ関係の貸金について反社会的勢力排除ができていなかったことが、不祥事として報道されている。

反社排除ができていなかったのは、みずほ銀行が貸主、オリコが融資審査担当および保証会社として、貸し付けたローンだった。

ここでみずほ銀行の調査報告書 http://www.mizuhobank.co.jp/release/2013/pdf/news131028.pdf を見ると、興味深いことがわかる。

排除すべき反社会的勢力かどうか(主に暴力団員かどうか)は、正確には、警察に照会することではじめてわかることである。みずほ銀行は契約の事後チェックとしておこなったところ108万件中の228件が該当することがわかった。みずほ銀行は、今後の反社排除のため、みずほ銀行において取引拒絶すべき先と把握している顧客リストをオリコに提供していこうと検討した。

しかし、それが個人情報保護法上、収集した個人情報の第三者提供に該当するのではないかと疑問を持った。

ちょうどその直前、平成23年1月17日にオリコとみずほ銀行が経済産業省を訪れ、みずほ銀行からオリコへの顧客情報の提供、共同利用の可否を問い合わせていた。おりからみずほ銀行はオリコをグループ会社化したことから、両社は、顧客情報の共有化等の態勢整備や顧客情報の共同利用によるマーケティング、オリコの顧客へのみずほ 銀行の商品販売を計画していたからである。

その際の経済産業省の回答は、オリコは個人情報保護法のみならず経済産業省が公表する「経済産業分野のうち信用分野における個人情報保護ガイドライン」の適用を受けるところ、同ガイドラインでは、書面による同意なく共同利用を行うことはできないとの回答がなされていた。

そのため、みずほ銀行は、オリコへの反社情報の提供を断念するに到った。

というものである。

さて、一見、みずほ銀行は、経済産業省に問い合わせてそれに従ったのだから、問題がないように思える。しかし、この場合、オリコとみずほ銀行の詰めも甘かったうえに、経済産業省の回答が間違っていたとまでは言わないもののかなり不親切だったというべきだろう。

民事介入暴力対策に精通した弁護士には、あたりまえとも言うべき基礎知識として、反社会的勢力の情報の収集・取得・利用には個人情報保護法の適用はない。

 

個人情報保護法

(取得に際しての利用目的の通知等) 第十八条  個人情報取扱事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければならない。

4  前三項の規定は、次に掲げる場合については、適用しない。

一  利用目的を本人に通知し、又は公表することにより本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合

二  利用目的を本人に通知し、又は公表することにより当該個人情報取扱事業者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合

(第三者提供の制限) 第二十三条  個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。

二  人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

 

みずほ銀行やオリコが暴力団員などの反社情報を取得・利用するのは、自分の会社の財産や従業員の生命・身体・財産を害されることをおそれるからである。反社情報の利用目的はそれに尽きるのであるから、これは当然に個人情報保護法の適用外の個人情報のはずである。

個人情報保護法は経済産業省が所管官庁として平成15年に制定され、その後、所管官庁ごとにガイドラインが整備されている。一方、反社会的勢力排除が企業に要請されるようになったのは、平成19年6月19日に内閣府が発表した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji42.html以降であり、それ以降各省庁で反社排除に向けたガイドラインが整備されていった。

この平成19年反社指針には解説が付されている。「 企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針に関する解説」 http://www.mlit.go.jp/common/000990052.pdf であり、その(11)において、「個人情報保護法に則した反社会的勢力の情報の保有と共有」のあり方が解説されており、そこでは、反社情報は、取得・利用・提供・保有のいずれも場合も、個人情報保護法の適用除外であると記載している。

平成23年1月17日にオリコとみずほ銀行が経済産業省を訪れた際は、マーケティングのための共同利用のための問い合わせであったと思われる。しかし、反社顧客の排除はオリコにとっては当然のコンプライアンス上の要求であった以上、反社情報のチェックも、マーケティングの一環をなしているといってよいであろう。

経済産業省の担当官は、個人情報保護法の本文だけを挙げて「顧客情報の第三者提供は書面で同意がない限りできない」と原則だけを教示するのでなく、反社でない顧客情報は原則に従うが、反社指針ができた以上反社情報の共有は問題ないし、むしろ積極的に情報を提供し共有すべきであると指示すべきであったと思われる。

さて、経済産業省の担当官は、内閣府によってまとめられ全省庁よくわかっているはずのこの反社指針を知っていたのであろうか。私の推測は、経済産業省の担当官は反社指針のこの解説の記述を知らなかったのではないかと思う。担当官が知っていれば、最新のトピックとして教示くらいしていると思われるのである。

ではみずほ銀行の法務部門はこの反社指針解説を知っていたのだろうか。知らなかったのだろう。知っていれば、経済産業省への聞き方はまったく変わっていたはずである。

みずほ銀行の顧問弁護士はどうだったのだろうと思って調査報告書を読んでみたが、みずほ銀行の法務部門は、顧問弁護士になぜかこの点についてはなにも確認していないように読める。

さらに、みずほ銀行は、みずからの所管官庁であるはずの金融庁にも問い合わせをしていない。金融庁は、金融分野における個人情報保護に関するガイドラインhttp://www.fsa.go.jp/common/law/kj-hogo/01.pdfを公表しており、そこで、暴力団員やクレーマーに関する情報は個人情報保護法の適用除外であると記載している。みずほ銀行が採るべきはこちらのガイドラインである。また、金融庁検査においても金融機関の反社排除の状況については重要な検査項目とされている。

このように見ていくと、みずほ銀行のエラーは、「個人情報保護法の所管官庁だから」「オリコの所管官庁だから」という理由でちょうど経済産業省に問い合わせていた経済産業省の担当官に言われたまま、オリコへの情報提供はできないと思い込んだこと、反社情報の場合でもそうなのかというところを詰めず、それ以上詰めなかったというところに、どうやら初歩的なエラーがあったということになる。

この調査報告書を読んで、私の脳裏にパッと浮かんだのが、NOVA破綻にからんだ経済産業省の対応であった。それはまた別の機会に書いてみたい。