藤井総太棋士が九段になる日

藤井総太六段の活躍から目が離せない。

2016年10月1日、中学生にして、奨励会を抜けて四段昇段、プロ入り。

2017年6月26日、デビュー以来の29連勝の新記録達成。

2018年2月1日、名人戦の順位戦C級1組に昇級して五段昇段。

2018年2月17日 五段昇段後全棋士参加棋戦(朝日杯将棋オープン戦)に優勝し、六段昇段。

ちなみに、藤井総太棋士のデータベースは、日本将棋連盟の以下のサイトで見られる。
https://www.shogi.or.jp/player/pro/307.html

戦績が一番わかりやすいのは以下のサイトかと思う。
http://kishi.a.la9.jp/2017R/1307.html

29連勝が止まってから、2018年1月11日以来、2018年3月23日まで、16連勝と、ふたたび連勝街道を邁進している。

その16連勝の中で、現A級棋士だけでも、佐藤天彦名人、羽生善治竜王、広瀬章人八段、糸谷哲郎八段(次期A級に昇格決定済み)に勝利した。

既に、それまでに、屋敷伸之九段にも勝利している。

非公式戦も含めれば、佐藤康光九段、深浦康市九段、行方尚史八段にも勝利している。

藤井総太棋士に勝ったA級棋士は、現時点で、稲葉陽八段、深浦康市九段、豊島将之八段。いずれもA級棋士の中でも絶好調の棋士である。

まだ当たっていないA級棋士が、渡辺明棋王、久保利明王将、三浦弘行九段。

こうやってみると、藤井総太六段の棋力は、名人戦A級棋士らと既に対等以上である、といって差し支えないと思われる。

どれほどすごいことか。

高校の全国選手権クラスとなると、一般の将棋ファンからすると神の領域である。

大学トップクラスとなるとさらに高校選手権クラスなど苦も無くひねってしまう。

しかし大学トップクラスといっても奨励会三段にはほとんど勝てるものではない。

その奨励会も30人中、半年で2人しか四段に昇格できず、26歳の年齢制限で大半の会員は脱落して辞めていく。

四段昇格で晴れてプロ棋士となるわけだが、名人戦リーグに参加しても、A級、B級1組、B級2組、C級1組、C級2組の5段階に分かれ、一番下のC級2組だけで50人が所属する。上位の棋士をなぎ倒す若手棋士もおれば、上の組から落ちてきた強豪棋士がひしめく。その中でC級1組に昇給できるのは年に3人だけ。

そのC級2組も全勝で1年で突破である。

藤井総太棋士は、実は、デビュー以来の29連勝中のあと、上位の棋士にかなり負けが込んだ時期がある。

しかしたちまち再び連勝を再開し、特にこの16連勝中の差し回しは、29連勝中に輪をかけて顕著に強くなっていて、A級棋士相手に対等以上の戦績を収めており、もはやA級棋士に交じっても最強と言えるレベルに達しているように思われる。

私も学生時代から将棋ファンではあったが、将棋部の同級生には飛車角香落ちでも簡単にひねられていた。

それでも将棋の定跡をいろいろ覚えこんだものだったが、羽生善治がタイトル戦に登場したころから、定跡の変化があまりに早くなり、また複雑化し、もはや全くついていけなくなってしまい、「見るだけ」に陥ってしまった。

それ以来、だんだん棋譜を見ることからも遠ざかってしまった。

子供心にカッコよかった振り飛車が戦法として落ち目になり、藤井システムには興奮したものの、居飛車優位の傾向が続き、さらに玉を囲わない急戦が当たり前になり、さらに居飛車穴熊などという戦法をプロが真面目に指すようになって、なにか、価値観が崩壊したような不思議な感覚に襲われることが多くなった。

ひさびさに注目したのが、「電王戦」(今の叡王戦)であった。

AI対、人間の棋士。

しかし、これも、コンピュータのAIプログラムで、自己対戦によるアルゴリズム強化が圧倒的演算量でおこなわれるようになったことで、もはや、「人間が勝てるわけがない」ことがはっきりした時点で、興味を失ってしまった。

そんな中で、藤井総太棋士の登場である。

玉を囲わない急戦が当たり前な現代の棋戦の中でも、藤井総太棋士の早攻めは群を抜いているように思われる。

とにかく、攻め出すタイミングが早いのである。

しかも、たいてい、自分から戦端を開く。

このあたりはAIの早攻めとよく似ている。

え?、無理して早攻めしてない?と思うくらいであるが、なぜかしのぎ切って勝ちに持って行ってしまうのである。

中盤終盤での正確な寄せが速く読み切れるから、多少無理な攻めでも相手が最善手を指し続けられないために、どこかで有効に成立してしまうのである。

羽生善治が7冠になったころ、圧倒的に勝ち進んでいたころが、まさにそういう差し回しだった。羽生マジック、と言われていた。相手のミスを誘うと。

が、藤井総太棋士の差し回しのほうが、序盤から一貫して、羽生善治の20代よりもはるかに正確、と言われている。

寄せ方は盤石。

詰め将棋で棋界随一の実力者であるが、ここまで実戦で強いのと両立する棋士はかつていなかった。

すべてが規格外である。

とにかくみていて気持ちいい。

何百人といるプロ棋士たちは、もはや、A級棋士も含めて、「藤井総太には勝てない」とあきらめの境地に入りつつあるような気がする。

その藤井総太棋士が、昇段において、九段まで上がれるのは、最短でいつになるのであろうか。

日本将棋連盟 棋士昇段規定
https://www.shogi.or.jp/match/dan_provisions/

昇段規定は、8大タイトルをとることで、七段までは比較的昇段はしやすい。

しかし八段への昇段は非常に条件が厳しい。

最高位の九段となると、八段になってからでないと昇段はできないので、たとえば、タイトルを3期獲得しても、一旦八段になっていないと昇段はできない。

つまり藤井総太棋士が九段になろうと思えば、どこかで八段になっておかないといけない。

その八段になる条件が、非常に時間がかかるのである。

羽生善治が九段になれたのは、タイトルを三期以上保持したうえで、名人戦A級に昇級した時点(23歳6か月)だった。

名人戦A級になるには、プロ入りから毎年昇級しても5年かかる。

つまりそもそも名人位に就いて九段に昇段するにはプロ入り5年以内は無理なのである。

ちなみに、ひとつだけ、五年以内に八段に昇段できる可能性は、「竜王位1期獲得」である。

2期で九段に昇段する。

ちなみに、竜王位挑戦だけで昇段する。

この昇段規定は、渡辺明五段が竜王に挑戦し一気に竜王位を獲得したころに少し緩和された条件で、渡辺明竜王はこれで竜王位を2期保持して、21歳7か月で九段に昇段した。

竜王戦は、竜王戦リーグの一番下の六組の棋士でも、予選トーナメントで各組の優勝者らをひたすら破って勝ち抜けば、実はプロ入り一年目でも竜王位への挑戦は可能である。

藤井総太棋士は、一年目は六組では優勝したがその上のトーナメントで敗れた。

しかし、翌年の竜王戦リーグではどうだろうか。五組優勝から、挑戦者となり、羽生善治竜王を破る、という可能性は、いまでも既にA級棋士の絶好調棋士以外は藤井総太棋士に勝てない状況からして、十分にあり得るものと思われる。

王座獲得→竜王位獲得→もう一つのタイトル(王将くらいがありうる)獲得で、九段になれるわけであるから、2019年前半には、九段に昇段してしまう可能性があるのである。

昔からの将棋ファンには、九段といえば、大山康晴、升田幸三、中原誠の三人、ほぼタイトルホルダーというイメージであった。

まさにヒーローとあがめる領域であった。

その後、勝ち星やA級在籍年数で八段から九段に昇段できる規定変更のためにずいぶん九段が増えたが、子ども心にヒーローはいつもその三棋士であった。

歴代の九段の中で、文句なしに上記三名と並び崇めるべき存在と言えば、谷川浩司、羽生善治がまず挙がるであろうか。

佐藤康光、渡辺明、森内俊之がそれに次ぐ存在だろうか。

藤井総太棋士は、どうやら、「谷川浩司・羽生善治・藤井総太」と、同時代に生きて、それぞれ自分の時代を築いた三人の棋士として、並び称される存在となるように思われる。

升田・大山・中原の三巨頭がヒーローとして並び称された時代の再現というべきであろうか。

オールド将棋ファンの心を、40年の時を経て、童心に帰ったようにワクワクさせてくれる、新しい将棋ヒーローの出現と、今回の将棋ブームの始まりに、まことに心躍る日々である。

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