押し売りならぬ「押し買い」に法の網

平成25年2月21日に施行された特定商取引法の改正により、自宅を訪問して宝石などの高額品を強引に安く買い取る商法が規制されることになった。

これまでの特定商取引法(特商法)は、訪問販売業者が「販売」する場合を規制していたので、買い取りの業態を規制するのはかなり画期的な改正である。宝石貴金属の訪問買い取り業者問題は、ニッチな業態でありながら、お年寄りなどに少なからぬ被害が続出して社会問題化していたので、訪問買い取り業者の訪問営業に法の網を掛けたのは大きな効果があるといえる。

宝石貴金属などの高額な家財の訪問買取を家人から呼ばれもしないのに回ってくるような業者は大半まともでないだろうというのが、規制の前提にあるということであろう。

規制の概要は以下のとおりであり、いずれもかなり強力なものである。特に不招請勧誘の禁止は強力である。また、書面交付義務の対象となる記載事項が要件を欠いたままの買い取り行為があれば、無期限にクーリングオフができる場合が多い。すなわち、買い取られたものの返還や、転買された場合には返還に代わる損害賠償ができるようになる。

但し除外品もある。四輪自動車、家庭用電気機械器具(携行が容易なものを除く)、家具、書籍、有価証券、CD、DVDなどである。自動車はすべての訪問販売規制の適用除外だから当然であるが、高額とはいえない商品もかなり広く適用除外されている。要するに、ある程度高額な商品の買い取り(宝石や書画骨董など)に関する規制であると考えればよく、よくある古本やCDの訪問買い取りまでは規制しないということである。

また、消費者が自分から買い取り業者に連絡して自宅での訪問買取を希望した場合なども、除外である。転居に伴う売却や一定の常連として反覆買い取りの実績がある場合も適用除外である。

規制内容は以下の通りであり、罰則としては刑事罰もある。違反すれば多くの場合に無期限でクーリングオフできるのが民事上の効力としては強力である。

1 不招請勧誘の禁止

来てくれと言われていないのにいきなりピンポンとドアベルを鳴らして訪問すること自体が禁止された。消費者から売却を申し出られた以外の物品の買い取りの勧誘も禁止された。

2 勧誘目的の明示

買い取り業者は、勧誘に先立って、事業者名や勧誘する物品の種類などを明示する義務を負うことになった。

3 勧誘意思の確認義務

消費者から訪問の要請を受けて訪問してた場合も、勧誘に先立って、勧誘を受ける意思があるかを確認しなければならなくなった。

4 再勧誘の禁止

一度取引を断った消費者への再勧誘が禁止された。

5 書面の交付義務

買い取り業者は物品の種類や特徴、購入価格、クーリング・オフ事項などが記載された詳細な書面を交付する義務を負うことになった。これに違反した場合は、無期限にクーリングオフができる。

6 引渡しの拒絶

消費者はクーリング・オフ期間中(書面交付から8日以内)は物の引渡しを拒める。買い取り業者はこれを書面記載して交付しなければならない。

7 クーリング・オフ

法律の要件を満たした書面交付から8日以内であれば、無条件で買い取り業者との契約の申込み撤回(いわゆる解除)ができる。

西村幸三

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京都・烏丸三条にある法律事務所を運営。ニュース・法改正・裁判例などから法務トピックを取り上げていきます。