総務省、自治体テレワークシステムの実証実験へ

総務省が、自治体においてテレワークを実施するためのシステムを開発し、自治体にID3万個を検証実験のために配布したとのことである。

Sankei Biz (2020.12.10)より

455自治体で新テレワーク 総務省、実証実験へID3.4万個配布
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/201210/mca2012100600004-n1.htm
 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、地方自治体のテレワーク導入に向けて総務省関連団体が開発したシステムが完成し、455自治体に計約3万4000個のIDが配布されたことが9日、分かった。配布されたのは12道県と321市、110町村、12特別区で全体の4分の1に当たる。各自治体は実証実験を開始し、結果を見て導入の是非をそれぞれ決める。
 総務省は4月、感染拡大防止と柔軟な働き方の確保のためテレワーク導入を自治体に要請したが、小規模な自治体では活用が進んでいない。総務省はシステムの整備に加え、財政面でも支援していく考えだ。
 システムは、総務省所管の地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が、経済産業省所管の情報処理推進機構(IPA)と共同開発した。大阪府と栃木、大分両県では半数以上の自治体にIDが配られた。
 システムは、自治体だけが利用できる専用回線「総合行政ネットワーク」に接続された職場のパソコンに、自宅パソコンからインターネットを経由してアクセスする仕組み。スマートフォンやタブレット端末では接続できず、マイナンバーを扱う業務には使えない。 サイバー攻撃を受けないよう自宅パソコンにウイルス対策ソフトが入っているか検知し、通信には強い暗号が掛けられている。不正なデータ持ち出しを防止するため、職場パソコンの画面のみ転送され、それ以外のデータはやりとりされず、自宅パソコンにデータを保存できない。画面の写真を撮ると「撮影禁止」の文字が写り込み、撮影者の特定も可能にした。
 システムは11月27日に運用が始まった。一方で、今年3月時点で都道府県の9割超は別のテレワークシステムを既に構築し、活用している。

いいことである。

そもそも、地方自治体ごとに、バラバラに、こういった業務システムを構築するのは、極めて不効率である。

それなのに、これまで、総務省は、こういった業務システム開発の一元化・標準化に、あまり取り組んでこなかった。

それは、地方自治を一見尊重しているかのような姿勢であるが、電子政府への移行にとっては、十年一日の歩みであり、牛歩を通り越して、ほとんどサボタージュといってもよいものであったと思う。

自治体の基幹システムも、総務省が標準的なものを提供したらよいのである。

自治体ごとの独自事業があれば、データベースを増設したり、プラグインを制作して付加できるようにすればよいのである。

国の自治体への委託事業も、プラグインで提供すれば、すぐに実施できるようになるのである。

こういった総務省によるシステムの提供は、自治体業務の標準化に資する。

零細自治体ほど、財政的に助かるのである。

サーバー管理も、まとめて、AWSやAzure上に乗せてしまえば、パターンは決まっているわけだから、効率的な運用が可能となる。クラウドに乗せることによるセキュリティ面の対応は、VPNやワンタイムパスワードなどで確保することになるであろう。

自治体の規模にかかわらず、共通のデータベースと、共通のSQLプログラムが、かなりを占めるはずである。

プログラムの著作権を保有している自治体が、ソースコードを持ち寄って、最大公約数的に、適したプログラムを取捨選択して、サブルーチンを構築していけば良い。

各自治体としては、既存のシステムを移行するための作業にはかなり苦労はすると思われるが、総務省が提供するシステム雛形を平行して動かせるのであれば、新システムが立ち上がらない、一方で旧システムは動かない、といった最悪の事態はだいたいのところで防げるだろう。

早目に標準システムの雛形を立ち上げてしまうことで、各自治体は、それにあわせて折に触れてデータベースやシステムを順次少しづつ移行・改修していくことができるので、やはり早目にラフな標準化案を策定した上で、標準化案のバージョンを上げていくというのが、開発手法としては正しいだろう。

新システムの移行にあたっては、既存の業務の流れの仕組みを改善する作業がつきものである。

そこで、お役所仕事的に、一部のお役人が、既存の仕組みのカイゼンに抵抗してしまえば、要件定義の段階で、不可能な要求、実現困難な要求、無意味な要求が積み上げられてしまって、新システムの移行そのものが頓挫してしまうことになることもある。

システムエンジニアは、組織のリーダーとして、既存の仕組みのカイゼンを進めないといけない立場にたつ。

でも、それだけの気概と、業務への精通度と、業務をプログラムの要件に落とし込めるかどうかのせめぎ合いの中で組織の折合いをつけられる能力を兼ね備えた者が、いるとは限らない。

お役所仕事だと失敗する。

そうか。

自治体って、お役人ばかりだった(笑)。総務省もだけれど。

ハンコを5個くらいは並べて、組織のラインの意見の一致をみないと、仕事の進まない世界である。

 

いや。実は、調べて見ると、なんと既に標準化検討チームが総務省に設置されているではないですか。

自治体システム等標準化検討会(住民記録システム等標準化検討会)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/jichitaishisutemu_hyojunka/index.html
令和元年8月26日の第1回検討会に始まり、令和2年9月4日第4回検討会が行われている。
中身を見る限り、住民基本台帳関係の検討に絞られているようである。

第4回検討会 資料1-2 全国照会結果(全体版)(https://www.soumu.go.jp/main_content/000706268.pdf)

住民基本台帳システムといえば、まあ、サブルーチンのひとつにすぎないようなものであるが、もっとも基本となるデータベースではある。

サーバーの負荷もかなり大きく、他のシステムからのアクセスも生じる。

最初に取りかかるものとしては妥当であろう。

議論はTeamsでやっているのだろうか。

いや、おそらくEメールのような気がする。

実務的な要件定義作業としての意見出しが大半のようではあるが、おそろしく細かい要件定義を議論しており、一方でなかなか大きな議論や質問も入り交じっていて、全部の自治体に対応して満足させて標準化案へのハンコをもらうなど、まず無理だろうなとは感じる。

このペースで自治体業務のある程度全体の仕組みの標準モデルの提示にたどり着くには、10年20年かかりそうである。

溜息ものである。

まあ、全部を標準化する必要がない(どうせできない)のもまた真理である。

平行して独立して標準化が進められそうなシステム開発としては、

・例規集をWebで掲載するためのデータベースシステム

・会計システム

・給与システム

・共済関係システム

・決裁(オンライン)システム

あたりだろうか。

・Microsoft Teamsを利用したチーム内外との回議・ファイル共有・連絡・会議システム

くらいは、比較的最初に作れればよいのだが、Teamsで自治体の垣根を越えてチャットなど、ニッポンのお役所にはもっとも向かなさそうな仕事の進め方であろう。

Teamsで各職員が書いたことまでが各自治体で公文書としてバラバラに残り続け、どこかで情報公開請求の対象とされてしまう。

それでは、ただでさえ住民訴訟に個人がさらされる恐怖におののく地方自治体職員が、炎上リスクも恐れることになってしまう。

風通し良く丁々発止のやりとりをTeamsでやって自由闊達な仕事をしてもらうというのは、およそ無理もあろうかというところである。

日本は、人のミスの足を掬うことに熱心なポリティカル・コレクトネスが振り回される風潮・土壌があり、ミスの許されない、総萎縮社会である。

システム開発というのは、ある程度業務カイゼンを強行する蛮勇もなければ進まない。

時間をかかれば、なにをやっているか作業再開のたびにいちいち思い出さないといけなくなって、わけがわからなくなってしまう。

システムをまずは小さく作ってみて、各自治体でダミーデータを載せてみて検証するほうが早いのでは無いか?と思うところである。

西村幸三

lawfield.com

京都・烏丸三条にある法律事務所を運営。ニュース・法改正・裁判例などから法務トピックを取り上げていきます。