緊急事態宣言の意義と弊害

首都圏一都三県の知事が、緊急事態宣言を国に要請したという。

 

緊急事態宣言には、法的な強制力は無い。

 

緊急事態宣言というのは、新型インフルエンザ等対策特別措置法が、令和2年3月14日に改正されて、コロナウイルス感染症にも適用できるようになったことによって、マスコミが煽りに煽り、東京都知事ら一部の知事も発令を煽り、たちまち、4月8日、全国を対象にして、コロナウイルス対応として、発令されたものである。

 

https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/0316jimurennraku.pdf

 

しかしながら、気候が暖かくなって既にピークアウトしつつあった時期に、いたずらに社会を混乱させ、多くの事業者に損害をおよぼしただけであり、「間違い」であったというのが、一般的な評価である。

 

緊急事態宣言には、強制力は無い。法文は以下である。

新型インフルエンザ等対策特別措置法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=424AC0000000031

 

自治体は、住民に対しては、あくまで、「協力を要請」するか、要請に従わない者に対し「指示」「公表」できるに過ぎない。

 

条文は以下である。

(感染を防止するための協力要請等)
第四十五条 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる
2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。
3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる
4 特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない

 

しかしながら、緊急事態宣言など発令しなくても、「要請」なら、飲食店の時短要請などとして、既に自治体はさんざんやっている。

 

飲食店への自粛として、例えばこれまでおこなってきた22時までの閉店要請を、20時までの閉店要請にするのに、緊急事態宣言はまったく不要である。

 

なぜ東京都知事はじめ首都圏一都三県の知事が、国に緊急事態宣言発令を要請するのか。

 

おそらく、一都三県の知事のスタンスは、「これまでの自粛では不十分」で「自粛ムードを引き締める」ためということなのであろう。

 

医療機関の逼迫態勢は確かに深刻である。

 

しかしながら、前回の緊急事態宣言が、全国に対して及ぼした混乱と、各事業者に対するワイドショーはじめマスコミが煽ったバッシング、社会各方面に及ぼした無用の損害を考えると、「自粛ムードの引き締め」のために発令するには、あまりにも過剰に過ぎるようにも思われる。

 

国はまた全国に対する緊急事態宣言を発令せざるを得なくなる可能性が相当程度あるのに、国に発令させるように誘導するというのは、「大都会の首長が国へ責任を押しつけている」「地方を巻き込んでいる」ものと見えてしまうようにも思われる。

 

12月は、忘年会シーズンであった。

 

私はといえば、今年の11月12月は、夜の酒食の会への出席はゼロだった。

 

また、一般企業でも、企業単位の忘年会はほぼ開催されなかったと思われる。

 

しかし、世間では、プライベートの宴会、忘年会は、結構多かったようである。

 

アルコール入りでの会食は頭が鈍麻して気が緩み、食物を前にしてマスクを外してダラダラ長時間、飲酒や食事と並行して会話してしまうことにより、飛沫感染を招いているであろうことは、容易にわかることである。

 

一方、マスク・アルコール消毒を徹底する限り、ビジネスシーンで感染するという場面は極めて限られる。

 

「マスクなしで15分以上かつ1メートル以内で会話をした」か否かという濃厚接触者の定義は、十分に意味があると思われる。

 

密閉された空間で長時間過ごすものが接触する病院・介護施設・家族間等での感染は相当数あるものの、それ以外に、感染経路不明というケースが多い。

 

その大きな要因が、普段家族や会社等のコミュニティ内で接していない者同士が、プライベートでの夜のアルコールを伴う会食で集まる機会にあるであろうことは、残念ながら論を俟たない。

 

会食では、ノンアルコール・短時間で食事を済ませ、その前後はすぐにマスクを装着した上で、懇談することで、およそ濃厚接触に当たらずにまずまず安全に会食することは、十分に可能である。

 

しかしながら、それだけの自制心がないメンバーが集まる。そして、流される。

 

マスクを外してべらべら喋るメンバーには、お互いに、注意・警告しなければいけない。

 

しかし、遠慮して、または盛り上がりに水を差し無粋などと言われたくなくて、飲み仲間に注意できず、流されているのである。

 

無粋と言われようとも、空気を読まないといわれようとも、神経質に注意する人がいなければ、たちまち飛沫の飛び交うルーズな状況が生じてしまう。

 

夏などの季節のよいときの会食では、それでも感染や発症しなかったものが、宴会に日を置かずに何回も参加し、そういった行動も夏や秋には大丈夫だったもので警戒が緩んでいたところに、寒くなってきた途端に、簡単に感染し、発症してしまう。

 

感染した者も、この程度の会食では移らなかった、こんなはずでは、というケースが多いはずである。

 

インフルエンザでも、風邪でも、気温が下がるほど、乾燥するほど流行る。

 

冬に爆発的に感染しやすくなるのは当り前である。

 

冬の季節に対する警戒感、TPOに対する警戒感を、持っていない者が、宴会を重ねて、感染を拡げあってしまっている。

 

しかしながら、だからといって緊急事態宣言が必要だというのは、やはり論理の飛躍があると思われる。

 

マスクを外して15分以上1メートル以内で話す場というビジネスシーンは、いまどき、いかほども存在しない。

 

また、緊急事態宣言は最後のカードになってしまうが、冬はこれからが本番である。

 

抑制策をとってもおそらく感染者が高止まりするであろうことは、目に見えている。

 

緊急事態宣言を発令していつ解除できるのか。

 

4月、5月に入れば暖かくなって感染者数は減少するであろうが、それまではまず期待できない。

 

昨年のように5月までとすれば、これから4ヶ月間、延々と緊急事態宣言を続けるのだろうか。

 

医療機関は、緊急事態宣言中もそれ以降も、外来患者が激減している。特に地域医療の担い手である地方の医療機関である。

 

まずもって医療機関にとってのダメージが甚大で計り知れないのである。今度また数カ月の緊急事態宣言となると多くが存続に関わるレベルになると思われる。

 

マスコミすらも広告の減収と取材の量と質の低下によって今度こそ存続の危機に見舞われることとなるだろう。

 

気を見て森を見ない、角を矯めて牛を殺す、という言葉が想起される。

 

ポリティカルコレクトネスで目先の策を声高に唱えて、マスコミや知事たちが、責任を押し付けて自分は責任を果たしているかのようなパフォーマンス合戦が、また跋扈するのだろうか。

 

感染機会減少の効果に見合わないほどに、全国おしなべて、まっとうなビジネスシーンにおける人と人との接触という機会を根こそぎ押しつぶしてしまうことは、あまりに弊害が大きすぎるのだが。

西村幸三

lawfield.com

京都・烏丸三条にある法律事務所を運営。ニュース・法改正・裁判例などから法務トピックを取り上げていきます。