大人気公開中の、映画「トップガン マーヴェリック」を観た。
ネタバレなので注意してほしい。
トム・クルーズの作品は「ミッション・インポシブル」シリーズその他大半の作品を観ていて、トム・クルーズの仕事への姿勢への敬意含め、大好きな俳優の一人である。
トム・クルーズの作品は、ほぼスタントを使わず、とんでもないアクションが連続し、トリックもストーリーもレベルが高く、観た後の爽快感は極上である。
今年で60歳を迎えたトム・クルーズがそういう作品を作り続けるために培ってきた、あらゆる方面にわたる努力は、感嘆すべきものである。
そのトム・クルーズが制作権をとって暖め続けてきた、渾身の作品ということで、楽しみにしていた。
素晴らしかった。
前作のトップガンは、ある意味、海軍が部隊で戦闘機は出てくるものの、チャラい青春娯楽映画で、若者のいきがった遊びや恋愛・仕事でのかっこよさ、いろんな要素を無秩序にてんこ盛りにした作品だった。
日本でいえば、石原裕次郎・加山雄三・バブリーなトレンディドラマを、軍隊を舞台にちゃんぽんしたようなものといっていいだろう。
日本には軍隊を明るく描く土壌が無いから、日本ではこういう作品は成立しない。
ちなみに私は、子供の頃から戦闘機好きだった。漫画の「エリア88」は何度読んだかわからない。
今回のマーヴェリックの作戦は、エリア88の「オペレーション・タイトロープ」にとてもよく似ている。
(21世紀の戦争としてはこの作戦の設定自体が無謀すぎ、ミサイルや空爆などいくらでもやり方があるのだが、それはひとまず置く)
他にもいろんなエピソードやシーンが、エリア88のあちこちのかっこよいエピソードやシーンに重なり、シビれた。
それだけエリア88は、いろんな戦闘機乗りの一番かっこいいドラマを網羅した作品だったんだなと、改めて感心した。
閑話休題。
トップガン・マーヴェリックについて、私は100パーセント楽しめたが、突っ込みたくなるところは多々あった。
60歳間近のパイロットが、20代のトップクラスのパイロットに、反射神経や動体視力で勝るということは、全くありえない。
スポーツ選手、たとえばプロ野球選手やF1レーサーの成績や引退年齢をみれば、明らかだろう。
それを、教官としては若者から師匠「萌え」をしてもらって、訓練で若者を全機撃墜し、現場に出れば、編隊リーダーとして一番いいところを持って行き、さらに若者の盾になる。
バーでの馬鹿騒ぎでも、相変わらず主役兼三枚目を張っている。
バイク、ヨット、自家用飛行機まで転がす。
恋愛も、若々しく窓から飛び降り、家人にバレる(笑)。
などなど、還暦手前でも、若者と同等どころか、若者以上に主役で、なんとも格好いい。
たわいもなかった前作より、チャラさがなくなっているので、余計に格好いい。
ある意味、無敵のかっこよさの定番のオンパレードである。
50代60代の人に、「自分たちもまだまだいける!」と勇気づけてくれる作品であることは間違いない。
もちろん、トム・クルーズだから格好いいのであるけれども。
おもしろいのは、観客の若者、若い世代も、マーヴェリックに熱狂していることである。
若者も、自分をトム・クルーズや登場キャラに重ね合わせることができるし、師匠萌えもできるし、上司としても、ついていきがいがある。
と言いたいところであるが、現実の上司が、もしマーヴェリックのような人間だったら、部下は、大体のケースはやりにくいだろうと思う。
編隊リーダーが暴走気味では、編隊の若者は、命がいくらあっても足りない。
一将功成って万骨枯る、のほうが、現実世界ではあるある話である。
マーヴェリックが部下を育てられるかといえば、どこか、部下を主役にしていなくて、上司の悪目立ち型のようにも思われる。
もっと若者に花を持たせ、自分は一歩引くのが、年長者の務めでは無かろうかとも感じた。
たとえば、部下は、過酷に仕事しているばっかりで、バイクもヨットも野放図な恋愛も無い(笑)。
ビーチ・フットボールのフォーメーションは若者たちが実に格好いいが、なぜかタッチするのはトム・クルーズである。
酒場の馬鹿騒ぎも、若者はそれほどではない。
店主のジェニファー・コネリーに鐘を鳴らしてもらって、若者はそれにあやかって、騒ぐ立場である。
若い世代には、壊し屋で無軌道なマーヴェリックはいないのである。
50代60代の観客が、この映画を観て、「俺もまだまだいける」から「若いやつはまだまだ」と勘違いしないか、心配になってしまう。
「トム・クルーズならいいけど」「そういう上司は勘弁してほしい」と、みんな思うからである。
一方で、それくらいの気概を持たないような50代60代の上司は、それはそれで物足りず、師匠萌えはされないだろう、と思う。
なお、メイキング話を見ていると、映画制作者としてのトム・クルーズは、若者をきちんと育てている、見事な上司、と感じた。
さすがトムである。
トム・クルーズだから成立した映画なんだと思う。