BitTorrent(ビットトレント)という無料アプリがある(Windows、Mac、Android版あり)。
これは、一般人が使うようなものではない。使ってはいけない。
無料だというのをよいことにファイル(例えば映画やビデオや音楽のファイル)をダウンロードをしているうちに、民事、刑事問わず、制作会社から著作権侵害で訴えられるリスクの極めて高いものであるから、家族が周りから誘われていつの間にか使ってしまうようなことの絶対にないように、周知・警戒してもらいたい。
もともと、BitTorrentというのは、ソフトウェア開発者が、自分の開発した無料ソフト等をインターネットに公開する際に便利な機能を実装した、P2Pアプリである。
ソフトウェア開発者のレンタルサーバーに、世界中からダウンロードのためのアクセスが集中すれば、ソフトウェア開発者のレンタルサーバーがダウンする。
速度低下は当り前で、転送量オーバーになればレンタルサーバー契約や通信プロバイダからの契約を打ち切られることもある。
そこで、「この無料ソフトをダウンロードするあなたも、私と一緒になってこの無料ソフトを世界中の人がダウンロードできるように共同でアップロードして公開・頒布に協力してください」という約束事を取り決めているのが、BitTorrentのユーザー規約である。
多くのBitTorrentユーザーがダウンロードすればするほど、その無料ソフトは、多くの共同アップロード者がいることとなり、次からダウンロードする他のユーザーは、一つのアップロード先に殺到することなく、分散されて快適・高速にダウンロードができる。
つまり、裏を返せば、BitTorrentユーザーが、違法な映像ファイル等をダウンロードしただけで、その人は、その違法な映像ファイル等をアップロードしたことになってしまって、その次からのダウンロード者にダウンロードさせてあげたことになるのである。
そんなこと知らなかった、といっても、規約を承認してアプリケーションをインストールして、違法な映像ファイル等をダウンロードしているのだから、裁判で抗弁が通ることもない。
誰かがたとえばディズニーの映画やアダルトビデオの映像ファイルを、無断でBitTorrentにアップロードしたとする。
あなたはそのアダルト映像をダウンロードしたとする。
その瞬間、あなたのIPアドレスでそのアダルトビデオがBitTorrentのコミュニティにアップロードされる。
規約でそうなっているから当然のことであるが、あなたは規約の中身も知らないから、自覚がない。
あっという間に、他のBitTorrentユーザーが、例えば、のべ100本のアダルトビデオの映像をダウンロードしたとする。
アダルトビデオの制作会社が、BitTorrentで違法なアップロードがあることを察知したとする。
アダルトビデオの制作会社が、解析ツールによって追跡すれば、あなたがアップロードしているIPアドレスがわかるから、制作会社があなたが契約している通信プロバイダに対してプロバイダ責任法による開示請求や開示請求訴訟を行う。裁判所の判決や和解によって、プロバイダは契約しているあなたの住所氏名を開示する。制作会社は、特定された共同アップロード者らを連名で被告にして、アダルト映画100本分の損害賠償請求を内容証明や訴訟でおこなうというわけである。
さて、P2P(ピア・ツー・ピア)アプリケーションというのは、本来、ユーザー個人同士で通信してデータなどを交換するアプリケーションであるが、アップロードされたデータのファイル名や日時、アップロードされた元であるあなたのプロバイダのIPアドレス等はデータとして残っている。
つまり、著作権侵害された制作会社が、そのアップロードされたIPアドレスを芋づる式に解析できれば、アップロードやダウンロードをした者らを、一網打尽に特定して、まとめてプロバイダ責任法による情報開示をプロバイダから受け、各ユーザーに対して損害賠償請求や訴訟を提訴、さらには刑事告発ができることになる。
各ユーザーのダウンロード・アップロードした形跡の追跡・解析に使われるのが、「P2P FINDER」という、株式会社クロスワープが2003年から提供しているP2Pネットワークの監視システムである。
BitTorrentは、何かをダウンロードすれば自分も同じ物をアップロードするというアプリケーション運営上のルールが明確であるために、追跡されてしまえば、否定のしようがないため、免れようがないことになる。
昨今は、著作権侵害でアップロードされたファイルをダウンロードするだけで犯罪が成立する映像著作物もあるが、著作物をアップロードした時点で頒布であるから、BitTorrentによる他人の著作物の無断でのダウンロード兼アップロードは、著作権法違反で犯罪行為が成立している。
P2Pアプリケーションが、実際にはその大半が、著作権侵害された動画や音楽を無料でダウンロードするために使われていることは、使っているユーザーたち自身が一番自覚している。
Winnyでもそうであった。
著作権侵害以外にも、違法に個人情報ファイルがアップロードされたりすることもある。
かなりのケースでマルウェアが仕込まれていることがある。
感染しても自己責任でしかない。
だから、「BitTorrentなんてツールは絶対にインストールするな。使うな」というしかないのである。
ところで、BitTorrentユーザーが、映像制作会社からプロバイダ責任法により開示請求を受けたり損害賠償請求をされることが後を絶たない。
その場合、違法であることは争いようもない。主には損害額が争われることになるが、近年、ようやく、その相場感が形成されつつあるように思われる。
令和3(ネ)10074号 債務不存在確認請求控訴事件
知的財産高等裁判所令和4年4月20日判決
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=91113
が、現時点でのリーディングケースかと思われる。
詳しい解説は、LSC総合法律事務所の以下の記事が詳しい。
https://www.lsclaw.jp/sharesoft/minji/r040420.html
判決のポイントは以下の箇所である。
本件各ファイルが1回ダウンロードされるごとに,本件著作物を1回ダウンロード・ストリーミング販売する機会を失ったということができるから,本件著作物ダウンロード及びストリーミング形式の販売価格(通常版980円,HD版1270円)を基礎に損害を算定するのが相当である。
そして,被告は,DMMのウェブサイトにおいて本件著作物のダウンロード・ストリーミング販売を行っているところ,被告の売上げは上記の販売価格の38%であると認められるので(弁論の全趣旨),本件各ファイルが1回ダウンロードされる都度,被告は,通常版につき372円(=980×0.38),HD版につき482円(=1270×0.38)の損害を被ったものということができる。
つまり、
ダウンロード1回分の上代価格 × 制作会社の取り分(ダウンロードサイトから手数料で抜かれた後の)割合
本件では@372円か@482円×あなた以降の他のユーザーのダウンロード本数
が、損害額となる。
さらに、BitTorrentでダウンロード・アップロードしたことが追跡されて特定されてしまったユーザーは、連帯して賠償責任を負う。
ダウンロードに当たっては、相当程度の時間をかけて、相当程度の数のピアからピースを取得することで、1つのファイルを完成させていると推認されること(甲5、6、乙2~4、6)がそれぞれ認められる。これらの事情に照らすと、BitTorrentを利用した本件各ファイルのダウンロードによる一審被告の損害の発生は、あるBitTorrentのユーザーが、本件ファイル1~3の一つ(以下「対象ファイル」という。)をダウンロードしている期間に、BitTorrentのクライアントソフトを起動させて対象ファイルを送信可能化していた相当程度の数のピアが存在することにより達成されているというべきであり、一審原告X1らが、上記ダウンロードの期間において、対象ファイルを有する端末を用いてBitTorrentのクライアントソフトを起動した蓋然性が相当程度あることを踏まえると、一審原告X1らが対象ファイルを送信可能化していた行為と、一審原告X1らが対象ファイルをダウンロードした日からBitTorrentの利用を停止した日までの間における対象ファイルのダウンロードとの間に相当因果関係があると認めるのも不合理とはいえない。
そうすると、一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイルをアップロードした他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと、本件ファイル1~3のファイルごとに共同して、BitTorrentのユーザーに本件ファイル1~3のいずれかをダウンロードさせることで一審被告に損害を生じさせたということができるから、一審原告X1らが本件各ファイルを送信可能化したことについて、同時期に同一の本件各ファイルを送信可能化していた他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと連帯して、一審被告の損害を賠償する責任を負う。
BitTorrentの仕組みが、次にダウンロードする者に、それまでダウンロード・アップロードした者が共同してダウンロードサイトを提供してあげるというものだから連帯責任、ということになる。
連帯責任を負うといっても、VPNアプリなどを使って追跡不能にしてBitTorrentユーザーとなることで特定されないで逃げ切るものもいるが、その連中の分も責任を負うということになる。
ダウンロード価格が高い映像、人気の高い映像ほど、賠償額が膨らむリスクが高い。
それを手当たり次第ダウンロードすれば、雪だるま式に損害賠償請求される額が膨らむというわけである。
結論として、Bittorrentなどというアプリケーションは、一般人がインストールなどしてはいけないソフトだということになる。
結論として幸いにして何人かで合計数万円の損害、といっても、請求額はもっと大きなものである可能性が高い。
さらに、プロバイダ責任法による開示請求対応、損害賠償請求対応にかかる弁護士費用のほうが、落とし所の数字よりよほど高く付くことも、また当然のこととなってしまうが、適切に争わなければ損害額が相当額以上に膨らむこととなるので、相談をされれば、弁護士対応せざるを得ないでしょうと勧めることとなる。
裁判所はだいたいが東京地方裁判所となるので、コスト高になるのもやむを得ないこととなる。
懸念すべきは、アダルトビデオ制作会社からの内容証明が飛んできたとして、家族に隠したいからと言い値で払ってしまう人が多いであろう可能性、さらには弱みにつけ込んだ過大請求や、過大な示談額での和解に応じざるを得ない可能性である。
そういう和解が続出すれば、制作会社からしたら、安い額での和解提案に乗らないというインセンティブが働くようになる。
部分最適が全体最適を壊してしまうという事態が生じる。
また、頭割りでの相当額での和解に応じたくても、他の共同アップロード者に架空名義人がいたり、資力も責任感もなく交渉も訴訟も放置するような者がいれば、制作会社側も、頭割では応じない、交渉している全員から全額を、という姿勢になるだろう。
また、アダルトビデオのダウンロード料金などというものは、制作会社や販売サイト業者が恣意的に通常価格を上げて期間限定キャンペーン価格やセット価格などで販売したりもできる。
損害額の算定の基礎で、知財高裁の裁判例が一応先例になるにしても、損害額の主張立証では今後まだまだ高い安いといった争点が作られていき、流動的な事態が続くであろうことが予測されるところである。
リテラシーが無いがゆえの愚かな消費者被害の構図を呈している部分もあるが、なにぶん、著作権侵害の故意による犯罪行為なので、まずもって加害者であり、同情しきれないというしかないからである。