一般の家庭や事業所が契約する光ファイバー回線は、以前はIPv4が主流であったものが、現在は、かなり、IPv6、というよりIPv4 over IPv6(IPv6の光回線をIPv4のように見せて接続する)を採用することが増えてきている。
IPv6のほうがIPv4よりプラス数百円かかったり、または同じ価格だったりする。
なぜIPv6にするかというと、IPv4より混雑(輻湊)しづらく、速度も速くなり、特に、夜間や土日と言ったインターネット利用者が多く混雑する時間帯ではIPv4で繋いでいるとひどく遅いというユーザーが積極的に乗り換えているからである。
その詳しい技術的仕組みは、ここでは割愛する。
では、IPv6は、IPv4に比べてよいことづくめかと言われると、実は、IPv6にもデメリットがある。
デメリットとは何か。わかりやすく言えば以下の2点である。
(1)IPv4より通信が途切れやすい
(2)アマゾン・プライム・ビデオほか、AmazonのデバイスがIPv6に対応しておらず動作不良が起きることがある。
である。いずれも、私の場合は、自宅で経験している。
ちなみに事務所の方はリスク回避などの観点からIPv6回線に乗り換えていない。
(1)のIPv6、またはIPv4 over IPv6での通信が途切れやすいというのは、多くの光ファイバー回線のプロバイダで見られている症状である。日によって1日に0回とか1~2回、1分とか数分で回復することが殆どだが、それでも、Office Online、Google Workspace、ビデオ会議、通信ゲームなどをやっている場合は、復帰ができなくなるので、仕事でもプライベートでも、まずまず、クリティカルなエラーであると言える。
多くの場合、IPv4に戻せば、この通信の切断の症状は解消される。
つまり、IPv6の安定性は、未だIPv4より劣っているといわざるをえない。
この通信が途切れる原因が、光ファイバー回線の側にあるのか、ルータ側にあるのか、切り分けは必要である。
もっとも、IPv6でも、切断の問題が起きていない人も多いようである。
でも、IPv6、IPv4 over IPv6が途切れる現象が出やすいのはどうも事実のようである。
1日1回、1分でも途切れるというのでは、安心して仕事で使えるようなものでは無いだろう。
ということで、IPv4を選ばざるを得ない層は一定存在する。
(2)のアマゾン・プライム・ビデオ(定額見放題の動画だけ)に繋げない、Amazonのデバイスが繋がらない、というのは、アマゾンユーザーにとっては、意外と深刻である。
結論から言えば、アマゾン・プライム・ビデオの定額見放題のサービスは、IPv6にもIPv4 over IPv6にも対応していない。
だから、もし、繋げているとしても、たまたまの可能性が高い。
アマゾンは、公式見解として、アマゾン・プライム・ビデオは、IPv4 over IPv6にもIPv6に対応していないと言っているからである(なお、IPv4 over IPv6は、視聴できることもあるができないこともあるとアナウンスしている)。
具体的には、IPv6、またはIPv4 over IPv6 で光回線を使っていると、以下のようなエラーメッセージが出て、アマゾン・プライム・ビデオの見放題のボタンをクリックできない。
「お使いのデバイスは、VPNまたはプロキシサービスを使用してインターネットに接続されています。VPNまたはプロキシサービスを無効にしてもう一度お試しください。」
動画サービスの中には、VPNやプロキシサーバー経由でも使えるYoutubeやNetflixなどと、VPNやプロキシサーバー経由で使えないアマゾン・プライム・ビデオがあって、実は分かれている。
しかも、アマゾン・プライム・ビデオでも、IPv4 over IPv6でも普通に視聴できるときもあれば、ある日突然上記のエラーメッセージが出て接続できなくなったり、2週間といった期間が過ぎるとまた視聴できるようになるときがあるという。
実際に目の当りにすると、見放題でないその都度課金される動画のボタンは普通に押せるし見られる。
単に、見放題の動画の視聴開始ボタンだけがエラーメッセージになって押せないだけなのである。
つまり、アマゾン・プライム・ビデオが、仕様として、VPNやプロキシサーバー経由の疑いのある接続を、見放題動画の視聴だけできないよう、跳ねているのである。
アマゾン・プライム・ビデオは、意図的に、VPN経由での接続を見放題動画についてだけそもそも跳ねる内部処理アルゴリズムをもっているのである。
そして、IPv6、またはIPv4 over IPv6 による接続が、アマゾン・プライム・ビデオのサーバーからは、VPN経由の接続と同類に見えてしまう、だから遮断する、ということのようである。
思うに、アマゾン・プライム・ビデオは、時代遅れでIPv6に対応していないのではなくて、VPN経由とおぼしき視聴をトランスボーダー(越境)対策として意図的に遮断しているのである。
例えばプライム料金(物価)の安い外国のアマゾンにVPNで接続すれば、トランスボーダーで安くプライムを使えてしまう。
それを許さないようにアマゾンがそういったトランスボーダー利用を跳ねるのであれば、VPN経由の接続を遮断せざるを得ない。
一方、Youtubeでは、途上国のYoutubeサーバーにVPN経由で有料会員として申し込んで日本の何分の1といった格安で使うという、ハッカーな手口が存在する。
YoutubeではVPN経由の接続を跳ねていないので、トランスボーダーに安く使うことができてしまうのである(但し例えば公開地域が日本国内限定動画は海外VPN経由では見られなくなる)。
では、IPv6、またはIPv4 over IPv6でも、普通に視聴できるときもあれば、ある日突然上記のエラーメッセージが出て視聴できなくなったり、また復活するのはなぜか。
おそらく、特定のIPが割り当てられたときにだけ、そのIPからの通信をはねつけるということのようである。
プロバイダが動的IPアドレスを各ユーザーに割り当てる際に、そのユーザーに割り当てられた動的IPアドレスが、アマゾンにおいて、かつてVPNに使われたIPアドレスであると認識して跳ねている、だから、各プロバイダによって、ユーザーに割り当てるIPアドレスが変わったときに、繋がったり繋がらなくなったりするのでは無いか、と言われている。
しかし、契約している光回線プロバイダがどの程度の頻度でユーザーへの動的IPアドレスの振り分けをやり直すかといったことは、ユーザー側がコントロールできるものではない。
裏返しに見れば、たとえば、自分の契約している光回線プロバイダに要望して、動的IPアドレスを振り直してもらうようにすれば、接続できるようになる可能性はある。
しかし、それもたまたま繋がるようになっただけであって、今度いつ繋がらなくなるかもわからない不安定な環境である。
こんなことでいちいちプロバイダに文句を言うのも面倒である。
そもそも殆どの光回線ユーザーはプロバイダから固定IPをもらう契約をしていないのであるから、動的IPアドレスの変更に文句を言ったりわざわざ変更しろというのは筋違いである。
そもそも、アマゾン・プライム・ビデオ側が跳ねる仕様を採っているから起きているエラーであろう状況で、自分の契約している光回線プロバイダ側にクレームを言うのは、かなり理不尽な不当クレームだとも思われる。
とはいっても、アマゾン・プライム・ビデオどころか、アマゾンのEchoその他デバイスが接続できなくなると言う現象も報告されており、アマゾンのヘビーユーザーからすれば到底堪え難い状況ではあろう。
結局、安定的な接続のためには、IPv6、またはIPv4 over IPv6の回線種別を、IPv4に戻すのが、一番だと言うことになる。
プロバイダも、あちこちで、このアマゾン・プライム・ビデオ関係のクレームにはほとほと困り果てているようであり、探せばヘルプ、FAQにも載せられていることがわかる。
この問題は、アマゾン・プライム・ビデオ側の制限にあるわけだから、プロバイダ側の設定、ルータの設定では、おそらく根本的な解決にはならない。
あれこれ悩んで無理に試行錯誤しても、結局は、IPv4に戻す、というのが、根本的解決になるのであろう。
さて、以上のように、(1)IPv6は途切れやすい(2)IPv6はアマゾン・プライム・ビデオなど見られないサイトがある、といった欠点がある。
しかしながら、回線の通信速度が、IPv4では数十Mbpsのものが、IPv6では300Mbpsといった速度を簡単にたたき出してしまう。
さらに、23時といった混雑する深夜の時間帯では、IPv4ではヘタをすると数Mbpsまで速度が落ちても、IPv6では数十Mbps程度は速度が出たりする。
IPv4では遅すぎて動画視聴やビデオ会議にも支障が出るというのは、混雑した環境ではあながちありえないことではない。
先日も下記の記事で、Windows Updateの集中による光回線の輻湊(混雑)に見舞われたことを紹介した。
混雑解消のために、IPv4からIPv6に変更するのも一案なのだが、ルーターだけならまだしも、交換機(PBX)・電話機まで大規模に機器の交換の必要が及ぶことがあって、しかも、IPv6にしたらかえって途切れやすくなった、インターネット接続にクリティカルな障害が出ました、では、それからもう元にも戻せず、収拾がつかない。
このように、IPv6の切断現象は、クリティカルな場面では許容しがたく、やはりIPv4の安定性を採りたい。
典型的なトレードオフになっているのである。
結局のところ、そのトレードオフに悩む層は、IPv4の速度でもでもしのげるならそれでしのぎ、もっとIPv6の技術が枯れて練れてきた頃に、IPv6やIPv4 over IPv6に乗り換えるのがよいのであろう、というのが結論になる。
たまに遅くて光回線利用に支障が出るときには、povo2.0に330円課金してデータ通信使い放題を2日間利用すればいい、という、冗長化が意外に優れている、という発想になるのである。
光回線では、IPv6のオプションは無料のこともあれば月数百円のこともある。
オンラインパネル上の設定で気軽にIPv4 ←→ IPv6のONOFFを切り替えられる光回線プロバイダもある。
実験気分で、光回線プロバイダに申し込んで、回線種別をIPv4やIPv6に切り替えてみるなどしながら、どちらがストレスフリーか、エラーフリーか検証するしか無いように思われる。
但し、その際にも、IPv6ルーターやWifiルーターの設定を、ルータ形式かパススルー(ブリッジ)形式かで切り替えるなどといった、設定変更をしなければならず、それはそれでかなり面倒な作業となり、初心者にはほぼ無理なレベルである。
というわけで、エラーフリーを求める初心者は、無理せず、IPv4をベースにするほうがよいのだろう。
マンション収容回線は安いが、一戸建て用の回線に切り替えるなどして、多少でも回線速度をましな状況に持っていくほうが、安全なように思われる。