音楽教室 vs JASRAC 最高裁判決

私のブログで、

JASRACは音楽教室団体に勝ったの?(2018年3月9日)
https://blog.lawfield.com/?p=453

 

という記事を書いてから4年半が流れた。

 

JASRACは、音楽教室の授業料から2.5%の徴収をすると宣言していた。

 

それで音楽教室団体(一般財団法人ヤマハ音楽振興会)が、JASRACと係争に及んでいたのである。

 

その最高裁判所判決が、とうとう、本日出された。

 最高裁判所令和4年10月24日 第一小法廷判決(令和3年(受)第1112号 音楽教室における著作物使用に関わる請求権不存在確認請求事件)

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=91473

「音楽教室の運営者と演奏技術等の教授に関する契約を締結した者(生徒)のレッスンにおける演奏に関し上記運営者が音楽著作物の利用主体であるということはできない」という判決である。

 

長いが、引用する。

1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
上告人は、著作権等管理事業法2条3項に規定する著作権等管理事業者であり、著作権者から著作権の信託を受けるなどして音楽著作物の著作権を管理している(以下、上告人の管理に係る音楽著作物を「本件管理著作物」という。)。
被上告人らは、音楽教室を運営する者であり、被上告人らと音楽及び演奏(歌唱を含む。以下同じ。)技術の教授に関する契約を締結した者(以下「生徒」という。)に対し、自ら又はその従業員等を教師として、上記演奏技術等の教授のためのレッスン(以下、単に「レッスン」という。)を行っている。
生徒は、上記契約に基づき、被上告人らに対して受講料を支払い、レッスンにおいて、教師の指示・指導の下で、本件管理著作物を含む課題曲(以下、単に「課題曲」という。)を演奏している。
2 本件は、被上告人らが、上告人を被告として、上告人の被上告人らに対する本件管理著作物の著作権(演奏権)の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権等が存在しないことの確認を求める事案である。本件においては、レッスンにおける生徒の演奏に関し、被上告人らが本件管理著作物の利用主体であるか否かが争われている。
3 所論は、生徒は被上告人らとの上記契約に基づき教師の強い管理支配の下で演奏しており、被上告人らは営利目的で運営する音楽教室において課題曲が生徒により演奏されることによって経済的利益を得ているのに、被上告人らを生徒が演奏する本件管理著作物の利用主体であるとはいえないとした原審の判断には、法令の解釈適用の誤り及び判例違反があるというものである。
4 演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては、演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である。
被上告人らの運営する音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏は、教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し、その向上を図ることを目的として行われるのであって、課題曲を演奏するのは、そのための手段にすぎない。そして、生徒の演奏は、教師の行為を要することなく生徒の行為のみにより成り立つものであり、上記の目的との関係では、生徒の演奏こそが重要な意味を持つのであって、教師による伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる。また、教師は、課題曲を選定し、生徒に対してその演奏につき指示・指導をするが、これらは、生徒が上記の目的を達成することができるように助力するものにすぎず、生徒は、飽くまで任意かつ自主的に演奏するのであって、演奏することを強制されるものではない。なお、被上告人らは生徒から受講料の支払を受けているが、受講料は、演奏技術等の教授を受けることの対価であり、課題曲を演奏すること自体の対価ということはできない。
これらの事情を総合考慮すると、レッスンにおける生徒の演奏に関し、被上告人らが本件管理著作物の利用主体であるということはできない。
5 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 深山卓也 裁判官 山口 厚 裁判官 安浪亮介 裁判官 岡 正晶 裁判官 堺 徹)

 

言っておくと、私は、もう丸7年近く、音楽教室でクラリネットを習っている。

 

だいたいずっと週1ペース×1時間、通っている。

 

コロナ禍の期間中も、Skypeでオンライン上で、レッスンを続けてきた。

 

音楽教室のヘビーユーザーだろうと思う。

 

素人ビッグバンドにも所属しているが、その練習でも先生はソルフェージュしたり合奏に参加してくれる。

 

だから、心情的に、私は音楽教室の味方である。

 

この最高裁判決は、うれしい。歓迎である。

 

ただ注意しないといけないのは、教師が生徒に演奏を一人で単独で演奏して模範演奏として披露することはできない、ということである。

 

それをすると、著作権侵害になるので、JASRACに著作権料を払わないといけない(もちろん、JASRACに登録していない練習曲集のテキスト等では不要である)

 

判決文には、

 

「教師による伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる」とある。

 

最高裁判決のいう、教師による伴奏というのは、どういう意味だろうか。

 

生徒の演奏する独奏声部に対する伴奏声部(違うメロディーや和音)のことであろうか。

 

それとも、主声部がメロディーだとして、同じメロディーを同時に「ユニゾン」で演奏することだろうか。

 

実際の練習ではどちらもありうるのだが、最高裁は、教師は伴奏声部に限定しているのか、ユニゾンも許容しているのか、一読しただけでは、わからない。

 

しかし、(伴奏として、の意味と思われるが)「各種録音物の再生」が行われたとしても、著作権料が発生しないとも最高裁判決は述べる。

 

たとえば、Youtubeで見本演奏を流して生徒がそれを伴奏としても、著作権料は発生しない。

 

じゃあ、Musescoreで生徒が自分で見本演奏を掛けて伴奏してもらって、著作権料は発生しないということだろうと思われる。

 

だったら、教師が見本演奏を独奏したら?

 

そこは最高裁判決だけでははっきり読み取れない。

 

これは、最高裁判決では、「生徒の演奏」に著作権料をJASRACが徴収できるか、ということだけが争点になった事件だからである。

 

この最高裁判決のもとになった高等裁判所判決(東京高等裁判所令和3年3月18日判決)では、教師の演奏については、著作権侵害になる、と判断されている。

 

そして、音楽教室側は、そこでは別に敗訴が確定している(上告不受理)。

 

そして、高等裁判所判決で、音楽教室での生徒の演奏は著作権侵害にならない、と判断してJASRACが敗訴した箇所について、JASRAC側が上告して争った部分だけが、この最高裁判決でJASRAC敗訴として判断されたのである。

 

つまり、教師の独奏については、音楽教室側の敗訴確定。

 

念の為、高等裁判所判決まであたってみる。

 

判決の末尾に、どんな演奏態様での音楽教室での演奏行為が審理対象になったか書かれている。

 

音楽教室が勝った、生徒の演奏(+教師の伴奏)の部分は以下である。

 

著作物使用態様目録1
(録音物の再生を行わないレッスンでの使用)
(演奏態様)
生徒が課題曲を初めて演奏する際等に,必要に応じて,生徒が演奏する前に,教師が一曲を通して又は部分的に課題曲を演奏して課題を示し,課題曲を,当該曲の課題を含む数小節ごとに区切って,生徒が教師に対して演奏し(生徒の演奏の伴奏として教師が演奏する場合がある。),生徒の演奏を目の前で聞いた教師が,生徒に対する演奏上の課題及び注意を口頭で説明し,必要に応じて当該部分の演奏の例を示し,教師の指導を聞いた上で,再度生徒が演奏するということを繰り返し行った後に,一つ一つの課題を達成したかの確認のために,練習してきた部分を(一曲を通して行うものではない。),又は一曲通して生徒が演奏する(生徒の演奏の伴奏として教師が演奏する場合がある。)という練習及び指導の過程で行われる,あらかじめ購入していた楽譜を使用しての生徒及び教師の演奏。

 

著作物使用態様目録4
(録音物の再生を行わない個人教室のレッスンでの使用)
(演奏態様)
録音物の再生演奏が行われない状況下において,生徒が課題曲を初めて演奏する際等に,必要に応じて,生徒が演奏する前に,教師が一曲を通して又は部分的に課題曲を演奏して課題を示し,課題曲を,当該曲の課題を含む数小節ごとに区切って,生徒が教師に対して演奏し(生徒の演奏の伴奏として教師が演奏する場合がある。),生徒の演奏を目の前で聞いた教師が,生徒に対する演奏上の課題及び注意を口頭で説明し,必要に応じて当該部分の演奏の例を示し,教師の指導を聞いた上で,再度生徒が演奏するということを繰り返し行った後に,一つ一つの課題を達成したかの確認のために,練習してきた部分を(一曲を通して行うものではない。),又は一曲通して生徒が演奏する(生徒の演奏の伴奏として教師が演奏する場合がある)という練習及び指導の過程で行われる,あらかじめ購入していた楽譜を使用しての生徒及び教師の演奏。

 

やはり、ユニゾンか、伴奏声部のことかは、わからない。ということは、おそらく両方を含むの(著作権料不要)であろう。

 

いずれにせよ、生徒の授業料からの徴収は認められないこととなるわけだが、一方で教師側からは徴収できるということになると、結局音楽教室側からは一定は徴収できることになるわけである。

 

その%については、依然として、未解決のように思われる。

 

もう一度地方裁判所から争うことになるのだろうか。それとも協議で決着を付けるのか。

 

レッスンで生徒と教師が演奏する時間の割合によるのだろうか。それならせいぜい9対1でほとんどが生徒が演奏する時間のような気がするが。

 

JASRACは、「半半だ」と言うであろう。

 

血みどろの、音楽観、音楽教育観、信条の対立として深刻な事件だったので、はいそうですかとは、なかなか、まとまりにくそうである。

 

いずれにせよ、楽器を習い、自分で演奏する喜びに目覚めた者としては、なにやら溜飲を下げた、嬉しい判決である。

西村幸三

lawfield.com

京都・烏丸三条にある法律事務所を運営。ニュース・法改正・裁判例などから法務トピックを取り上げていきます。