仮想通貨取引所FTXでなにが起きているのか。
FTXに関する報道は、日本では断片的で、十分に理解されていないように思われるので、破綻から約10日後の現時点での状況を分析して整理しておきたいと思う。
バハマを本社とする仮想通貨取引所FTXは、バイナンスに次ぐ世界第2位の仮想通貨取引所であったが、2022年11月11日に顧客預かり資産の引き出しを停止し、米連邦破産法11章(チャプター・イレブン)に基づく会社更生手続きの申請を行い、破綻した。
顧客にはほとんど預かり資産が返ってこない見込みであるという。
日本では、仮想通貨取引所は資金決済法及び金融商品取引法の適用を受け、顧客預かり資産の自社資産との分別管理を義務付けられている。
これはもちろん米国でも同様であろうと思われるが、どうもそこが曖昧なようである。
https://jp.wsj.com/articles/how-ftxs-sam-bankman-fried-went-from-crypto-golden-boy-to-villain-11668414003
また以前、暗号資産の悪徳業者を批判していたバンクマンフリード氏自身が、連邦当局の調査を受ける立場になった。この問題に詳しい関係者によると、同氏は顧客資金を流用すると決めたのは、誤った判断だったと話しているという。
従来型の金融では、規制当局が証券会社に対し、トレーディングに使う資本と顧客資金を分離するよう義務付けている。だが暗号資産という未開拓領域では、ルールはより曖昧だ。バンクマンフリード氏やFTXが、顧客資金の損失に関していかなる法的な影響に直面する可能性があるのかはすぐに明確にはならなかった。
本来、取引所として預かっているビットコインなどの引き出しに応じられないということがメチャメチャである。
それができないということは、おそらくは何らかの法律や資産預かりの規約に違反して、顧客の預かり資産を使い込んだということにほかならない。
日本であれば、故意でやっていれば、金融商品取引法、資金決済法違反という以上に、業務上横領といっても良い。
たとえば証券会社でも、顧客資産の分別管理は証券取引法その他で法令上徹底されており、顧客から預かっていた証券が返ってこないということは、あってはならない。
証券会社のMRFは、一見、銀行預金のように一口=1円で常時引き出すことができるが、あくまで預かり資産であり、証券会社の破綻時にも全額保障される。
国内株式については証券会社に預かってもらっている場合は自動的に証券保管振替機構(ほふり。JASDEC)に再預託されているので、証券会社を変えて移管するだけである。
銀行や信用金庫の預金の場合は、破綻時はペイオフとして、元金1000万円以上の預け入れ部分は保障されない。
1000万円までの部分は、預金保険機構が保障する。
https://www.dic.go.jp/
仮想通貨取引所も、顧客預かり資産の分別管理が資金決済法の義務である以上、それを履践していれば、仮に仮想通貨取引所の会社自らが資金ショートを起こしてデフォルトとなっても、仮想通貨取引所の債権者は一切顧客預かり資産に対して権利を行使できない。
しかし、今回のFTXは、顧客預かり資産のほとんどを、自らの事業に使い込んだようである。
米証券取引監視委員会(SEC)はこの間検査に入らなかったのか、いったい何をしていたのかと、疑問を感じざるを得ない体たらくであるが、顧客資産の分別管理はあまりに基本中の基本であり、故意に違反すれば金融犯罪として経営者も破滅するために、普通、起こり得ない。
FTXの共同創業者サム・バンクマンフリードは、若干30歳である。
混乱広がる暗号資産(仮想通貨)取引所FTXの経営破綻:繰り返された問題
https://news.yahoo.co.jp/articles/3bb60d4887c842316e9961fe8ee376d3554f16c2
報道によると、サム・バンクマンフリードは、グループ企業の自らが代表を務めるトレーディング会社アラメダ・リサーチ社に対し、顧客預かり資産160億ドルのうち、100億ドルを貸し付けていたという。
そして、アラメダ・リサーチから、サム・バンクマンフリードと他の2人の経営幹部、FTXのグループ企業の1社が、多額の融資を受けていたことが、米破産裁判所に提出された資料で17日分かった。
アラメダ、FTX前CEOらに5740億円融資-幹部や関連会社にも資金
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-11-18/RLINEBT0G1KX01
債権の内訳は、バンクマンフリード氏向けが10億ドル、同氏が過半を所有するペーパー・バードが23億ドル、FTXのエンジニアリング責任者ニシャド・シン氏向けが5億4300万ドル、 FTXデジタル・マーケッツの責任者ライアン・サラーメ氏向けが5500万ドルとなっている。
支払い請求の承認がチャットルーム上で絵文字で行われたり、FTXの資金を社員やアドバイザーらが住宅購入などに私的流用したりするなど、異常なほど緩いFTXの文書・財務管理の全容が裁判所に提出された文書で示された。
そして、呆れるのは、ガバナンスの徹底的な欠如である。バンクマンフリードが意思決定を意図的に自動消去するアプリ上で行い、記録を残さなかったものとされている。
FTX、内部統制と記録管理「完全に欠落」-破綻処理の新CEO
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-11-17/RLHYX8T1UM0W01
FTXの新最高経営責任者(CEO)に就任した企業再生・再編の専門家、ジョン・J・レイ氏は「私のキャリアにおいて、ここまで企業統治が完全に機能不全で、信頼できる財務情報が完全に欠落している状態は見たことがない」と、デラウェア州の連邦破産裁判所に提出した宣誓書で表明した。
「システム整合性の欠陥や国外での規制監督の不備から、経験が浅く不慣れで問題がある可能性のある非常に少数のグループへのコントロール集中に至るまで、この状況は前代未聞だ」としている。
さらにFTXグループの資金が住宅など従業員の個人資産の購入に使われていたとレイ氏は述べた。バンクマンフリード氏は短時間で自動消去するアプリを使って連絡することが多く、従業員にもこのアプリ使用を求めていたため、社の方針決定の記録を入手することは難しいという。
このアラメダ・リサーチという会社は、仮想通貨投資をおこなっていたとのことである。
アラメダ・リサーチ自身も借り入れを行い、保有する仮想通貨資産、その中にはFTX自身が発行する仮想通貨も担保に入れていたとのことである。
つまり、レバレッジ(てこ)をかけて、仮想通貨の値上がり益を獲得しようというスキームである。
その中には、FTX自身が制作して展開する仮想通貨(FTT。FTXトークン)もある。
仮想通貨が値上がりする限りは、巨額な値上がり益に裏付けられて、資金ショートに陥ることはない。
しかし仮想通貨の値下がり局面となれば、逆にレバレッジがかかり、あっという間に保有資産を大幅に上回る巨額の損失と含み損を出し、担保となる仮想通貨資産が毀損することから、ファイナンスを受けることもできず、たちまちに破綻することとなる。
FTXが自ら仮想通貨FTXトークンを発行し、FTXが保有する仮想通貨資産の中核がFTTで、それを担保価値としてファイナンスを受けていたとなると、価格下落局面でFTXが一旦信用不安に陥れば、その逆レバレッジは破滅的なものとなる。
仮に損失を隠して糊塗しようとしても、同様にレバレッジをかけて仮想通貨に投資している投資家が価格下落局面ではどんどん資産を引き出して損失補填をせざるをえない状況に陥るわけだから、あっという間に大量の預かり資産の引き出しが進む。
折からの米国FRBによるインフレ抑制策、金利引き上げを発端とする仮想通貨市場の下落により、取り付け騒ぎと資金ショートは避けられないのである。
だからというべきか、バンクマンフリードは、自らとFTXの信用性を虚飾しスキームを維持するためのロビイングもおこなっていた。
SEC(米国証券取引委員会)のゲイリー・ゲンスラー(Gary Gensler)議長の、Alameda Research(アラメダ・リサーチ)との関係
https://nextmoney.jp/?p=54523
MIT(Massachusetts Institute of Technology:マサチューセッツ工科大学)の教授としてのゲンスラー議長の役割は広く知られている。実際、SEC議長は、ブロックチェーン技術の潜在的な使用法を探る「ブロックチェーンとお金」に関するコースを提供。MIT 在学中、同議長は米国の経済学者でもあるグレン・エリソン(Glenn Ellison)Alameda Research元CEO(最高経営責任者)と緊密に協力。また、興味深いことに、Alameda ResearchのCEOであるキャロライン・エリソン(Caroline Ellison)はグレン氏の娘である。
この内容だけでは、SEC議長がFTXと癒着していたとは言えないと思われるが、米国の金融エリートが極めて狭いサークルを形成していることは想像ができるところで、これでは、SECまでがFTXの監督に関する公正さを疑われかねない事態にも発展しかねないだろう。
【社説】FTX創業者、自社事業に政治を利用
https://jp.wsj.com/articles/the-crypto-politics-of-bankman-fried-11668572854
バンクマンフリード氏が今回の選挙サイクルを通じて行った民主党への献金は、著名投資家のジョージ・ソロス氏に次ぐ2位の規模だった。バンクマンフリード氏の今回の選挙絡みの政治献金は4000万ドル(約55億8000万円)近くに上っており、そのうち90%以上が民主党向けだった。
とりわけ、バンクマンフリード氏の個人献金は主に、暗号資産関連の法案成立に向けて重要な役割を果たすとみられる民主党議員に向かっていた。上院農業委員会のデビー・スタベノウ議員、キルステン・ジルブランド議員、コリー・ブッカー議員、ティナ・スミス議員などだ。暗号資産関連の法案はバンクマンフリード氏の会社に影響をもたらす。彼はまた、共和党幹部のジョン・ブーズマン議員にも献金していた。
FTXはスタベノウ、ブーズマン両氏が作成した法案を支持していた。同法案は、暗号資産、ブローカーと取引所に関する主な監督権限を商品先物取引委員会(CFTC)に与えるものだ。証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長は、暗号資産を証券として規制することを求めている。それが実現すれば、バンクマンフリード氏の利益を上げるための活動は制限されたはずだった。
暗号資産分野の規制をめぐる議論は、党派間の論争とはなっていない。しかし、バンクマンフリード氏は、議会の民主党が同分野へのゲンスラー氏の干渉を阻止してくれるのではないかとの期待から、同党議員らと親しくなることを恐らく望んでいたとみられる。同氏は今年、ゲンスラー氏と会ったとも報じられている。
暗号通貨取所FTXの幹部らが「政治献金」に意欲を燃やす理由
https://forbesjapan.com/articles/detail/50154
FTXでは政治献金が頻繁に行われている。米連邦選挙委員会のデータベースによると、過去2年間でFTXの社員は250ドルから数百万ドルまで、300件以上の個人献金を行っている。
日米の法規制の状況を比較する限り、どうやら、仮想通貨の預かり資産の分別管理について、日本のほうがよほど米国の規制より先行していたものと思われ、非常に珍しい事態のように思われる。
米国の規制が、野放し状態にあったということかもしれない。
しかし、日本の証券取引法や金融商品取引法のような行政規制がないからといって、バンクマンフリードら経営陣が顧客の預かり資産を流用して使い込んでいいとはならず、別の法令によって違法行為として処罰される可能性は大であると思われる。
FTXが顧客から金を集めるスキームとして、更にエグいと思われるのは、FTX Earn である。
FTX Earnは、仮想通貨を、FTXグループ企業に預託して、第三者に貸し出して運用してもらうとして預ければ、1万ドルまで年8%、1万ドルから10万ドルまで年5%の利回りが得られる、という金集めスキームである。
このようなことをやっている仮想通貨取引所は他にもあるが、つく金利は他業者よりかなり高率であった。
実際に、2022年11月になって、FTX Earnの仕組みを詳しく紹介してブログにアップし、自身も投資したというファイナンシャル・プランナーのブログ記事が存在する。
FTX Earnのやり方|入れとくだけで最大年8%の利回り
https://www.survive-m.com/crypto/ftx-earn.html
上記のブログで、ファイナンシャル・プランナーがFTXへの質問と回答のやりとりを紹介しているが、顧客が、FTXの預かり資産である仮想資産を、FTXの関連会社(海外の法人のようである)に貸し出すこととした時点で、日本法である資金決済法や金融商品取引法の保護からは外れ、たとえ日本法人に預けた仮想通貨として保護を外れるものと思われる。
さて、こうやってみていけば、FTXは、日本では古くは豊田商事事件、円天事件(株式会社エル・アンド・ジー)、オレンジ共済組合事件などあまた存在する投資詐欺事件を彷彿とさせるだろう。
思えば円天事件も、疑似通貨事件で、かつ高利回りをうたっての自転車操業のポンジ・スキームであった。
あのばかげた疑似通貨の円天が、現在Web3.0などといってもてはやされる仮想通貨の、先駆、だったというべきか。
これらはみな、高額利回りの投資をうたって、一般投資家・消費者から金を集めて、持続困難な投資や関係者への資金流出により、あっという間に破綻した、投資詐欺スキームである。
政治との癒着といえば、オレンジ共済組合などは、当時の友部達夫元参議院議員(旧新進党所属)の政治団体が運営していた共済団体であった。
オレンジ共済組合事件 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B8%E5%85%B1%E6%B8%88%E7%B5%84%E5%90%88%E4%BA%8B%E4%BB%B6
資金の多くが友部の選挙費用や政界工作費(約6億円)、借金返済や遊興費(行きつけの自宅近所のスナックに月に数十万円使っていたという)、あるいは組合専務理事だった妻・次男らに私的に流用された[注 1]。典型的な自転車操業型の投資詐欺(ポンジ・スキーム)であった。
このように、FTXというのは、あまりに幼稚で露骨なポンジ・スキームの特徴を備えていたのである。
その規模やガバナンス・レベルに対して、あまりにも巨額の資金をかき集め、巨額のレバレッジをかけて、自ら仮想通貨の展開・投資を行い、その含み益=成功、と溺れ、野放図な濫費を重ねた挙げ句、市場の資金の逆流によって、自転車操業に陥り、おそらくその中で顧客の預かり資産に手を付けた上で、あっという間に破綻したものと思われる。
仮想通貨に手を出そうという層は、稚拙な個人投資家に多い。
簡単に儲かる、と思えば手を出すわけだから、仮想通貨というストックの値上がり益を追い求めて物色しているところ、仮想通貨取引所に預けるだけで、さらに高利回りで金利がつく、というニンジンをぶら下げられたことで、簡単に食いついたわけである。
今回のFTX破綻は、「仮想通貨界のリーマンショック」といわれているが、一方で、仮想通貨全般の下落により損失を被ったのは個人投資家がほとんどであるとも言われており、リーマンショックのような金融業界全般の信用逼迫には繋がらないと観測されている。
また、日本法人であるFTX JAPANは、報道のニュアンスから推測する限りでは、どうやら、顧客の預かり資産の分別管理はされているようで、インターネットから切り離したコールド・ウォレットにおいて顧客の預かり資産を保管できているようである。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN194EA0Z11C22A1000000/
経営破綻した暗号資産(仮想通貨)交換業大手のFTXトレーディングは19日、資産の売却手続きを開始したと発表した。日本法人FTXジャパンなどが対象となる見通し。各国当局の監督下にあった優良事業を現金化し、債権者への弁済に充てる狙いだ。
11日の米連邦破産法11条(チャプター11)申請に伴い最高経営責任者(CEO)に就任したジョン・レイ氏は「FTX傘下企業のうち、当局の監督下にあった企業の多くは、しっかりした財務であったことが分かった」とコメントした。
日本法人FTXジャパンに加えて欧州法人や仮想通貨交換事業者レジャーX、清算機構のエンベッドクリアリングなどが優先的な売却対象になるという。
それでも、連邦破産法申請のドサクサ時に、内部関係者からと疑われるアクセスによって、FTXからは約4.7億ドルの預かり資産が送金されて流出してしまったという。
なにしろ、FTX本社が提供する仮想通貨取引アプリケーションを使っている限りは、かりにそのアプリケーションを稼働させてしまえば、全世界の内部関係者または外部の悪意ある関係者からログインされて、保護されるべき国内顧客の仮想通貨の預かり資産を不正に送金されてしまう可能性があるのである。
そのため、日本の金融庁は、緊急にFTX JAPANの業務停止命令を発令した。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB110M40R11C22A1000000/
関東財務局がFTXジャパン(東京・千代田)に対し、資金決済法と金融商品取引法に基づき業務停止命令と業務改善命令を出した。12月9日まで交換業の停止とともに、顧客からの資産の新規受け入れも禁じた。
FTXは再開の日程を明示しないまま、顧客からの預かり資産の出金を停止した。これを受け、関東財務局がFTXジャパン(東京・千代田)に対し、資金決済法と金融商品取引法に基づき業務停止命令と業務改善命令を出した。12月9日まで交換業の停止とともに、顧客からの資産の新規受け入れも禁じた。
日本は2018年に起きたコインチェックの暗号資産流出事件を受け、利用者保護規制を強化してきた。金融庁(全国の財務局)の監督下にあることを明確にし、分別管理も義務付けた。米国のようにどこが監督しているのか不透明な面はない。資金決済法は倒産時、顧客の預かり資産の「優先弁済権」を認めており、経営破綻が起きたときの利用者保護は万全とみられていた。
ただ、この規制は日本国内に限った場合に有効とされる。日本の法規制が及ばない海外だと利用者保護に落とし穴がある可能性が指摘されている。それを裏付けるように金融庁は行政処分の中に金商法に基づく「資産の国内保有命令」をもぐり込ませた。
今回の、FTX JAPANの金融詐欺被害で、日本の一般投資家の被害が最小限に抑えられそうであるのは、金融庁の先回りした周到な規制によるクリーンヒット、ないしホームランと評価できそうである。
とはいえ、まだ予断を許さない状況ではある。
バハマのFTX本社では、バハマ当局がFTXのウォレットをバハマ当局のウォレットに移管した。
記事によれば、そもそも、米国連邦破産法11章による申し立てにおいて、FTXバハマ本社を対象にしていなかったのだという。
バハマ当局としては、この状態を奇貨として、バハマ国内の被害者への配当、被害防止を優先しようとして当然である。
それで今後、顧客の預かり資産をどうするかについても、米国とバハマ当局の間で鍔迫り合いが繰り広げられそうである。
一方で、日本法人については、米国連邦破産法の保全命令の対象とされている。
仮に、日本政府・裁判所が、仮に米国連邦破産法の命令を、外国判決に準じて承認(「外国倒産手続きの承認援助法」による承認)するようなこととなれば、FTX JAPANの顧客の預かり資産は、米国に移管され、日本の一般投資家への預かり資産返還は絶望的となる。
FTXジャパン、資金回収難航の可能性 資産保全に懸念も: 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB141GI0U2A111C2000000/
不安要因になりそうなのが破産法制だ。FTXが11日に米国の裁判所に申し立てた米連邦破産法11条(チャプター11)の申請書には日本法人も含まれる。米国の破産管財人が資産を管理し処分を決めることになるが、日本国内の資産管理権がどちらにあるのか現時点ではあいまいな部分がある。
日本の法人が関連した倒産が海外で発生した場合、海外の倒産法が日本国内で自動的に効力を持つことはない。破産管財人が「外国倒産手続きの承認援助法」に基づき日本の裁判所に申請し裁判所が承認すれば、効力が発生する。管財人が日本の資産を管理下に置くことをはっきりさせたり、不当に海外流出したりする恐れがあれば、強制執行を禁止する命令を出せる。日米間で係争に発展する可能性がある。
日本人の資産がどこで管理されているか不透明な面もある。「仮に米国法人が破綻した場合、日本の顧客が米国法人に償還請求可能かどうか定かではない」(金融庁)。
さらに「FTX本体が販売に絡む一部のトークンでは、日本国内の資産管理権がどちらにあるのか、現時点ではあいまいな部分がある」(大手法律事務所の弁護士)との指摘もある。
しかしながら、米国の顧客の預かり資産保護法制の欠如という点に照らし、米国の法規制が相互主義にもとる拙劣なものであるとなれば、日本の金融当局や裁判所が、日本法に優先して米国連邦破産法の適用を日本法人に対して認めるようなことはほとんど考えられないであろう。
それで、米国のFTXの代理人弁護団においても、日本法人やEU域内の法人については、すみやかな売却による換価を目指すという方針のようである。
かろうじて、日本法人の預かり資産については顧客は保護されるという流れになりそうである。
しかし、顧客への返還事務もまた大変である。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-11-19/RLKRVQT1UM0W01
なにしろ、日本法人は、一旦は、コールド・ウォレットに仮想通貨を移動させて外部アクセスから保護したものの、FTX本社が提供してきたアプリケーションを稼働させてしまえば、どんなバックドアや、管理者権限が仕込まれているかもわからず、海外から内部関係者、外部関係者、ハッカー問わず、不正アクセスに見舞われて、あっという間に預かり資産を掠め取られてしまうおそれがある。
だから、顧客の預かり資産の引き出しのプラットフォームとなるアプリケーションから、新規開発せざるをえないという状況なのである。
それにしても、仮想通貨というのは、北朝鮮エージェントが制作して展開して、アプリケーションを提供して仮想通貨取引所に採用させてバックドアとして働かせてハッキングを掛ける事例も米司法省に摘発されるなど、制作・展開する側の悪意・ガバナンスリスクを考えれば、とても手を出せるものではないというのが実際のところである。
先日の私のブログでも、
https://blog.lawfield.com/?p=1546
で、北朝鮮が、仮想通貨を、国家の工作員が制作して展開して、仮想通貨取引所(交換所)にウォレットを取り扱うアプリケーション(マルウェア)をインストールさせた上で、仮想通貨取引所のサーバーを不正に操作して別の仮想通貨例えばビットコインを詐取する、といったサイバー犯罪をおこなったとして、米国司法省(Department of Justice)に起訴され、司法省のウェブサイトにも、ニュースリリースされていることを紹介した。
米国司法省のニュースリリースを再掲しておく。
米国司法省
2020年8月27日リリース
米国は北朝鮮の者らによる2つの仮想通貨取引所のハッキングに関連する280個の暗号通貨アカウントを没収するよう求め、起訴した。
(抜粋、仮訳)
起訴状で主張されているように、2019年7月、北朝鮮の関係者によって仮想通貨取引所がハッキングされました。ハッカーは、Protonトークン、PlayGameトークン、IHT Real Estate Protocolトークンなど、272,000ドル以上の代替暗号通貨とトークンを盗んだとされています。その後の数か月間、資金はいくつかの代理人のIDやその他の仮想通貨取引所を通じて(マネー)ロンダリングされました。多くの場合、その者は、資金移動の経路を難読化するために、暗号通貨をビットコイン、テザー、またはその他の形式の暗号通貨に交換しました(「チェーンホッピング」と呼ばれる手法)。起訴状に詳述されているように、それにもかかわらず、使用された高度なロンダリング技術にもかかわらず、法執行機関は資金を追跡することができました。
訴状でも主張されているように、2019年9月、米国を拠点とする企業が関連する事件でハッキングされました。北朝鮮に関連するハッカーは、同社の仮想通貨ウォレット、他のプラットフォームで同社が保有する資金、および同社のパートナーが保有する資金にアクセスできるようになりました。ハッカーは約250万ドルを盗み、別の仮想通貨取引所で100を超えるアカウントを介してそれをロンダリングしました。
上記の両方のハッキング、および2020年3月の没収訴訟(1:20-cv-00606-TJK)で以前に詳述されたハッキングからの資金はすべて、中国の店頭取引業者の同じグループによってロンダリングされたとされています。侵入と資金移動を促進するために使用されたインフラストラクチャと通信アカウントも北朝鮮に結び付けられていました。
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米国司法省
2021年2月17日 リリース
3人の北朝鮮の軍事ハッカーが世界中でサイバー攻撃と金融犯罪を犯したとして広範な計画で起訴
(抜粋、仮訳)
3人の北朝鮮のコンピュータプログラマーの起訴に関するニュースリリース。
「北朝鮮のハッカーによる犯罪行為の範囲は広範かつ長期にわたっており、彼らが犯した犯罪の範囲は驚異的です」と、米国検事代理のトレイシー・L・ウィルキソンは述べた。「起訴状で詳述されている行為は、復讐をおこない、政体を支えるための資金を得るために手段を選ばない犯罪国家の行為です。
「本日の起訴状で述べられているように、北朝鮮の工作員は、マスクや銃ではなくキーボードを使っており、世界有数の21世紀の国家的銀行強盗である」
・ランサムウェア(PCを乗っ取るマルウェア)とサイバー対応の恐喝:2017年5月に破壊的なWannaCry 2.0ランサムウェアが作成され、2017年から2020年にかけて、機密データの盗難やその他のランサムウェアの展開を含む被害者企業の恐喝と恐喝を試みた。
・悪意のある暗号化アプリケーションの作成と展開:2018年3月から少なくとも2020年9月まで、Celas Trade Pro、WorldBit-Bot、iCryptoFx、Union Crypto Trader、Kupay Wallet、CoinGo Trade、Dorusio、CryptoNeuro Trader、Ants2Whaleなど、複数の悪意のある暗号化アプリケーションの開発は、北朝鮮のハッカーに被害者のコンピュータへのバックドアを提供した。
・暗号通貨企業の標的化と暗号通貨の盗難:数百の暗号通貨企業を標的にし、2017年12月にスロベニアの暗号通貨会社から7500万ドルを含む数千万ドル相当の暗号通貨を盗んだ。2018年9月にインドネシアの暗号通貨会社から2490万ドル、2020年8月にニューヨークの金融サービス会社から1,180万ドルが支払われ、ハッカーは悪意のある仮想通貨取引業者用アプリケーションをバックドアとして使用しました。
・エンタテインメント業界を標的にしたサイバー攻撃:2014年11月、北朝鮮の指導者の架空の暗殺を描いた映画「ザ・インタビュー」への報復として、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントに対する破壊的なサイバー攻撃。2014年12月、映画を上映する予定だったAMCシアターズをターゲットにした。2015年のマンモススクリーンの侵入は、北朝鮮で捕虜になった英国の核科学者を含む架空のシリーズを制作していました。
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