北陸新幹線のルート案について、米原ルートの見直し論が、最近、各方面で噴出している。
結論としては、敦賀~小浜~京都駅~松井山手~新大阪ルートを米原ルートに変更することは無理だろう。
北陸新幹線のルート選定についての議論の歴史を、振り返ってみたい。
北陸新幹線の敦賀~新大阪間のルート案は、
(1)小浜ルート
(2)米原ルート
(3)湖西ルート
が、かつて存在した。他にも舞鶴ルートもあったがこれは一蹴されている。
もともと、国鉄時代(JR民営化以前)の整備新幹線計画は、小浜ルートであった。
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北陸新幹線延伸って? 東京―大阪、環状ルート形成へ 2024新幹線延伸 変わる北陸「なんでだろう」1 日本経済新聞2023年1月3日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC21CHM0R21C22A2000000/
北陸新幹線は、1973年に国が決定した整備新幹線の計画5路線(東北、北陸、北海道、北陸、九州)の1つで、「高崎市付近・長野市付近・小浜市付近を経由し東京と大阪を結ぶ路線」とされていた。
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つまり小浜ルートである。
今から思えば、「なぜ小浜?福井とか敦賀ではなくて?」と疑問が沸く。
小浜は、歴史的に、若狭地方を代表、というより、日本海を代表する港湾都市(日本海から京都奈良への玄関口)として栄えた町であったが、現在の人口は約3万人となっている(敦賀市が約6万人)。
一説には、若狭地方に原子力発電所を受け入れるについての綱引きがあった時代背景がある、とも言われている。
なお、1973年当時、小浜に隣接する高浜町の高浜原子力発電所は既に設置許可が出て建設中であり、小浜原子力発電所計画はちょうどその時期に頓挫して、消滅している。
その後、2010年代にはいって敦賀以西の延伸がフォーカスされるようになったが、関西広域連合は実は米原ルート案を推し、国の試算でも対費用効果は米原ルートが優れるという結果が出ていた。
しかし、JR西日本が提案した小浜ルート独自案で、一気に情勢が変動する。
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米原か京都か兵庫寄りか関空か…北陸新幹線“我田引鉄”大阪延伸5月末に与党案 産経新聞西日本版 2016年3月9日
https://web.archive.org/web/20160326045932/http://www.sankei.com/west/news/160309/wst1603090079-n1.html
(当初の構図としては)関西広域連合は費用対効果が高いとして米原案を推し、小浜案を「国の整備計画で定められた唯一の正式ルート」と訴える福井県との綱引きが続いていた。
局面が転換したのは1月26日。与党検討委でJR西日本が小浜市と京都駅を通る自社案を正式表明し、真鍋精志社長が記者団に「利便性が大きいのは京都を通るルートだ」と強調したためだ。
福井県は悲願とも言える小浜市経由が実現する上に「旅客の動きが大きい京都駅に接続する」(西川一誠知事)としてJR西案を歓迎。富山、石川両県も賛意を示す。
穏やかでないのは、米原案を応援する三日月大造滋賀県知事だ。松井一郎大阪府知事は与党検討委で「(米原案に)こだわらない」と発言、関西広域連合長の井戸敏三兵庫県知事も米原案の支持撤回を表明し、一気に後ろ盾を失った形だ。
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JR西日本・真鍋社長発言で見えてきた「北陸新幹線延伸」の最終形。京都~新大阪は大深度地下で、山陽新幹線とは直通せず
旅行総合研究所タビリス 2016年1月28日
https://tabiris.com/archives/hokuriku-shinkansen-9/
京都経由の必要性
与党検討委は2016年1月26日に衆院議員会館で開かれ、JR西日本とJR東海からそれぞれ意見聴取がおこなわれました。
JR西日本の真鍋社長は、福井県小浜市と京都市を経由して新大阪に至る独自案「小浜・京都ルート」を検討委で正式提案しました。検討委終了後に報道各社の取材に答え、小浜・京都ルートを提案する理由として「利便性と速達性」を強調しています。
当日、JR西日本が配布した2013年の鉄道旅客流動状況の資料によりますと、近畿2府4県から北陸3県への流動は1日当たり16,300人。うち大阪から北陸圏への流動が9,000人と半分以上を占めますが、京都からの流動はそれに次ぐ4,900人あり、3割を占めています。こうしたデータを元に、北陸新幹線が京都を経由する必要性を訴えたそうです。
京都駅・新大阪駅とも地下駅か
福井新聞2016年1月26日付によりますと、小浜から京都に至る具体的なルートについては、「小浜から京都駅直通が基本」とし、「京都駅経由で一気に新大阪まで開業するのがわれわれの望み」と述べたとのことです。
京都~新大阪間については、東海道新幹線の代替機能を果たすために「別線が望ましい」としています。駅の設置場所については、「京都駅はおそらく地下が前提になる。新大阪駅も地下が検討の対象になる」と発言したと報じられています。
米原ルートは「廃案」か
米原から東海道新幹線に乗り入れる「米原ルート」に関しては否定的です。中日新聞滋賀版1月28日付によりますと、真鍋社長は、「運行システムや地震に対する逸脱・脱線防止システムが北陸新幹線と東海道・山陽新幹線で異なり、それらを統合する技術的な課題がある」と指摘したそうです。
同じ日に聴取に応じた、JR東海の宮澤勝己取締役専務執行役員も「東海道新幹線は大変な高密度で運転しており、到底困難」と否定的な姿勢を示しています。
リニア中央新幹線が2045年に大阪まで延伸すれば、過密ダイヤは解消されるとの見方もあります。しかし、宮澤専務は「先の話で不透明すぎて、論ずる段階でない」と懐疑的。真鍋社長も「あまりに世の中の経済が変わってしまう」として、現段階では将来すぎて議論にならないとしています。
JR西日本とJR東海が足並みをそろえて東海道新幹線への北陸新幹線乗り入れに否定的な見解を示したことで、米原ルートは実現困難になり、廃案の公算が高くなりました。小浜・京都ルートにおいても、京都~新大阪間は別線建設の方向性が示されており、東海道新幹線と北陸新幹線が線路を共有する可能性は低くなったとみていいでしょう。
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つまり、小浜から京都駅というルートは、関西広域連合が推す米原ルートより劣勢だったところが、その情勢を一気にひっくり返したのが、JR西日本の真鍋社長の独自案の提出だったのである。
なぜ、JR西日本は、国や関西広域連合のムードから有力となっていた米原ルートをわざわざ拒み、小浜京都駅ルートを独自案として提出し、一気に小浜京都駅ルートへの流れを作ったのか。
答えから言えば、JR西日本の収益を最大化しようとすれば、そうなるのである。
新幹線の乗車料金・特急料金は、営業キロ数で決まる。
これまで北陸の敦賀方面への特急路線は、サンダーバードで新大阪~京都~(湖西線)~敦賀以北の乗車料金・特急料金が入るドル箱路線であった。
しかし、その乗車料金・特急料金が、米原~敦賀間だけになってしまうのである。
仮に北陸新幹線が東海道新幹線に米原から乗り入れられたとしても、運賃収入の相当部分はJR東海に分配しなければならない。
整備新幹線は上下分離方式であり、線路は国・地方自治体が建設して保有・維持管理し、JR西日本は受益に応じた賃料を払うに過ぎない。
整備新幹線は、いわば建設費について、JR西日本にとって低リスクなのである(さすがに大赤字路線を作るとJR西日本もツケが回ってくるが、京都駅、新大阪駅に乗り入れて速達性、利便性を優先することが北陸新幹線全体の収益の最大化に繋がることは自明である)。
もし、北陸新幹線を東海道新幹線に乗り入れて新大阪まで延ばすとすれば、JR西日本がJR東海から乗り入れのための乗車料金・特急料金の分配やコスト負担をするにあたっては整備新幹線のようなルールはないから、JR西日本には、整備新幹線のような上下分離方式によるうまみがないのである。
それどころか、北陸新幹線開業後は、湖西線が、サンダーバードも走らない路線になってしまい、堅田駅まではまだしもそれなりに通勤客がいるが、それ以北は全く不採算路線となってしまう。
湖西線は、貨物列車がかなり走るので、廃線にするわけにもいかないだろうが、特に堅田駅以北の収益性は著しく悪化して、お荷物路線になってしまう。
現在でも、湖西線経由で、京都~敦賀には新快速が走っており、1時間30分で結んでいる。北半分で各駅停車化しているものを通過すれば、実は京都~敦賀は1時間少々で結ぶことも可能であるが、そもそも新快速をいくら早くしても、JR西日本に特急料金は入ってこない。
湖西線は、比良下ろしという西からの強風で運行停止になることが多く、これも防風壁の設置で近年着実に解決に向かっている(人口増加が続く湖東に比べて湖西が人口減少気味なのは、湖西の平野部が少ないことに加えて、湖西線が風で停まって通勤通学で不便なことも、イメージを落としている一因と思われる)とはいえ、湖西線は新幹線の代替路線とするにはさすがに貧弱である。
だから、湖西線のお荷物化を埋め合わせる意味でも、北陸新幹線の収益最大化はJR西日本の生き残りをかけた至上命題なのである。
JR西日本は、米原から東海道新幹線に乗り入れることなく、京都・新大阪に直接整備新幹線の線路を国・地方自治体に敷設してもらうほうが、建設費も低リスクで、より長い営業キロ数で乗車料金・特急料金をカウントできて収益も上げられる。
JR東海としても、東海道新幹線への北陸新幹線乗り入れ協力は、仮に米原ルートに正式決定した段階で、国から一喝されれば、わかりましたと、対応せざるを得なかっただろう。
しかし、JR西日本が、小浜京都駅ルートの独自案を望むなら、JR東海としては、東海道新幹線に乗り入れられる面倒を回避できる。
北陸新幹線の東海道新幹線の乗り入れによって、JR東海は多少はJR西日本の収益を奪うことはできるのだが、もともとがサンダーバードでJR西日本に入っていた収益であって、ドル箱路線の東海道新幹線を持つJR東海としては、わざわざ奪いに行くほどの収益ではない。
JR西日本が、整備新幹線の枠組で国・地方自治体から兆単位の新線建設費を補助金として引っ張り出せる仕組みを、最大限活用したいという意向を持つものを、同じ民間鉄道会社であるJR東海があえて邪魔をしようということにはならないであろう。
JR東海が、JR西日本の小浜ルート独自案に、平仄を合わせて同調したことは、いわば、民間鉄道会社としては、当然なのである。
JR東海+JR西日本の2社レベルでの全体最適としては、当然の結論である。
でも、建設費の3分の1を負担する地方自治体を加えた全体最適となると、状況が一変してしまうのである。
この小浜京都駅ルートは、しばらく、「JR西日本の独自案」と報道されるようになる。
米原ルートをJR西日本から袖にされた滋賀県は、2016年12月5日に三日月知事が第21回与党 北陸新幹線敦賀・大阪間整備検討委員会において意見を延べている。
https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kendoseibi/koutsu/12440.html
この時点での三日月知事の主張は、小浜ルートには同意できない、米原ルートがよいというものである。
要点は、
1.国において、米原ルートが調査され、最も投資効果が優れるという優位性が確認された。
2.米原ルートが、開業までの期間が短く、建設費が低廉で、費用対効果に優れる
3.人口減少社会を迎え「早く」「確実に」整備することが必要
4.運行管理システムは、JR東海の東海道新幹線の(COMTRAC)とJR西日本の北陸新幹線(COSMOS)で違うというが、JR西日本の山陽新幹線(COMTRAC)とJR九州の九州新幹線(SIRIUS)も情報通信サーバーを介して接続できている。
5.脱線・逸脱防止装置は、「東海道・九州新幹線」と「山陽新幹線」が異なるのに、車両対策を施し相互直通運転を実施している。
というものであった。小浜ルート案で与党が事実上決した現在でも、なお米原ルートが妥当だとして推す意見は絶えないが、その根拠は、ほぼ上記の三日月知事案に記載されているといってもよい。
JR西日本の真鍋社長の米原ルート+東海道新幹線への乗り入れ案への反対理由は、正直、説得力を欠く。
20年も先の開通を考えれば、運行システムの接続対応作業はほぼ確実に可能であるし、脱線防止装置についても、北陸新幹線の車両側でJR東海の脱線防止装置との干渉を防いで、東海道新幹線用の追加的な設備に対応する改修をおこなうことはおそらく可能だろう(東海道新幹線から北陸新幹線に乗り入れるわけではないので)。
だから、JR西日本の真鍋社長も、「技術的な課題はある」と言いながら「不可能」とは言っていないのである。
さて、話変わって、おそらく小浜ルートの抱える大きな爆弾は、「京都地元民による反対運動」にある。
小浜京都間で、通過することがほぼ不可避な美山町(かやぶきの郷で有名)は、工事の際の残土処理やダンプの通行などにより地域環境が破壊されると主張して、反対運動が燃え広がっており、環境アセスメントの実施の目処すら立っていない。
さらには、京都市内を大深度地下で通過して京都駅に東西に地下駅を設置するとなれば、埋蔵文化財問題、さらには地下水問題が生じて、反対運動も含めた大幅な工期延期や、建設費の増大がほぼ避けられない、という問題がある。
現時点の国土交通省の試算でも、小浜京都駅ルートの工事費は5兆円を越える可能性があるとされている。
3分の2は国であるが、3分の1は都道府県が負担する。
京都府の負担分だけで1兆円はゆうに超えるだろう。人口250万人の京都府にはかなり厳しい数字である。
京都府からすれば、それで新たにできる駅は松井山手駅だけとなる。
松井山手駅は、学研都市線(片町線)沿いにある京田辺市の丘陵地に作られた新興住宅地で、いわば大阪への通勤者が大半を占める大阪のベッドタウンである。
松井山手駅は、JR奈良線や近鉄京都線とも、学研都市線を数駅ほど東南に行けば木津駅や祝園駅で接続しているとはいえ、木津駅・祝園駅周辺さらに奈良北部も含めて、この一帯は大阪のベッドタウン圏なのである。
つまり、松井山手駅に新幹線を作ったところで、京都府にとっての便益効果がかなり薄い。
(尚、松井山手駅は、高速道路の第2京阪がすぐ横を通っており、高速バスの発着に極めて便利であるため、高速バスターミナルとしての有用性とポテンシャルは高い)
しかも、美山町や京都市その他での反対運動が起きればそれだけ京都府の工事費の負担もかさむ。
建設費高騰のたびに京都府の負担額が上方修正され、炎上して政治マター化してしまうだろう(大阪夢洲万博のように)。
だから、京都府知事、京都市長ともに、日を追うにつれて、北陸新幹線の建設受け入れや莫大な建設費負担・地下工事の生む軋轢に、懸念を示す発言が出たり、消極姿勢を示すようになってきているのである。
率直に言えば、京都府・京都市の首長は、政治的リスクしかないので、本当は断りたいのであろうが、立場上言い出せないというジレンマに陥っている(と思う。もちろんそんなことは公には言えない)。
もし仮に、整備新幹線のこの区間の建設費を全額国が負担するとか、都道府県負担分が3分の1よりはるかに小さくなるならば、京都府にも公共事業として金は落ちるから、受け入れ賛成にシフトする可能性もあるが、なにしろ、京都府にとっての便益効果がほとんどない現状では、京都府議会でも京都市議会でも、昨今の各会派のつばぜり合いが激化していることからも、結構な悶着が容易に予想される。
その軋轢とバッシングがまる30年程も続くということになるとなれば、政治的には厄災・悪夢といってもおかしくないだろう。
本音のところで「ほんとに20数年でできるのか?」「5兆円で済むのか?」と尋ねられれば、「今の試算だから、大幅に遅れるし、工事費もさらに巨額に増えるだろう」というのが、政府関係者やJR関係者といえども、冷静な見立てだろう。
さらに2030年までは整備新幹線の予算はないので、工事着工もまだ6年程無理なのである。
完成したときの日本の人口・新幹線乗車人口を考えると、便益はさらに低下しているのである。
ちなみに、京都駅に大深度地下で駅ができたとしても、乗り換えは楽ではない。
京都駅南北ルートだと、京都市営地下鉄に乗り換えようとすれば、堀川通から烏丸通の間を歩くことになるので、平地でも15分はかかる。大深度地下に降りるので長大なエスカレーターも必要である。京葉線の東京駅への乗り換えより大変そうである。
京都駅東西ルートの方がまだましであるが、その場合も、渋谷駅副都心線(東横線)からJR山手線に乗り換えるような感覚だろうと思われる。
投資回収が10数年早いであろう、米原ルートのほうが妥当ではないかと、意見が噴出しているのも、やむを得ないところである。
しかし、2016年ころは小浜ルートに反発して米原ルートを推していた滋賀県も、現在では、小浜ルートを推している。
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三日月大造滋賀県知事「小浜・京都ルート実現されるべき」 北陸新幹線建設促進大会で早期着工を要望 2024年5月23日
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/2043851
三日月知事は終了後、石川県の一部などから米原ルートを求める声が出ていることについて「滋賀県もかつて(建設費が安いなどの理由で)米原ルートを主張したが、議論の結果、小浜・京都ルートに決まった。論じて決めたことが実行、実現されるべきだ」と記者団に述べた。
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米原ルートでは滋賀県に新幹線の新駅はまず作られず、建設費負担だけが飛んでくる上に、湖西線が並行在来線として地元に移管されてしまう懸念を払拭できないので、この建設費高騰の折に、米原ルートを受け入れるつもりはない、ということになるであろう。
もし国が、米原ルートについては県の建設費負担を限り無く少なくするということであれば、話は変わるかもしれない。
しかし、整備新幹線の建設費負担の枠組を、米原ルート・小浜ルートの解決のために例外を作るといった果断は、財務省が鉄壁で許してくれないだろう。
そもそもそんな例外を前例として認めてしまえば、今後の整備新幹線の整備でも国が建設費用丸抱えせよという要求を制止できなくなる。
つまり、新幹線利用者や地方自治体まで含めた全体最適への道は、いくら議論しても行き詰まってしまっているというのが、北陸新幹線のルート問題なのである。
(補足 2024/9/16)
整備新幹線は、全国新幹線鉄道整備法という法律に基づいて建設、運営される。
(建設費用の負担等)
第十三条 機構が行う新幹線鉄道の建設に関する工事に要する費用(営業主体から支払を受ける新幹線鉄道に係る鉄道施設の貸付料その他の機構の新幹線鉄道に係る業務に係る収入をもつて充てるものとして政令で定めるところにより算定される額に相当する部分を除く。)は、政令で定めるところにより、国及び当該新幹線鉄道の存する都道府県が負担する。
とされており、政令(全国新幹線鉄道整備法施行令)では、
(国及び都道府県の負担)
第八条 国及び都道府県が法第十三条第一項の規定により負担すべき費用の額は、毎事業年度、新幹線鉄道の建設に関する工事に要する費用の額から前条第二項の国土交通大臣が定める額を控除した額に、国にあつては三分の二を、都道府県にあつては三分の一を、それぞれ乗じて得た額とする。
とされる。つまり、鉄道設備貸付料を除く建設費は、国3分の2、都道府県3分の1負担である。
しかし、都道府県が3分の1まるまるを負担するわけではなく、全国新幹線鉄道整備法の13条の2では、
(地方公共団体に対する財源措置)
第十三条の二 国は、前条第一項及び第二項の規定により新幹線鉄道の建設に関する工事に要する費用を負担する地方公共団体に対し、その財政運営に支障を生ずることのないよう、そのために要する財源について必要な措置を講ずるものとする。
とされており、これは、毎年の地方交付税交付金のことである。
全国新幹線鉄道整備法の政令8条そのものを改正してしまうと、長年の整備新幹線建設のルールをひっくり返してしまうので、これまでの新幹線整備で負担してきた沿線自治体が収まらないし、今後の新幹線整備でも地方自治体が国丸抱えでの整備を要求して紛糾するのが目に見えている。
そこで考えられるのが、地方交付税交付金の積み増しで、便益の少ない都道府県の実質負担を大きく減らすという手法である。
これなら、地方自治体の財政運営に支障を生じないよう財源措置としての地方交付税交付金を積み増す、という個別場面での調整に留まることになる。
今回の北陸新幹線の敦賀~京都駅~新大阪区間整備では、京都府民の受ける便益は極めて少なく、むしろ、この区間の整備で便益を受けるのは、福井県以北の自治体である。あるいは大阪府のほうが便益を受けると言ってもよいかもしれない。
そして京都府は、全国的に見ても47都道府県の中で財政状態(いわゆる健全化判断比率)は底辺に位置するほどよくない。
北陸新幹線建設負担によって京都府の財政運営に支障を生じさせてしまうと言っても言いすぎではない。
実質公債費比率(借入金(地方債)の返済額=公債費等による財政負担の程度)で全国45位(令和4年度)、将来負担比率(借入金や将来支払っていく可能性のある負担等の残高の程度)で全国44位と、47都道府県の中でもかなり悪い方である。
そのような京都府が、京都府ではなく他府県にとっての便益がよほど高い整備新幹線の負担(大規模深度工事を伴う巨額公費を要する工事負担)を背負うことで財政運営に支障を生じさせないよう、国は、新幹線鉄道整備法に基づき京都府に対し財政措置を講ずる義務があるという構成を取ることは十分に可能と思われる。
この、地方交付税交付金による財政措置は、法令上の根拠もあり、今後も整備新幹線が都会で乗り換えや接続させることにより工事費が跳ね上がる場合の打開策になるようには思われる。
そうはいっても、財務省マターではある。ということである。