斎藤元彦兵庫県知事は公益通報保護法違反をしたか否か

今回、兵庫県の斎藤元彦知事が批判された点について、法律家が一番興味がある点は、実は、公益通報者に対する対応として違法性があった否かに絞られてきているように思われる。

 

元西播磨県民局長が、2024年3月に、マスコミ各社に、内部告発文書を流したことに対し、斎藤元彦知事が指示して告発者の調査と特定をおこない、懲戒処分に付したことについては、「違法である」というのがマスコミ各社の論調である。

 

しかし、実際にインターネットで調べていくと、多くの弁護士が、YouTube、X、ブログなどで、斎藤元彦知事の行為が違法かどうかに関して、「違法である」、「違法でない」に分かれて、公益通報保護法の仕組みや理解について解説していて、見解が真っ二つに分かれているように思われる。

 

両説の弁護士の見解を見比べてみると、それぞれの弁護士の解説は長大なのだが、意外と論点はシンプルである。

 

争いのないポイントとして、

・元西播磨県民局長はマスコミという外部に告発をしたので、三号通報(法第3条三号)である。

 

・3号通報では、真実相当性要件があるため、結果として真実相当性のない外部への通報は、解雇・不利益取扱の禁止の適用がない

 

という点である。これについては、ほとんど争いのない点である。

 

 

本件では、兵庫県が通報者捜しをして特定された元西播磨県民局長が、真実相当性について説明できなかった。噂を寄せ集めただけだったようであった。おそらく、虚偽の事実であると名指しされた職員や企業らが十分に反証できるようなレベルの誤った話も混じっていたものと思われる。

 

そうなれば、事実に相反する部分について、多数のマスコミなどの外部に文書を配布したのであるから、名誉毀損や業務妨害が成立することになるので、事実に相反する部分に懲戒処分をすることは、可能である。

 

元西播磨県民局長は、懲戒処分を受け入れて不服申立もしなかった。

 

元西播磨県民局長が配転などについて争って法廷闘争をして、真実相当性を立証すれば、結果は異なったかもしれないが、それは仮定の議論になってしまう。

 

虚偽の内容が混じっていても、真実相当性のある部分が混じっていれば、公益通報者保護法の保護は受けられる、という説を主張するものもあるが、虚偽でかつ真実相当性の証明がおよそ成り立たないような部分についてまで、懲戒処分をすることが禁じられるというわけではない(この点は、事実評価と事実認定が絡むので、理論的にどちらが正しいと結論をだせることではないだろう)。

 

争いのあるポイント、これが法律家の見解が「行列のできる法律相談所」のように真っ二つになっている点である。

 

そのポイントは、法第11条第2項において、事業者には「体制整備措置」が義務付けられている。兵庫県はこの点で法令違反をしたかである。

 

(合法説)

法第11条2項は、1号通報(事業者自身に通報される場合)の体制整備措置をとることを求めたものであるから、3号通報に対する体制整備措置をとっていなかったとしても、公益通報者保護法には違反していない。つまり合法である。

(違法説)

事業者がとるべき体制整備措置については、消費者庁が定めた「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第 118 号)」また、その解説である「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第 118 号)の解説」が定められている。

その解説14頁において2号通報、3号通報についても、同様に不利益な取扱いが防止される必要があるほか、範囲外共有や通報者の探索も防止される必要がある、と書かれている。

よって、兵庫県が3号通報に対し体制整備措置をとらなかったのは違法である。

 

というものである。

 

ここで、指針の解説に何が書いてあるか、まずは指針の解説の現物を読んでみるべきだろう。

 

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/#012

公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第 118 号)の解説」
14P

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法第2条に定める「処分等の権限を有する行政機関」や「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」に対して公益通報をする者についても、同様に不利益な取扱いが防止される必要があるほか、範囲外共有や通報者の探索も防止される必要がある。

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私自身も、この兵庫県の執行部による公益通報者探しのニュースを始めて聞いた際の印象は、「なんで第三者委員会を設置して調査をしなかったんだろう?」「それでいいの?」という疑問であった。

 

ただ、法律をちゃんと読んでみれば、兵庫県が3号通報に対して第三者委員会を設置するといった体制整備措置をとらなかったとして、違法だといえるのか、といえば、いや、違法とはいえない、違法といえる法令上の根拠がない、と考えるに到った。

 

後述するように、3号通報に対して法第11条第2項の体制整備措置をとるべき法的義務があるとはいえないからである。

 

兵庫県の例規にも3号通報に対して第三者委員会などを設置せよという定めはなかったものと思われる。

 

ところで、合法・違法の分れ目として、「3号通報は、通報で名指しされた者の関与のない第三者機関(第三者委員会)を設置して、初めて調査が可能になるのか」という点である。

 

しかし、公益通報者保護法には、そのような義務づけをする法律の定めは無いのである。

 

だから、第三者委員会を設置せずに調査をしたから違法だといえる法的根拠はないのである。

 

ところで、マスコミやジャーナリストに対する内部告発、いわゆる3号通報というのは、しごく雑多なものがある。

 

当然、怪文書の類いも多く存在する。

 

そういった、怪文書や匿名情報がマスコミに通報されるたびに、事業者に、第三者委員会を設置せよ、というのは、かなり無理がある要求だと思われる。

 

なぜなら、怪文書の類いの通報があったと言って、会社に乗り込んでくる者には、「社会運動標榜団体やその機関誌の記者」「ブラックジャーナリスト」「ブンヤ」といわれる類いの有象無象の者がありうる。

 

それこそ、テレビ局や新聞社に対してすら、そのような者が乗り込んでくる可能性はいくらでもある。

 

そういったから、事業者に対して、「取材」と称した、強請りたかり、明に、暗に、口止め料要求などの不当要求がされることは、いくらでも想定される。

 

そういった社会運動標榜団体やブラックジャーナリストのアプローチに対し、公益通報者保護法が一率に保護を与えて、いちいち、事業者に、第三者委員会を設置させなければ、社内調査にとりかかることもできず、またその事業者を、公益通報者保護法違反に問うのであろうか。

 

新聞の全国紙・地方紙・地上波テレビ局は、公益通報者保護法の3号通報の窓口になり得て、それ以外のジャーナリストや ユーチューバーのジャーナリストは3号通報の対象にはならないのだろうか。

 

ジャーナリストによって3号通報の窓口になるかならないかなどを、法律によって線を引く(テレビ局、全国紙、地方紙に限るとかいった)ことは立法技術としても不可能である。

 

このように考えれば、公益通報者保護法が、3号通報の保護については、1号通報(名誉毀損や業務妨害になりうるようなマスコミなどへの通報ではなく、事業者の内部窓口への通報)とかなりの差異を設けているのは、ある意味当然のことである。

 

本来、1号通報窓口があるような事業者(常用従業員300人以上の会社・団体・地方自治体など)であれば、内部通報窓口に通報すればよいのであって、むしろ、いきなり3号通報をするのでなく、1号通報をするように手順を踏むことを公益通報者保護法は想定しており、だからこそ、法第11条第2項の体制整備措置について定められた指針も、もっぱら、内部通報に対する体制整備措置について規定しているのである。

 

今回、元西播磨県民局長がマスコミに流した文書は、1号通報をすることなく、いきなりマスコミや警察に対して(3号通報として)流されている。

 

そこで、兵庫県知事以外に、多数の職員、そして県の関連団体や、県のパートナー企業が、名誉毀損され、露骨に名指しされていた。

 

その外部通報で名指しされていた職員(当時課長。オリックス・バファローズ優勝パレードの資金調達に関し名指しされていた)のうち1人は、2024年3月の3号通報の翌月の4月に、自ら命を絶っている。

 

当時のわずかな報道では、その課長が亡くなったのも、斎藤元彦知事が原因だ、というのがマスコミの論調であった。

 

現代ビジネス 【独自】兵庫県職員の告白「斎藤知事のヤバすぎる実態」…内部告発文書で名指しされた総務課長の「自殺」説も

 

https://gendai.media/articles/-/131852?page=4

 

しかし、マスコミに対して名指しで告発されたり、報道されたり(もしかすると週刊誌などのマスコミの取材申込が来た可能性はある)、その中身を側聞でも聞かされるストレスは、誰でも大変なものであり、さらに家族を持てば大変なものである。

 

しかも外部告発された人が、仮に担当違い、人違いだったとしたら、あるいは無辜の職員であったとしたら、その外部告発によって招いた人の死という結果は、大変なことである。

 

今回、そのような事実誤認や職員への報道攻勢はなかったのであろうか。

 

マスコミの取材にさらされて、自ら命を絶つ人は、珍しくないのである。

 

そして、マスコミとしては、斎藤知事をパワハラ知事と批難する論調一色になっていたので、怪文書に端を発したマスコミの取材や報道によって、怪文書で名指しされた職員が自殺したとは、言われたくない。

 

だから、マスコミは、その自殺した元課長の自殺までも、斎藤元彦知事のせいにする論調をさらに進めるしかなかったであろう。

 

しかし、元西播磨県民局長によりマスコミに怪文書を流され、名指しされた職員が、自殺したのであるから、率直にいえば、パワハラをおこなって職員の自殺を招いたのは元西播磨県民局長であるという評価になるように思われる。

 

マスコミの報道は、報道されて苦にした人を自殺させるには十分なのである。

 

兵庫県としては、県の職員らの名誉が毀損されてマスコミに流布した以上、職員に対する安全配慮義務(法令上、判例法上)に基づいて、しかるべき対応をする義務がある。

 

兵庫県は、そのしかるべき対応として、社内調査を実施したものである。

 

また、「おねだり知事」とのテレビ報道も執拗だったが、金品を提供したと名指しされた企業にとっては、いちじるしい名誉毀損、業務妨害になっていた。

 

名指しされた企業や団体は軒並み、「おねだりなどされていない」と強く否定していた。

 

しかし、マスコミは、企業・団体側の否定の報道はあまり扱わずに、斎藤知事の「おねだり疑惑」として執拗に報道を続けたが、これは、県のパートナー企業や団体の側からしたら大迷惑だったはずである。

 

近年は、米国腐敗防止法が、米国以外への域外適用がされる時代である。

 

日本国内であっても、その企業が、公務員に対する金品提供が違法行為をしているかのようにマスコミに喧伝されれば、仮にその企業が米国企業との取引があったり米国に関連する事業を有していた場合には、取引停止になったり(取引基本契約書にも米国腐敗防止法違反が解除事由になっている契約書は昨今ざらに見受ける)、米国において捜査・起訴されて巨額の罰金を受ける危険にさらされる。

 

それ以前に企業・団体としては風評被害として許容しがたい。

 

つまり、3号通報によって、特にそれがマスコミ報道と組み合わされることによって、名誉毀損「程度」のことで済まされない業務妨害に等しい深刻な悪影響を、名指しされた個人や、企業に対して、現実に及ぼすのである。

 

こういった職員や企業・団体が、被害者として、刑事告訴(名誉毀損罪、業務妨害罪などによる)を行うのは当然の権利である。

 

その中で捜査機関が犯人捜しをするのは、これまた、完全に法律に基づく行為で合法である。

 

警察は、兵庫県に対して、犯人の覚えはないのか捜査できるし、メールサーバーやファイルサーバー、職員のPCの押収も当然できる。

 

しかし、兵庫県が、その内部調査が、自らでは、できないのであろうか?

 

内部調査に限っては、第三者委員会を開かなければ、できないのであろうか?

 

サーバーやプロバイダーやルーターのログは、刻一刻と抹消されて失われていく。

 

その間にも、犯人は、証拠隠滅できるのではないのか?

 

兵庫県としては、公益通報者保護法上の体制整備措置については3号通報については法令上も明文がなく、例規上の根拠もなく、一方で、職員に対する安全配慮義務が存在することは法令上、判例法上明らかであるから、義務の衝突の場面であって、より法令上明確な職員に対する安全配慮義務(及び県のパートナー企業に対する名誉毀損と業務妨害に対する抑止のための懲戒権の行使)に基づいて、兵庫県が社内調査をおこなった、というのが本件事案というべきであろう。

 

公益通報だけが保護される法益ではないのである。

 

なにごとも、一面的な見方はまずい。

 

多面的にみれば、そういうバランス感覚が必要であって、公益通報者保護法が、1号通報と、3号通報に、はっきり差を付けているのは、ある意味、さまざまな事態を想定した場合のバランス感覚として、当然なのである。

 

今回のマスコミ報道は、あまりに一面的、一方向的であった。

 

それゆえに、そのマスコミ報道のダブルスタンダードと表裏の乖離が、YouTubeを舞台として立花孝志氏らによって暴かれ、それを目の当たりにして愕然とした若者世代の怒りが新聞テレビといった既存マスコミに向かい、既存マスコミが叩かれ、50代以下は、兵庫県知事の出直し選挙で圧倒的に斎藤知事を支持するという結果になった。

 

立花孝志氏は、もとNHK職員であったが、2005年4月に、NHKの不正経理、受信料の不正な使用について、週刊文春に内部告発した。

 

これに対してNHKは、立花孝志氏の周辺調査を行い、2005年7月に立花孝志氏自身の不正経理を理由として、立花孝志氏を懲戒処分に付した。これを受けて、立花孝志氏は、NHKを依願退職した。

 

もちろん、当時は公益通報者保護法は存在しないから、当時、NHKのやったことは報復的な不利益取扱といえず、違法とはいえない。

 

立花孝志氏が当時週刊文集に通報したのは、外部通報であり、現行法でいっても3号通報にしかあたらない。

 

しかし、NHKが、兵庫県知事を責められる立場なのか、というダブルスタンダード感は、拭えない。

 

決定的だったのは、NHK、朝日新聞、読売新聞などの記者が、兵庫県の100条委員会の証人尋問を終えて会場から出てきた片山元副知事に、囲み取材をしたのだが、マスコミ各社が報道したくない(元西播磨県民局長のPC内の文書の不適切な内容について)発言をした片山副知事に対し、いわば言論封殺ともいうべき圧迫インタビューをおこなって、実際に報道をしなかった。

 

そのときの圧迫インタビューの音声が、(おそらく)そのときの囲み取材にいた現場の記者によって、フリージャーナリストに「外部通報」されたのである。

 

そのNHK記者らの「圧迫取材」と「言論封殺」が、若者世代の怒りを沸騰させた。

 

おそらく、マスコミ各社に対し、ダブルスタンダードに怒る視聴者から、膨大な苦情と、記者らの不適切行為に対して調査解明を求めるように要求があったと思われる。

 

この「3号通報」に対して、また、YouTubeと若者世代・壮年世代で沸騰した怒りや抗議に対し、NHK、朝日新聞、読売新聞などが、真摯に、第三者委員会を設置して調査をしたり報告書をまとめようとしたりしたであろうか。

 

マスコミ各社が、自らに対する内部告発・公益通報に対しては、真摯に対応していない、ダブルスタンダードと裏表、隠蔽体質がひどい、と、若者に受け取られたからこそ、若者世代は、既存マスコミ各社に対して、強烈な反発を表明したのだと思われるのである。

 

閑話休題。

 

そして、公益通報者保護法の「法律」の解釈としては、私は以下の見解を採る。

 

1.消費者庁が定めた「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第 118 号)」は、公益通報者保護法第11条第2項に基づいて、1号通報に対して事業者がとるべき体制整備措置について、定められた指針である。

 

2.つまり、11条2項に基づき消費者庁が「指針」としても、あくまで、消費者庁は1号通報についてだけ法律の委任を受けて指針を定められるに過ぎない。

 

3.だから、消費者庁の「指針」が、2号通報、3号通報について、「指針」を定めることはできない。

 

4.もし消費者庁が、「指針」において3号通報について定めれば、それは、法律の委任を超えており、法令の根拠のない越権行為をしている。

 

5.「指針の解説」も、同様であり、仮に消費者庁が「指針の解説」において、3号通報について体制整備措置をとるべき法的拘束力を持たせるようなことをすれば、法律の委任の範囲を超え、法令の根拠のない越権行為をしている。

 

6.つまり、「指針の解説」をもとに、兵庫県が3号通報に対して体制整備措置をとらなかったことを「違法」だと評価することはできない。

 

というものである。

 

ところで、3号通報に対して体制整備措置を怠ったという見解をとる学者1人・弁護士1人が、2024年9月5日、兵庫県の100条委員会において証言した。

 

奥山俊宏 上智大学文学部新聞学科 教授(2019年~) 上智大学文学部のサイト

https://dept.sophia.ac.jp/human/journalism/teacher/okuyama

 

山口利昭 弁護士 BUSINESS LAWYERのサイト

https://www.businesslawyers.jp/lawyers/21606

 

山口利昭弁護士は、消費者庁において公益通報保護制度検討会に委員として所属している。

 

公益通報者保護制度検討会

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/meeting_materials/review_meeting_004/

 

中間論点整理

 

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/meeting_materials/review_meeting_004/assets/consumer_partnerships_cms205_240906_01.pdf

 

の中では、今後の立法論として、

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(1)公益通報者を探索する行為の禁止
通報者探索の防止については、体制整備義務の一部として、法定指針に規定されているが、公益通報がなされた後、事業者内で公益通報者を特定することを目的とした調査などが行われることは、公益通報者自身が脅威に感じることはもちろん、公益通報を検討している他の労働者を萎縮させるなどの悪影響があり、法律上、通報者探索を禁止する明文規定を設けるべきとの意見があった。
また、法律上明記するだけではなく、通報者を探索する行為に対し、行政措置又は刑事罰を規定すべきとの意見もあった。

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という意見が委員から出されたことが記されており、公益通報者保護法は今後ますます罰則等の強化がなされていく可能性が窺われる。

 

おそらく、奥山俊宏教授、山口利昭弁護士らは立法論としても、罰則等の強化の方向での論者なのだろうと思われる。

 

一方で、2024年12月25日、兵庫県100条委員会において、兵庫県に3号通報に対する体制整備措置をとるべき法的義務があったとまではいえないと証言したのが、結城大輔弁護士である。

 

兵庫県・百条委員会で証人尋問 参考人の結城大輔弁護士が出席 告発文書問題(2024年12月25日)

https://www.youtube.com/live/vPhh5w2mRoI?si=sBt97LEFlbQhcoOT

51:00付近

指針の解説は、指針そのものではないので、法的な義務をそのまま構成するものでは無い、という立場の解説です」、と述べている。

 

私としては、3号通報に対して体制整備措置を採る法的義務があるか否かの点に関する限り、結城大輔弁護士の見解が、法解釈として妥当だと考えている。

 

しかしながら、消費者庁は、100条委員会の質問に対し、2号通報、3号通報に対しても体制整備措置をとる必要がある旨回答したとのことである。

 

これに対し、浜田聡参議院議員の秘書が国会図書館に調査依頼をおこなったところ、体制整備措置をとるべき法的義務は1号通報のみに限定されるという調査結果が返ってきたとのことである。

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村上ゆかりの日記 (浜田聡参議院議員秘書)

https://suenagayukari.hatenablog.com/entry/2024/11/22/184431

 

後述しますが本件について消費者庁へ見解を問い合わせていますが、並行して、国会図書館へ公益通報者保護法第11条第2項の対象は内部通報のみか、外部通報もあたるのかどうか、調査依頼を送りました。

国会図書館からの回答の方が早く来ましたので、ご紹介します。

▼回答:ご参考

●山本隆司ほか『解説改正公益通報者保護法 第2版』弘文堂, 2023, p.224. より
「この「必要な体制の整備その他の必要な措置」は、「第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に」との留保があることから、法第11条1項と同様に、公益通報のうち内部公益通報に対応するための体制整備に限定している。なお、内部公益通報には、取引先事業者の従業員からの通報(法2条1項3号)や匿名通報も含まれることから、これらの内部公益通報に対応する体制の整備も必要である。」

●中野真「公益通報者保護法改正の概要」『ジュリスト』1552号, 2020.12, p.41.(資料3)より
「新法11条2項では、1号通報の受け手である事業者に対し、1号通報に対応する体制の整備義務を課している。」

その他、下記資料を提供頂きました。

【提供資料】
資料1 消費者庁参事官(公益通報・協働担当)室編『逐条解説・公益通報者保護法 第2版』商事法務, 2023, pp.218-223.
資料2 中野真『公益通報者保護法に基づく事業者等の義務への実務対応』商事法務, 2022,pp.18-26.
資料3 中野真「公益通報者保護法改正の概要」『ジュリスト』1552号, 2020.12, pp.37-42.
資料4 日野勝吾『内部通報・行政通報の実務―2022年義務化対応―公益通報体制整備のノウハウとポイント』ぎょうせい, 2022, pp.180-188.
資料5 坂井知世「内部通報制度の構築・運用の実務(公益通報者保護法・改正後のいま)」『ビジネス法務』23(9), 2023.9, pp.101-107.
資料6 戸塚亮太・蜂須明日香「改正公益通報者保護法の概要」『法律のひろば』75(6), 2022.6, pp.4-14.
資料7 「改めて内部通報について考える―公益通報者保護法改正を契機として」『経営法曹研究会報』108号, 2023.5, pp.42-44.
※ 内部通報前置義務の可否の議論について、御参考までに提供いたします(発言者はい
ずれも経営法曹研究会会員の弁護士)。
資料8 山口利昭「改正公益通報者保護法(最終回・第3回)内部通報制度の実効性向上に向けて」『地銀協月報』726号, 2020.12, pp.20-23.
※ 外部通報がなされた場合の事業者の対応について、御参考までに提供いたします。

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上記頂いた資料は著作権の都合でご紹介を割愛しますが、いずれの資料も公益通報者保護法第11条第2項については、1号通報のみを対象としているとの記載、そもそもの記載が「内部公益通報体制」等、「内部」とはっきり書かれたものでした。

つまり国会図書館からの調査回答では、法第11条第2項は内部通報のみに限定しているという回答となりました。

消費者庁の回答はこの解説と異なるのでしょうか。消費者庁から回答が来次第、この点についても聞いてみようと思います。
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つまり、私は、国会図書館の調査結果と見解が同じであり、消費者庁の見解と相反するのである。

 

ちなみに、上記の国会図書館の調査結果において引用されている文献のうち、

 

「解説 改正公益通報者保護法 第2版」
2021年6月30日発行
山本隆司・水町勇一郎・中野真・竹村知己 共著

 

を確認したところ、公益通報者保護法第11条第2項の体制整備措置は、第3条第1号及び第6条第1号による公益通報に限定される、すなわち1号通報に限定される、となっている。

 

法律の明文がそうなのだから、当然そうだと思う(笑)。

 

この書籍は、公益通報者保護法の2022年施行の改正当時の委員らが加わった執筆陣であるから、権威としては一番高いはずの文献のひとつである。

 

なぜ、消費者庁の「指針の解説」が、大半の法学者や弁護士の執筆した解説書を逸脱した記述をしてしまっているのだろうか。

 

私の見立ては、消費者庁が、指針の解説を作成した際に、「筆が滑った」可能性が相当程度あると思っている。

 

体制整備措置についての指針制定は、第3条第2項からの(法律の)委任によるものなのに、消費者庁は、法第2条の公益通報と、混同したのではないかと、私はうがった見方をしている。

 

中央官庁ともあろうものが、法令の委任の範囲を超えて、「指針の解説」において、義務づけをおこなってはいけないだろう。

 

そもそも指針の解説は、すべて1号通報に対する体制整備措置について記しているのに、14頁のこの1箇所だけ、突然に2号通報、3号通報のことにわずかに触れ、しかしながら、具体的に2号通報、3号通報に対しどのような体制整備措置をとるべき法的義務があるのか、「指針」も「指針の解説」も、それ以上全く解説するところがないのである。

 

法11条2項の定めからして、3号通報について、1号通報や2号通報と同様の体制整備措置が求められるとは到底思われないから、消費者庁の指針の解説14頁のこの記述は、全く唐突かつしり切れとんぼであり、事業者としては、一体どのような体制整備措置をとるべきなのか、全く分からないのである。

 

つまり消費者庁の解説は、この14頁の記述に関する限り、解説の体をなしておらず、むしろ、中央官庁が法令の根拠のない越権行為的な記載を指針の解説でおこなって、混乱を招いてしまっているように思われる。

 

浜田聡参議院議員は、上記の秘書ブログにおいて、消費者庁に、質問状を送っており、その回答待ちだという。

 

もっとはっきりさせることもできる。

 

浜田聡参議院議員なり国会議員が、国会法第74条に基づいて、内閣に対し「質問主意書」を送付し、政府の正式答弁を得ることであると思われる。

 

(追記)

このブログ執筆と入れ違いで、令和6年12月23日に 浜田聡参議院議員が質問主意書を提出し、令和7年1月10日に政府からの答弁が発出されていたことがわかった。

浜田聡参議院議員の2つの質問主意書

第216回国会
質問第15号
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/216/meisai/m216015.htm

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質問第一五号
公益通報者保護法の体制整備等義務は内部通報者のみとしている逐条解説に関する質問主意書
  令和六年十二月六日

 公益通報者保護法(以下「法」という。)は、「公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効及び不利益な取扱いの禁止等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置等を定めることにより、公益通報者の保護を図る」こと等を目的としている。「解説 改正公益通報者保護法(第二版)」(山本隆司、水町勇一郎、中野真、竹村知己著)(以下「逐条解説」という。)の二百二十四頁には、法第十一条第二項の条文解説として、「この「必要な体制の整備その他の必要な措置」は、「第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に」との留保があることから、法十一条一項と同様に、公益通報のうち内部公益通報に対応するための体制整備に限定している。なお、内部公益通報には、取引先事業者の従業員からの通報(法二条一項三号)や匿名通報も含まれることから(中略)、これらの内部公益通報に対応する体制の整備も必要である。」と記載されている(以下「逐条解説の条文解説」という。)。

 逐条解説の著者である竹村知己氏は弁護士であり、内閣府消費者委員会公益通報者保護専門調査会(以下「専門調査会」という。)の事務局委嘱調査員として中間整理や報告書の取りまとめを担当していた。中野真氏は弁護士であり、消費者庁で約六年間、法改正や法改正後の指針の策定を含め、公益通報者保護制度の企画立案に一貫して携わってきた。水町勇一郎氏は専門調査会の委員、山本隆司氏は専門調査会の座長であったことから、以上四氏が執筆した逐条解説の条文解説が法解釈として正しいことは言うまでもなく、逐条解説の記載内容が誤りだとすると、政府が設置した専門調査会の議論にも疑義が生じかねない。

 「公益通報者保護法第十一条第一項及び第二項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和三年八月二十日内閣府告示第一一八号)には、「第四 内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(法第十一条第二項関係)」が定められている(以下「法指針第四」という。)。しかし、消費者庁が兵庫県議会事務局長宛に発出した「公益通報者保護法の解釈について」(令和六年十月三十日消公協第二六九号)では、法指針第四の二に関する「内部公益通報をした場合に限定せずに、処分等の権限を有する行政機関やその他外部への通報が公益通報となる場合も公益通報者を保護する体制の整備が求められていると解釈すべきと考えるが、誤りは無いか。」との質問に対し、「誤りはないと考える。」と回答しており、逐条解説の条文解説とは見解が異なっている。

 これらについて、以下質問する。

一 法第十一条第二項の解釈について、逐条解説の条文解説に誤りはないか。誤りがあれば詳細を示されたい。

二 法指針第四に定められている「内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置」は、内部公益通報のみを対象としているのか。異なる場合は、その詳細を示されたい。

三 前記一及び二について、逐条解説の条文解説と政府の解釈が異なる場合、専門調査会の座長や委員等を務めた専門家が、誤った解釈のまま専門調査会の議論を進めていたこととなるため、専門調査会における議論をまとめた報告書そのものを見直すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。

  右質問する。
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政府答弁
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  参議院議員浜田聡君提出公益通報者保護法の体制整備等義務は内部通報者のみとしている逐条解説に関する質問に対する答弁書
  令和六年十二月六日

一及び三について

 御指摘の書籍については、政府として関与しているものではなく、当該書籍における個別の記述に関するお尋ね及び当該書籍における個別の記述を前提とする政府による法令の解釈等に関するお尋ねについて、政府としてお答えすることは差し控えたい。

二について

 「公益通報者保護法第十一条第一項及び第二項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和三年八月二十日内閣府告示第百十八号)中の「第四 内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(法第十一条第二項関係)」において、事業者に対して、「公益通報者を保護する体制の整備」等を求めているところであり、この「公益通報者」については、公益通報者保護法(平成十六年法律第百二十二号)第三条第一号に規定する「当該役務提供先等に対する公益通報」をした者のみならず、同条第二号に規定する「当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等に対する公益通報」又は同条第三号に規定する「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報」をした者も含まれるものである。

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第216回国会
質問第52号
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/216/meisai/m216052.htm
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公益通報者保護法の三号通報における体制整備等義務に関する質問主意書

 私が提出した「公益通報者保護法の体制整備等義務は内部通報者のみとしている逐条解説に関する質問主意書」(第二百十六回国会質問第一五号。以下「同質問主意書」という。)に対する答弁書(内閣参質二一六第一五号)において、政府は、「公益通報者保護法第十一条第一項及び第二項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和三年八月二十日内閣府告示第百十八号)中の「第四 内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(法第十一条第二項関係)」(以下「法指針第四」という。)における「公益通報者」については、「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」(以下「その他の外部通報先」という。)に対する公益通報をした者、いわゆる外部通報者も対象である旨答弁した。

 他方、同質問主意書で指摘した公益通報者保護法の逐条解説以外の解説書籍・論文について、私の事務所から国立国会図書館へ調査依頼したところ、「逐条解説・公益通報者保護法(第二版)」(消費者庁参事官(公益通報・協働担当)室編、商事法務)、「公益通報者保護法に基づく事業者等の義務への実務対応」(中野真著、商事法務)、「公益通報者保護法改正の概要」(中野真、ジュリスト一五五二号)、「二〇二二年義務化対応 内部通報・行政通報の実務~公益通報体制整備のノウハウとポイント~」(日野勝吾著、ぎょうせい)、「内部通報制度の構築・運用の実務」(坂井知世、ビジネス法務二〇二三年九月号)、「改正公益通報者保護法の概要」(戸塚亮太・蜂須明日香、法律のひろば二〇二二年六月号)が提供された。しかし、いずれも同法第十一条第二項は内部通報(一号通報)のみを対象としたものとの記載であり、外部通報を対象としていると記載された解説書籍・論文は見当たらなかった(以下「調査結果」という。)。

 これらについて、以下質問する。

一 公益通報者保護法第十一条第二項は内部通報のみが対象とされ、内部通報に対応するための体制整備に限定されているとの調査結果は、同質問主意書に対する答弁書における政府見解と異なるが、これについて改めて政府の見解を示されたい。

二 前記一について、調査結果で示された解説書籍・論文がいずれも誤っているとすると、多くの国民が法令解釈を誤る要因となる可能性が高く、現に弁護士間でも見解の相違が起きている等混乱が発生している。そのため、政府として何かしら対応を採るべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 消費者庁ホームページの公益通報者保護制度に関するQ&Aには、「行政機関以外のその他の外部通報先向けの通報対応ガイドラインはありますか。」との問いに対し、「その他の外部通報先は多種多様であるとともに、行政機関がガイドラインを定めることが適当でない場合もあると考えられることから、ガイドラインは設けられていません。」と示されている。その他の外部通報先についても、法指針第四で定められた公益通報者を保護する体制の整備が義務化されているのであれば、その体制整備のため、一定のガイドラインが当然必要ではないか。政府の見解を示されたい。

四 同法で定められている「その他の外部通報先」が、法指針第四に定められている「不利益な取扱いの防止に関する措置」を行う場合、「その他の外部通報先」は通報対象の事業者の外部であることから、公益通報者が不利益な取扱いを防ぐための措置を講ずることは実質的に困難ではないか。どのような場合を想定して「その他の外部通報先」に「不利益な取扱いの防止に関する措置」を講ずることを義務化しているのか、政府の見解を示されたい。

五 同法で定められている「その他の外部通報先」が、法指針第四に定められている「範囲外共有等の防止に関する措置」を行う場合、「範囲外共有等」とは主に何を指すのか示されたい。また、報道機関が公益通報を受けた際、当該通報を受けた旨とその内容を報道した場合は範囲外共有等に当たるのか示されたい。

 質問主意書については、答弁書作成にかかる官僚の負担に鑑み、国会法第七十五条第二項の規定に従い答弁を延期した上で、転送から二十一日以内の答弁となっても私としては差し支えない。

  右質問する。
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政府答弁
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   参議院議員浜田聡君提出公益通報者保護法の三号通報における体制整備等義務に関する質問に対する答弁書

一及び二について

 御指摘の「逐条解説・公益通報者保護法(第二版)」は、消費者庁参事官(公益通報・協働担当)室が編集したものであるが、「同法第十一条第二項は内部通報(一号通報)のみを対象としたものとの記載」はない。また、御指摘の「公益通報者保護法改正の概要」及び「改正公益通報者保護法の概要」については、消費者庁に当時所属していた職員が執筆したものであるものの、個人の見解を述べたものであるほか、その他の御指摘の書籍については、政府として関与しているものではないため、これらの書籍における個別の記述に関するお尋ね及び当該書籍における個別の記述を前提とする政府による法令の解釈等に関するお尋ねについて、政府としてお答えすることは差し控えたい。

三から五の前段までについて

 御指摘の「その他の外部通報先」には、「法指針第四で定められた公益通報者を保護する体制の整備」は公益通報者保護法(平成十六年法律第百二十二号)上求められておらず、それを前提としたお尋ねについてお答えすることは困難である。

五の後段について

 お尋ねの「公益通報」の具体的に意味するところが必ずしも明らかではないが、仮に、これが公益通報者保護法第三条第三号に規定する「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報」を意味するものであるとすれば、お尋ねについては、三から五の前段までについてでお答えしたとおりである。
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(追記終わり)

 

おそらく、「公益通報者保護法第11条第2項は、3号通報に対して体制整備措置をとる法律上の義務は課していない」というのが政府の正式答弁となるものと、私は想像している。

 

(追記)

2つの質問主意書に対する政府答弁は、公益通報者保護法第11条第2項の「公益通報者」には2号通報、3号通報を含むというものであったが、「その他の外部通報先」には、「法指針第四で定められた公益通報者を保護する体制の整備」は公益通報者保護法上求められていない、というものであった。

そして、政府答弁は、各種文献の見解については、

御指摘の「公益通報者保護法改正の概要」及び「改正公益通報者保護法の概要」については、消費者庁に当時所属していた職員が執筆したものであるものの、個人の見解を述べたものであるほか、その他の御指摘の書籍については、政府として関与しているものではない

とした。しかし、消費者庁の立法担当者執筆の文献や、立法作業に調査員などとして関与した弁護士・学者などが執筆した、相当な権威を持つと思われる各種文献の見解に基づいて処理した兵庫県を、あとから「違法」として断定的に責めるのが妥当かは、後知恵で足を掬っている感があって、大いに疑問が残るところだろう。

(追記終わり)

 

なお、公益通報者保護法第11条第2項は、300人以上の常時使用する労働者がいる事業者に義務付けが限定されていて、大半の中小企業にとっては体制整備措置は努力義務にとどまる。

 

恐ろしさを感じるのは、立法論で、刑事罰の導入まで図ろうという向きがあることである。

 

しかし、3号通報は、どこまでいっても、名誉毀損や業務妨害を招く可能性と裏腹であり、保護されるべき法益の衝突がまともに起きる。

 

企業・団体は、職員に対する安全配慮義務、取引先やステークホルダーに対する取引上の付随義務に基づいて、むしろ、有象無象の3号通報に対しては、事案によって、不当要求として毅然とはねつけたり、迅速な調査と対応をせざるを得ない場合がしばしばあるはずなのである。

 

それに対して配慮した議論が、ほとんどされていないように感じるのは、私だけだろうか。

 

マスコミからすれば、3号通報は「ネタ元」であるから、歓迎したい論調に流れるのはポジショントークとして当然であろうが、多面的な視点からの考慮が欠落した議論は危険だと思われるのである。

西村幸三

lawfield.com

京都・烏丸三条にある法律事務所を運営。ニュース・法改正・裁判例などから法務トピックを取り上げていきます。