最高裁判決、リツイートのトリミングを違法と断ずる

最高裁令和2年7月21日判決は、ツイッターのリツイートで引用元のツイートの写真が自動的にトリミング(切り抜き)されることを、「著作者人格権(氏名表示権)侵害」であるとして、ツイッター社に対して、リツイートした者が誰かを発信者情報開示をせよと命じたものである。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89597

ツイッター社敗訴。

パッと聞く限り、なかなか驚きの最高裁判決であるが、よく読んだらあたりまえの事例であった。

この原告となった写真家は、ツイッターで写真を載せてつぶやいたのではないのである。

そもそも、ニュースをパッと見したときの私の疑問は、「ツイッターの規約で、リツイート時に写真がトリミングされることを同意させていないのだろうか?」というものであったが、原告の写真家が、自分でツイッターのツイートをしたわけではなく赤の他人から勝手に写真を引用されツイッターでツイートされた以上、ツイッターの規約に従わされる理由などない。

そして、この写真家のWebサイトから画像を引用して最初にツイートした者により、ツイッター上では、写真画像の隅に写真家が著作権者名を表示した部分が、ツイッターの仕様によるトリミングによって削られてしまった。

写真家がWebサイトにツイッターやFacebookのボタンでも設置していたらツイートのトリミングは許容していたとなったであろうが、あいにくツイートで拡散されることを歓迎していなかったのであろう。

変わっているともいえるが、自分の作品にこだわりを持つ写真家がいれば、それもまた当然である。

揶揄されるようなツイートならこういうことはまして起きる。

写真を勝手に改変して、著作権者と著作物のつながり(例えば氏名表示権)を毀損する行為は、「著作者人格権」の侵害となって、たとえ狭義の「著作権」(著作財産権。以下も同じ狭義の意味で使う)侵害そのものにならなくても、結論として、著作権法違反にはなり、損害賠償責任を負うことになる。

しかし、最初に写真家のWebサイトから無断引用してツイートした者ならばさておき、リツイートした者は、最初の写真家のサイトまで確認した上でリツイートしたわけではないかもしれない。

もし注意して確認すればそのツイートが著作者人格権の侵害であることはわかったといえばわかったであろうが、善意の素人にそれを要求するのはかなり無理がある。

写真家としては、ツイッターユーザーならツイッター上ですぐ警告し、止めさせることもできたであろうが、ツイッターユーザーでなかったのだろう。

プロバイダ責任制限法に基づいてリツイート者の発信者情報開示請求となり、ツイッター社と最高裁まで争うことになった次第である。

何がおこったのか、最高裁判決の該当箇所を引用する。
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被上告人は(注:写真家)平成21年,本件写真の隅に「©」マーク及び自己の氏名をアルファベット表記した文字等を付加した画像を自己のウェブサイトに掲載した。(中略)

被上告人は,本件写真画像の隅に著作者名の表示として本件氏名表示部分を付していたが,本件各リツイート者が本件各リツイートによって本件リンク画像表示データを送信したことにより,本件各表示画像はトリミングされた形で表示されることになり本件氏名表示部分が表示されなくなったものである(なお,このような画像の表示の仕方は,ツイッターのシステムの仕様によるものであるが,他方で,本件各リツイート者は,それを認識しているか否かにかかわらず,そのようなシステムを利用して本件各リツイートを行っており,上記の事態は,客観的には,その本件各リツイート者の行為によって現実に生ずるに至ったことが明らかである。)。また,本件各リツイート者は,本件各リツイートによって本件各表示画像を表示した本件各ウェブページにおいて,他に本件写真の著作者名の表示をしなかったものである。
そして,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるとしても,本件各表示画像が表示されているウェブページとは別個のウェブページに本件氏名表示部分があるというにとどまり,本件各ウェブページを閲覧するユーザーは,本件各表示画像をクリックしない限り,著作者名の表示を目にすることはない。また,同ユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない。そうすると,本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって,本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではないというべきである。
以上によれば,本件各リツイート者は,本件各リツイートにより,本件氏名表示権を侵害したものというべきである。
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なるほど。

ツイッターユーザーがツイッターで投稿した画像なら、いくらリツイートしても、おそらく規約の中で最初の投稿時に同意があるはずだが、今回は、写真家は自分のWebサイトのものを無断転載されたわけだから、怒って当然であり、保護されて当然である。

侵害された権利という観点でいえば、写真家の勝訴は当然と言える。

しかし、リツイートした人からすれば、それって最初にツイートした人の責任でしょ?知らずにリツイートした私に何の罪があるの?となると思う。これまた当然の感覚である。
しかし、出所不明の写真だったり、そうでなくて本件の様にリンクをたどっていけば、写真家のWebサイトにはたどり着けたであろうから、そんなものをリツイートすれば、いざ民事・刑事の法廷の場で争えば、著作者人格権の侵害について、故意か少なくとも過失があったとは言われてもしようがない。

リツイート恐るべし。

怖くてリツイートできない(笑)。

この最高裁判決、結構重要な判旨を含む。例えば、
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著作権法19条1項は,文言上その適用を,同法21条から27条までに規定する権利に係る著作物の利用により著作物の公衆への提供又は提示をする場合に限定していない。また,同法19条1項は,著作者と著作物との結び付きに係る人格的利益を保護するものであると解されるが,その趣旨は,上記権利の侵害となる著作物の利用を伴うか否かにかかわらず妥当する。そうすると,同項の「著作物の公衆への提供若しくは提示」は,上記権利に係る著作物の利用によることを要しないと解するのが相当である。
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つまり、狭義の「著作権」侵害をしていなくても「著作者人格権」の侵害になることはある、という。

素人にはなんのことだか分からないと思うが、著作権法に携わる弁護士にとっては、そりゃそうだね、となる理屈である。

また、一見すると、リツイート者に厳しい。
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このような画像の表示の仕方は,ツイッターのシステムの仕様によるものであるが,他方で,本件各リツイート者は,それを認識しているか否かにかかわらず,そのようなシステムを利用して本件各リツイートを行っており,上記の事態は,客観的には,その本件各リツイート者の行為によって現実に生ずるに至ったことが明らかである。)。また,本件各リツイート者は,本件各リツイートによって本件各表示画像を表示した本件各ウェブページにおいて,他に本件写真の著作者名の表示をしなかったものである。
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ツイッターが写真をトリミングして著作者人格権の侵害をするシステムなんだから、使ったあなたが悪い、ということである。

キビシーッ!

といったところだろうか(笑)。

戸倉三郎裁判官の補足意見は,次のとおりである。

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本件各リツイートにより,本件各アカウントの各タイムラインに本件元画像の上下がトリミングされて本件氏名表示部分が表示されなくなった本件各表示画像が表示されたのは,ツイッターのシステムの仕様がそのような処理をするようになっているためであり,本件各リツイート者が画像表示の仕方を変更することもできなかったものである。そうすると,今後も,そのような仕様であることを知らないリツイート者は,元の画像の形状や著作者名の表示の位置,元ツイートにおける画像の配置の仕方等によっては,意図せざる氏名表示権の侵害をしてしまう可能性がある(そのような仕様であることを認識している場合には,元ツイート記事中の表示画像をクリックして元の画像を見ることにより著作者名の表示を確認し,これを付記したコメント付きリツイートをするなどの対応が可能であろう。)。ツイッターは,社会各層で広く利用され,今日の社会において重要な情報流通ツールの一つとなっており,国内だけでも約4500万人が利用しているとされているところ,自らが上記のような状況にあることを認識していないツイッター利用者も少なからず存在すると思われること,リツイートにより侵害される可能性のある権利が著作者人格権という専門的な法律知識に関わるものであることなどを考慮すると,これを個々のツイッター利用者の意識の向上や個別の対応のみに委ねることは相当とはいえないと考えられる。著作者人格権の保護やツイッター利用者の負担回避という観点はもとより,社会的に重要なインフラとなった情報流通サービスの提供者の社会的責務という観点からも,上告人において,ツイッター利用者に対する周知等の適切な対応をすることが期待される。
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ツイッター社、あんたらで著作者人格権の侵害にならないようにユーザーに周知しろよ、ツイートのシステム考えろよ、といったところである(笑)。

しかし、それは結構大変である。とりあえずトリミングはできないようにするしかないだろうか。でも、縮小表示しても、画素数が違いすぎれば甚だしい改変になってしまい同一性を欠いてしまうとなって、やっぱりダメではないだろうか。

ちょっとほっと安心できることとして、反対意見もある。

林景一裁判官の反対意見は,次のとおりである。

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本件改変及びこれによる本件氏名表示部分の不表示は,ツイッターのシステムの仕様(仕組み)によるものであって,こうした事態が生ずるような画像表示の仕方を決定したのは,上告人である。これに対し,本件各リツイート者は,本件元ツイートのリツイートをするに当たって,本件元ツイートに掲載された画像を削除したり,その表示の仕方を変更したりする余地はなかったものである。
また,上記のような著作者人格権侵害が問題となるのは著作者に無断で画像が掲載される場合であるが,本件で当該画像の無断アップロードをしたのは,本件各リツイート者ではなく本件元ツイートを投稿した者である。
以上の事情を総合的に考慮すると,本件各リツイート者は,著作者人格権侵害をした主体であるとは評価することができないと考える。

多数意見や原審の判断に従えば,そのようなものであっても,ツイートの主題とは無縁の付随的な画像を含め,あらゆるツイート画像について,これをリツイートしようとする者は,その出所や著作者の同意等について逐一調査,確認しなければならないことになる。私見では,これは,ツイッター利用者に大きな負担を強いるものであるといわざるを得ず,権利侵害の判断を直ちにすることが困難な場合にはリツイート自体を差し控えるほかないことになるなどの事態をもたらしかねない。
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ツイッターユーザーの感覚は、「林裁判官、よくいってくれた」だろう。林裁判官は、アイルランド駐箚特命全権大使、外務省官房長、内閣官房副長官補、英国駐箚特命全権大使などを歴任した外交官である。

西村幸三

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京都・烏丸三条にある法律事務所を運営。ニュース・法改正・裁判例などから法務トピックを取り上げていきます。