2020年も暮れて

2020年がようやく終わる。

 

長い1年だった。

 

コロナウィルスは多くの人の人生や企業の命運を揺さぶった。

 

業種によって、コロナによる明暗は極端なまでに分かれた。

 

閉店・廃業やむなしに多くが追い込まれた分野(観光・飲食)もあれば、売上増となった分野(通販、物販でも都心部で無く郊外店やロードサイド店)もあり、さほど影響の出ない分野(機械等メーカーや建設)もあった。

 

自粛の波に抵抗しうべくもなかった自営業者や失業に見まわれた方々にはかける言葉もなかった

 

一つの企業にも好不調の複数分野があり、コロナを機に一気に業態を切り替えたりシフトさせた企業も多い。

 

私はと言えば、3月から5月は、資金ショートした企業や個人の救済活動に追われた。

 

その間も、関与する多数の企業のコロナ対応にもどっぷりと関わった。

 

西村法律事務所でも、リモートへの対応を進め、スタッフの出勤をミニマム4分の1まで落としても、リモートで通常に業務が回るように仕組みは作った。2分の1出勤なら余裕であった。

 

もともと事務所の執務空間には余裕があって、密にもなっておらず、出勤ゼロにする意味はなく、4分の1まで減らすことは結局なかったが、どこまでできるか、検証も兼ねてのことだった。

 

全スタッフに自宅用ノートPCを用意した。

 

スカイプで、事務所のモバイルPC+スピーカーフォンと、テレワーク組を、音声で常時接続ないし随時接続した。雑談コミュニケーションも普通にできていた。

 

資料はゼロックスの複合機でスキャン→メールアドレスに流せていた。

 

報連相はもともとメールで見える化して励行していたので、スタッフ間の意思疎通に全く問題は起きなかった。

 

携帯電話を余分に契約して配布し、対外的な折り返しも普通にできていた。

 

対外的には、テレワークをしていたことも気付かれていなかったのではないかと思われる。

 

現在も、弁護士の在宅勤務、ワーケーションは、適宜、各自が判断しながら織り込んでいる。

 

こういう仕事スタイルは私が以前から出張時や海外時に普通に採用していたが、全弁護士に広げたというだけであった。

 

対外ミーティングは、もともとメールと電話でおこなうことが大半だったので、殆ど不自由ないことに改めて気付いたが、これを機にZoom、Teams、LINE、Skypeを、会議に普通に使うようになった。

 

とはいえ、6月以降は、来所希望される方は元どおり来所されるようになった。

 

伸るか反るかのシビアな打合せが多いのでやむを得ないところであった。法律事務所の宿命である。

 

来所時は、お互いマスクをして、手・テーブル・ドアノブのアルコール消毒、空気清浄機の強めの稼働などを徹底した。

 

コロナ対応では、対面時に必要な対策はきちんと取り、必要な対面は必要と割り切った。

 

来所され、お茶やコーヒーを飲むときにマスクを外して喋ってしまう顧客には、喋るときはすぐマスクを付けるようにお願いしますと注意した。

 

そこまで警戒はしても、必要な面談はする。

 

すべてをリモートにしてしまうような警戒過剰は、社会を止め、経済を止め、企業を殺すが、クライアントとのシビアなコミュニケーションも死んでしまう。

 

とはいえ、顧問先等との夜の宴席は中止し、現在もその状態である。

 

その代わり、朝食会を少人数で実施し、これが定着している。パワーブレックファストである。あるいは昼食をとる。ホテルなど個室やソーシャルディスタンスが取れる空間でおこなう。いっそ事務所の会議室で弁当でもよいと思う。

 

パワーブレックファストは元々以前からやっていたことだったが、コロナを機に、誘ったら、馴染んでくれる方が周りに少しづつ増えてきた。

 

私は、パワーブレックファストを、実のあるコミュニケーション手段として夜の宴会より優れていると、思っている。

 

しかしながら、まだまだ夜の飲みニュケーションから抜け出せないビジネスマンは多いようである。

 

ホテルのレストランでパワーブレックファストをとっていても、殆どそういうビジネスマンは見かけない。

 

一方、この年末、忘年会組の感染があちこちで出ている。

 

いかに、旧来型忘年会から抜け出せていないビジネスマンたちが多かったか、を改めて痛感した。

 

私はと言えば、この1年、旧来型のコミュニケーションツールに加え、SNSやスマートフォンのコミュニケーションツールに、コミュニケーション自体がかなり多様化した。

 

その都度相手のツールや環境にに合わせるので、移行したのではなく多様化したのである。

 

そして業務改善も進んだ。

 

事務所のハードウエアやネットワーク周り、リモート用のアプリケーション周りを、緊急事態宣言中、10日ほどで自ら作業して全面的にリニューアルした。

 

最近のリモートツールは、SNS機能も兼ねていることが多い。

 

こういったツールをきちんと研究して業務に採用、活用したら、対顧客コミュニケーションも、報連相も、ブラッシュアップされる。

 

西村法律事務所も、私自身も、コロナ対応のなかで、ITスキル、リモート対応スキル・危機管理スキルが飛躍的にアップして、業務改善がめまぐるしく進んだ。

 

しかし、残念ながら、多くの企業は、必ずしも業務改善ができていなかった、と見ている。

 

役所や大企業、各種団体ですらそうである。こういった大組織が、緊急事態宣言中の在宅勤務だと、簡単な事務連絡のレスポンスひとつで2日も3日もかかった。

 

とにかく遅かったのである。折り返しの電話ももらえないで、今でもメールオンリーであったりする(まあそれもこちらは対応できて仕事が回るならよいと割り切っているが、そんな場面ばかりではなかろうにと心配になる)。

 

まして中小零細企業だと、緊急事態宣言が開けたら、これまでと何も仕事のやり方が変わっていないし、変えていないところが結構あるのである。まさに古色蒼然、アナログなままである。

 

ニッポンの社長や幹部たちが、固陋にもアナログな低スキルな仕事のやり方を変えないのだから、周りが変えられない、わずかなコストで採用しようにも上から理解されない、という構図であろう。

 

日本の中小零細企業が生産性が低い原因はこういったところにあるのだろうと、あらためて暗澹としたことも多い。

 

今年のコロナウィルス禍では、飲食店の閉店は膨大ながら、直ちに大量の企業倒産が出たわけでは無い。

 

信用保証協会の緊急制度融資による無利子融資などにより、とりあえず資金ショートによる倒産を免れた企業がほとんどである。

 

また、長い貸し渋りの時代を耐え抜いて蓄積のある企業も多いから、そういった企業は少少の単年度赤字くらいで会社をたたむということにはならないのである。

 

8月ころからは、緊急事態宣言中社会が止まっていた反動のように、各企業が経済活動に動き出し、年度後半の各企業の経済活動や事業展開は極めて活発だったと感じているる。

 

実は、この1年、企業によって差が広がっている。

 

コロナ対応に矢継ぎ早に知恵を絞り続けて業務をブラッシュアップ・イノベーション・パラダイムシフトして事業展開を変え意欲がほとばしる企業がある一方で、緊急事態宣言中は麻痺して閉じこもり、嵐が過ぎたら仕事のやり方も意識も元通りでしたという古色蒼然たる企業とが、極端に、分かれている。

 

売上激減で人生が崩壊する危機に見回れた経営者の立場と、給料の減らない雇われの立場と、年金の減らない年金生活者の立場が、極端に分かれた。

 

それぞれぶらさがる者や人生を抱える他人の立場に対する無理解をワイドショーが煽った。

 

煽りに乗って怒っていた者や、ただ暇に閉じこもっていた者は、何も産まなかった。

 

殆どの企業が売上減のダメージを受けた中でも、この1年で自己革新を積み重ねた企業と、単にうろたえて逼塞してコロナを怖がっていた企業とでは、2021年の伸びしろは、まるで違ったものになるだろう。

 

その差は、簡単には取り返せるものでは無いと思われる。

 

西村幸三

lawfield.com

京都・烏丸三条にある法律事務所を運営。ニュース・法改正・裁判例などから法務トピックを取り上げていきます。