日本人の感染しにくい要因がデルタ株で失われた

日本人の感染しにくさのファクターがデルタ株で失われた話を紹介する。

 

2021年6月14日、米国科学委雑誌「Cell Host & Microbe」オンライン版で公開された論文によれば、東京大学医科学研究所附属感染症国際研究センター システムウイルス学分野の佐藤准教授が主宰する研究コンソーシアムが、注目すべき発見をした。

 

(1)日本人の約60%が保有する「HLA-A24」という、日本人に多く見られる型の白血球抗原(細胞性免疫)が、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の一部をきわめて強く認識する(つまり白血球が食べてしまって撃退する)ことを、免疫学実験によって実証した。

 

(2)新型コロナウイルスの「カリフォルニア株」「インド株(デルタ型)」に共通するスパイクタンパク質の「L452R変異」が、そのHLA-A24を介した細胞性免疫を回避してしまうことを明らかにした。また、「L452R変異」は、ウイルスの感染力を増強する効果もあることも明らかにした。

https://www.amed.go.jp/news/release_20210616.html

この論文の内容は、上記の要約で読むだけでも、非常に衝撃的なものである。

 

日本でこれまでコロナ患者数・重症者数・死者数とも、世界的にも桁違いに少ないことは、不思議なこととされてきた。

 

その「ファクターX」が、日本人に多く見られる方の白血球抗原である(可能性が高い)ことが明らかになったのである。

 

同時に、デルタ株が、その細胞性免疫をすり抜けてしまうことも明らかになったのである。

 

そう考えると、デルタ株が、まさに想定外のペースで、日本で爆発的に感染拡大している理由も、よくわかるのである。

 

デルタ株の感染力は、ただでさえ、従来型変異株よりはるかに強いとされていて、従来型変異株が通常のかぜと同じく1人の感染者から約2人にうつるのと比べ、デルタ株は1人の感染者が平均8~9人に感染させるという。

https://www.cnn.co.jp/usa/35174591.html

従来の感染対策で感染しなかった職場や商業施設、保育施設などで、次々とクラスターが発生している。

 

同居の家族にいたっては、ワクチン未接種なら大半が感染するようである。

 

このような増幅された感染力に対し、日本人は、これまでは知らず知らず白血球に保護されていたものが、知らぬ間にデルタ株にはノーガードでメッタ打ちにあってしまっているということである。

 

現実問題として、はしかや水ぼうそうに対して、ワクチン接種以外に、対抗する手段などない。

 

乳児幼児に、はしかや水ぼうそうのワクチン接種をあえてしない親がいるだろうか。

 

風疹、はしか、水ぼうそう(帯状疱疹も引き起こす)ウイルスは、中高年以上は自然感染やワクチンでの免疫が経年で弱まっていくので、実は、家族も接種しなければ、感染させ合ってしまい、大変な悲劇が生まれるのである。

 

これまでの研究や知見によって、ファイザー・モデルナのワクチンで不妊を招くこともなく、妊娠中も胎児への悪影響もまず認められず、米国ではしばらく前に、日本でも最近だが、接種が推奨されている。

 

新型コロナウイルスに未接種のまま感染して、若者含め、息が切れてまともに歩けない後遺症に長期間見舞われることがあるというのは、しばしば聞く話である。

 

新型コロナウイルス感染により心筋炎・心膜炎を若者は起こしやすい。

https://www.carenet.com/news/general/carenet/52501

米国の大学の(若者)アスリートを対象にした研究で、心臓MRI検査(CMR)を実施して心筋炎の発症有無を調べた結果、2.3%が臨床症状を有する心筋炎または無症候性心筋炎と診断されたという。

 

新型コロナウイルスの後遺症に、肺の繊維化、心筋症がある。

 

肺の繊維化、心筋の損傷は、ほぼ一生涯回復しない上に、まともな運動も日常生活も出来なくなるという、特に若者にとっては深刻な後遺症を招く。

 

しかしながら、デルタ株の感染力からして、ワクチンの接種未接種とわず、誰でも、数年のうちに必ずウイルスに暴露し、未接種者はほぼ感染する、と思ってよいだろう。

 

ワクチン接種をすれば、重症化や死亡は限り無くゼロに近づく。

 

デルタ株の襲来に対し、従前株のようなつもりで、ワクチンを忌避して、ノーガードで臨むような行為は、無謀でしかない。

 

ワクチンを接種することでも、副反応としての発熱等一定のリスクはある。

 

でも、そのリスクは、新型コロナウイルス感染のした場合の確率のさらに何千分の1何万分の1である。

 

新型コロナウイルスに感染して、体中にばらまかれる生の毒素に比べれば、ワクチンで体に発生する抗原タンパク質は「切れ端」に過ぎず、格段にリスクは少ない。

 

副反応が強く出る人は、もし新型コロナウイルスに感染すれば、それ以上に身体が反応し激しい症状に襲われる可能性があるということでもある。

 

ワクチン接種を忌避したり様子見したりする人は今も一定存在するが、デルタ株の感染力をみて、米国では多くの未接種者が、接種を決断して、停滞していた接種率が上昇しているという。

 

リスクを比較して賢明な判断をされる人が、1人でも多くなることを切に願うところである。

 

新型コロナウイルスはデルタ株以降はまず集団免疫に達することはないので、必ず未接種者はどこかで感染して、少なからざる確率で中等症・重症化等によって医療システムを圧迫・崩壊させることになるのである。

 

実際には、軽症でも、ひどい咳に苦しめられるという。

 

「接種する接種しないは自己責任、接種しない人に強制はいけない」、というのは易しいが、接種しない人が、必ずしも正しいリテラシーと知識・理解に基づいてリスクを比較して判断しているわけではないのである。

 

リスク選択ができないからなにもやらないという人も、合理的行動が取れない人も、きちんと考えようとしない人も、実はいくらでもいるものである。

 

とはいえ、私の知る範囲で、実際感染した人に話を聞くと、感染でこんなひどいことになるとはと、自分の心身の苦痛と、周囲にかけた迷惑に、激しく後悔している人ばかりである。

西村幸三

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京都・烏丸三条にある法律事務所を運営。ニュース・法改正・裁判例などから法務トピックを取り上げていきます。