楽天モバイルの値上げの評価

楽天モバイルは、使用するデータ量が0~1GB以下なら0円(1~3GBは980円+税)だった料金体系を、0~3GBで980円+税と、ある意味極端な値上げを実施した(値上げは7月1日から)。

 

この改悪に、楽天モバイルのユーザーから相当なブーイングがでている。

 

楽天モバイルからの乗り換えの動きも早速に起き、auのpovo 2.0(基本料金ゼロ円+トッピング。最低半年に660円の要トッピングで完全に0円ではない)に申込みが殺到して処理遅延がおきたり、iijmioも申込みが急増している。

 

楽天モバイルのこれまでの料金体系では、データSIMとデュアルSIMで運用したり(代表的なものはmineoのマイぴた+パケット放題)、Wifi下でだけ使う事で、通話・SMSし放題で0円でSIM契約が維持できてしまうことから、極端なダンピング料金であったというしかなく、これは楽天モバイルのスタートアップの電波エリアの弱さの埋め合わせのキャンペーンでもあった。

 

もともと持続性のないものが、赤字の増大によって、予想より早く打ち切られた格好である。

 

0円運用できること自体持続性がないキャンペーンだと理解していれば、また0円運用の顧客はさすがに企業の利益を生むわけではない存在なので、切られて怒る筋合いでもないが、楽天モバイルのこれまでの説明がそうではなかったから、炎上するのも仕方がない面がある。

 

楽天モバイルの決算がここまで苦しくなった要因のかなりの割合を占めるのが、auに払っているパートナーエリアのローミング料金であり、キャリア間で払われているものが1GB500円ほどにもなるのだという。

 

MNOからMVNOに卸されるデータ通信料金はおそらくその何分の1かに過ぎないから、auのとんでもないぼろ儲けになっていて、auの決算を押し上げていると言われて来たほどであった。

 

楽天モバイルは、これでは契約数が増えれば増えるだけauに貢ぐ形となって赤字が膨らんできたわけだが、MVNOだった楽天モバイルがMNO化する際に、NTTドコモから、MNOになる以上、MNOの競合に電波の卸を提供させられるのは筋が違うとしてローミングの提供を断られ、迷走の末、楽天モバイルはauとのローミング契約に至ったという、苦渋の選択の結果である。

 

あげくauのpovoに(低料金帯の客とはいえ)顧客を献上したわけで、自爆というか二重に収奪されたというか、論評に困るが、こうなったことについて国の競争政策に問題はなかったのだろうか?

 

そもそも、ドコモauソフトバンクの3社寡占による料金高止まりを是正するために、総務省が、楽天の新規参入を促したのであるから、競争上の衡平性確保から、MNO各社に、スタートアップの楽天MNOに基地局整備まで期間限定でMVNOと同等程度の価格でのローミングを提供するように義務づけすべきだっただろう。

 

楽天モバイルは、それもないまま、ドコモに袖にされて、auとの割高なローミング契約を強いられ、スタートアップの狭い電波エリアの見返りに、料金1年無料などの破格の赤字キャンペーンに及んだ。

 

そして本体の楽天グループの株式下落に耐えられず、決算発表に間に合わせる形で今回の値上げとなったわけで、価格政策が極端から極端に触れた、という批判は、半分は当たっており、半分は責めるには可哀想な事情がある。

 

楽天モバイルの新規参入と、総務省の20GBプランの国際比較からの値下げ先導の2大事件のおかげで、MNO3社は、たちまち、ahamo、povo、LINEMOを打ちだし、さらにUQモバイル、ワイモバイルといったサブブランドを強化せざるを得ず、多くの消費者は多大な値下げの恩恵を受けることとなった。

 

どんどん高額化するスマホの月額通信料金に食われる国民の可処分所得を、あっという間に大きく増やした功績は、楽天モバイルと、菅義偉総理大臣、総務省(特に不祥事で辞任はしたものの谷脇康彦総務省総合通信基盤局長)にあるといえるが、新規参入で周波数帯を殆ど持たない楽天モバイルに甚だ不利なローミング条件を総務省が許容したことは、総務省の詰めが甘かったというか、功罪入り交じるというべきもので、日本の携帯の通信料値下げが楽天モバイルの突撃による企業価値の犠牲の上に達成されたものであることも、冷静に評価しないといけない。

 

MNO3社はプラチナバンドを独占し、無料で割り当てを受けていて、ソフトバンクは、プラチナバンド取得を切望した末新規獲得し、さらに本来4社目であったイー・アクセス(ウィルコム)の周波数帯を吸収合併で取得したりと、MNO3社は周波数帯でもガリバー型寡占を進めてきた。

 

楽天モバイルが、多大な犠牲を払って基地局を整備しつつ、その実績を評価してもらって、国に衡平な競争政策としてプラチナバンドの割り当てを切望するのは、こういった携帯電話というインフラの公正競争の歴史を踏まえれば当然の理でもある。

 

さて、楽天モバイル参入以降の間のスマートフォン業界の展開はめまぐるしく、MNO3社が対抗上打ち出したプランはさすがに練れている。

 

例えば、povo 2.0 であれば、最安の運用をするなら、24時間データ通信し放題(実質は翌日までの2日間データ通信し放題になる)を半年で2回=660円のペース(月110円程度)で課金(トッピング)すればいいわけで、臨時モバイルルータとしても極めてオトクである。

 

さらにRCSサービスの+メッセージ(プラスメッセージ)も使える。

 

MNO3社のRCSであるプラスメッセージは通話無料機能をRCSからわざわざ殺し、通話料金収入を周波数帯の寡占を生かして別途確保しようというものである。

 

楽天のRCS(Rakuten Link)はグローバル基準に沿い、通話も無料でできるRCSであり、通話音質が若干劣るものの方向性としてはよしであるが、一方で、周波数帯と基地局への投資というレガシーの上に立つMNO3社としては、Rakuten Linkは「叩き潰すべきRCS規格」でしかない。

 

それで、プラスメッセージをMVNOにも開放して、Rakuten Link 包囲網を強化している状況である。

 

一方で、楽天モバイルの料金プランは、値上げと言っても980円かけ放題と考えればパフォーマンスは十分によいのだが、かけ放題の需要自体が減っている中で訴求力が幅広い顧客向けとは言えない。

 

楽天モバイルの料金体系で、気づけば3GB超となっていつのまにか月額1980円になるというのも、ユーザーとしては納得いかない。

 

電波エリアの狭さから都会のみで暮らす者以外はデュアル運用となるが、そうするとMNO3社のプランやサブブランド・MVNOとの価格優位はかなり失われてしまう。

 

楽天モバイルが、料金体系が極端な安値許容から極端な正常化に触れたことで、大幅な契約者数減少を招くことは間違い無いだろう。

 

せめて、0~1GBを490円+税くらいにしておけば、ここまでの契約者離反のショックは招かなかったのではないかとは思われる。

 

むしろ、コスト要因になっているauとのローミング契約の早期終了、都会の地下鉄などのエリア充実を進めた方が賢明だったように思われるが、楽天の決算発表にあたり、赤字垂れ流しに栓をする実績作りとして、ここまでやらないと間に合わなかったということなのかもしれないが、バーターでの、キャリアメール無料付与とかSPUアップなどはわかりにくく、訴求力も弱く、値上げだけが注目されてしまうこととなった。

 

投資筋の評価はプラスであり株価は回復したのだから、失敗かと言われるとそうでもないとは言えるのだが、楽天は顧客より市場をみた、という評価が妥当であろう。

 

しかしながら、楽天モバイルの悲願であるプラチナバンド獲得に向けては、契約者の相当数の裏付けのアピールが必須である。

 

ウイルコムのPHSのように契約者数じり貧では、投資もままならなくなり、結局貧すれば鈍するの先細りとなってしまう。

 

楽天モバイルは、解約者数の動向をみて、急遽、次回の料金政策の再調整や、次々回の料金体系での再調整をする可能性もありうると、うがって見てしまうところである。

 

日本の携帯電話料金は、この2年で、かけ放題データ使い放題でもMNO3社でも月4000円程度でだいたいは済むようになり、リテラシーさえあれば、MVNOや楽天モバイルを使ったり2台持ちすることで月3000円程度で済ませられるようになった(かけ放題やデータ使い放題不要ならもっと下る)。

 

プライベート用端末と、仕事用のかけ放題端末の2台持ちはもはやあたりまえで、その2台持ちパターンの方が、MVNOやサブブランド利用で合計料金でも安くできるご時世である。

 

もし楽天モバイルが挫折して他社に周波数帯ごと買収されるようなことになれば、イー・アクセス(ウイルコム)の二の舞であり、政府・総務省は、公正競争の看板と沽券を問われることになるであろう。

西村幸三

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京都・烏丸三条にある法律事務所を運営。ニュース・法改正・裁判例などから法務トピックを取り上げていきます。