アニメ映画「この世界の片隅に」を見た。
京都府下で1館しか上映されていない。
なにしろ原作の漫画がすばらしい作品だった。
あの原作の世界をどこまで再現できるのだろうと思っていた。
予告編や前評判で、「これは・・・すごいかもしれない」と思ったので、見に行くことにした。
原作をはるかに超えるどころか、鑑賞する者を、昭和10年代に生きた者の日常世界にどっぷりと引きずり込んでしまう出来だったと思う。
当時の町や自然の情景を美しく再現したアニメーション映像の出来がなにより感嘆させられる。まずは、見る者はあっという間にその時空に入り込んでしまうのである。
そこには、戦争を描いた映画にありがちな暗い時代という印象はなく、くったくなく人びとが生きている、明るいパステル調の日常世界である。
すずは、とぼけたキャラで、昭和10年代当時の生活の苦難も苦とも思わない、いい意味での鈍感力を持っている。
漫画の原作のエピソードをてんこ盛りにしてくれているので、原作ファンの高い期待も裏切るところがない。
エピソードもだいたいが短いオチと笑いのあるもので、辛い話でもすずの鈍感力とピュアさがどこか救いになっている。
鈍感、と見えるようで実は、すずは円形脱毛症になる。
ということも、一応オチにされている。
見ていてテンポもよいし、台詞の言外にちりばめられた要素が多くて、画面のディテールも一度見たくらいでは拾いきれないくらい豊かである。
繰り返すが、ほんとうに、昭和10年代の呉・広島の時空に、すっぽりと入り込んでしまった。
つくづく、傑作だった。満足。