テレワーク等において採用されるビデオ会議ツール(Web会議ツール)「ZOOM(ズーム)」は、ほぼ、スタンダードの地位を確立した感がある。
昨年までは、セキュリティ対策をあれほど声高く叫んでいた上場企業まで、猫も杓子もZOOMを採用した。
ZOOMは中国人が米国で設立した会社で、開発環境もサーバーも一部中国にも置かれていたため、「チャイナ・リスク」ありとされていたため、セキュリティ上は忌避されてきたのである。
それが、新型コロナウィルス騒動で、否も応もなくWeb会議をせざるを得なくなった企業が、セキュリティ上の懸念も振り払って採用したのが競合製品ではなくZOOMであった。
Skype、Webex(ウェベックス)など、競合となるビデオ会議ツールは幾つもあったが、採用されたのは殆どがZOOMであった。
みんなで渡れば怖くない、そもそも相手先企業がZOOMを指定してくるところばかりだから、気にしていてもしようがない、となったものと思われる。
ZOOMが大企業からも採用された理由は、「品質」である。
種々のツールの中で、一番、音や映像が途切れなかったのである。
競合各社は、ZOOM追撃態勢をとり、焦って猛然と機能を強化し、各社のWeb会議ツールの使い勝手は、ZOOMとさほど違わないくらいに向上が進んだ。
機能や品質のアドバンテージは無いわけではないがわずかである。
しかしZOOMがいったん築いた優位はなかなかに動かないだろう。
さて、一方で、日本人についていえば、一体どの程度の人が、ZOOM会議を普通におこない、ZOOMを使いこなしていると言えるだろうか。
日本人は、インターネット接続機器として、PCを使う割合が非常に低い。
PCでなくスマートフォンを使う人が圧倒的に多い。
自宅では、PCは持っていても、非常に古く低速だったりして、ZOOMはおろか、Word、Excelでさえ快適に使えないような貧弱な環境しか持っていない人が非常に多い。
お年寄りに到っては、そもそもPCをまともに使えない割合が非常に高い。
各種の調査を見れば、欧米の高齢者が普通にPCでZOOMを使っている一方で、日本人はテレワークでPCを自宅で使う環境すら整えていなかったことが、明らかになっている。
40代、50代、いや、20代30代の若者ですら、「スマートフォンは駆使しているけれどPCは使わない」という割合が、日本では結構高い。
特に高齢者のPCリテラシーの低さは厳しい。
私の周囲の友人知人でも、高齢者で、Web会議ツールを普通に使いこなしている人は、非常に少なかった。
さて、そんな日本においても、新型コロナウィルス騒動が長引き、高齢者も、Web会議ツールを使わなければ、会議一つ開けず参加できず、様様な任意団体の運営が回らない、ということが現実の支障として生じ始めている。
各種法人の理事会や評議員会・総会、任意団体はさらに多くて、ボランティア団体、政党支部、町内会、老人会、ロータリークラブ・ライオンズクラブ、各種の異業種交流会など、挙げ出すときりがないが、こういった会の集まりを「不要不急」で切り捨ててしまっては、人と人のつながりを断ち切ってしまい、経済的悪影響に留まらず、社会のこまやかな運営に差し支えが生じ、孤立化した人の心身の健康まで害することになってしまう。
問題はそういった集まりが、主に高齢者によって支えられており、リテラシーの不足から、リアルに代わってWeb会議ツールを使った会合も全く持てないまま、この4~5ヶ月間、活動停止状態になってきたことである。
これを解決することは、急務であるが、意外と簡単である。
ビデオ会議ツールの標準ツールであるZOOMが、日本のお年寄りのインターネット接続環境からすれば、かなり新しめの速いPCやネット回線などを要求しているのが原因なのだから、そのハードルを回避すればよい。
ZOOMは、PCでなくてもスマートフォンにインストールしてWeb会議することはできる。
しかしながら、お年寄りで、ZOOMをスマートフォンにインストールして使いこなしている人が一体どれくらいいるであろうか。
そもそも殆どのお年寄りは、ZOOMをスマートフォンにインストールしてもいないだろう。
そんなお年寄りに、「ZOOMで繋ぐのでWeb会議しましょう」といえるはずがない。
会議をしたいメンバー全員がZOOMをスマートフォンに入れて正しく操作できるかといえば、アプリをインストールして設定する時点でまず無理、お手上げとなってしまうのが、日本の高齢者の残念な実情である。
ZOOMは、たいへん他機能で、セミナー開催などにおけるファイル共有などの機能は、画面の広いPCで使うことをほぼ前提としており、画面の狭いスマートフォンで使うことは次善以下の策で、積極的に推奨されているわけでもない。
ZOOMをスマートフォンで使っているのでは、ほぼ、他のビデオ会議ツールと比べて優位性は感じられないのである。
日本でビデオ会議を開催する際に、広くお年寄りに乗ってきてもらうには、PCでZOOMという要求は現実的ではないということになる。
では、どうすべきか。
ひとつの答えが、最近出た。
LINEミーティングである。
LINEは8月6日、コミュニケーションアプリ「LINE」において、指定のURLにアクセスするだけでグループ通話に参加できる新機能「LINEミーティング」の提供を開始した。
https://guide.line.me/ja/experts/linemeeting.html
LINEミーティングの使い方
もともと、これまでも、LINEでは、友達として繋がっている者同士では、無料通話が可能であった。
ビデオ通話も可能である。(驚いたことに、知らない人が多い)
複数人が同時に話せる。
グループ通話という。
映像無しに音声だけでもグループ通話はできる(この場合消費する通信容量は極めて少ない)。
友達として繋がっている者同士が「グループ」を作れば、グループメンバーへのメールを一括して送れるほかに、グループ宛に無料電話を発信すれば、グループ通話、グループでのビデオ通話も可能である。(これも、お年寄りはあまり知らない)
今回、新しく実装されたこの「LINEミーティング」機能は、「友達として繋がっていない者」が混じっていても、500人までグループ通話・ビデオ通話ができる機能である。
「グループ」を作るのは、会議の段取りをする人1人だけが全員と友達として繋がっていればよく、全員が友達として繋がっている者同士でなくてもよい。
しかし、恒常的なグループ化は、常時友達として繋がるに近いので、LINEのつながりを限定的にしたい者には抵抗感もあるだろう。
そこで、一時的にグループ通話ができる、LINEミーティングの存在意義がある。
但し、グループ通話に参加する者は、スマートフォンかPCにLINEをインストールしておく必要がある。
今の日本のお年寄りは、最低限、ガラケーではなくスマートフォンに変えていれば、LINEはインストールしている。
だから、ZOOMをスマートフォンにインストールせよというより、LINEミーティングをやる、といったほうが、はるかにハードルは低いことになる。
LINEミーティングでは、主催者(会議の段取りをする人)が会議室のURLを発行して、そのURLを、Eメールで送ったり、LINEメールで送れば、ZOOMとほぼ同じ操作で、LINEが起動し、そのままLINEミーティングに参加できる。
日本のお年寄りにとっては、垣根の低い、非常に手軽な、Web会議ツールが登場した、と思われる。
肝心なのは、URLを発行した上で、それを送ることである。
もっと高いハードルが、受け取る側が、発行されたURLを、スマートフォンで読めるメールアドレス宛てで受け取る事である。
実は、日本のお年寄りは、スマートフォンでも、ほとんどが、NTTドコモ、au、ソフトバンクの発行するメールアドレス(キャリアメール。docomo.ne.jp、ezweb.ne.jp、i.sotbank.jp)しか使わないことが多い。
これが障害になる。
キャリアメールは迷惑メールフィルターが強力なため、ZOOMなどのビデオ会議ツールの会議室のURLを送るメールがフィルターにかかって全く届かないと言うことがよく起きるのである。
いくらお年寄りでも、Googleのgmail.comや、Appleのicloud.comは、スマートフォンを使い始めたときに、登録して、メールアドレスとして持っているはずなのである。
しかし、お年寄りは、ガラケー時代からのキャリアメールだけを使っていて、gmailやicloud.comのメールアドレスを忘れてしまっていたりする。
つまり、会議室URLをスマートフォンあてに送ってあげる際に、キャリアメールを指定されたあげく届かないというハードルがあるのである。
ZOOMだと、会議室のURLをPCに送る際にはPCで読めるメールアドレスとなる。
キャリアメールでなければ、フィルター機能が強力ではないので届くが、一方で、古いパソコンなどでは動かなかったり、パソコンが共用スペースにあったりと、結局それがハードルとなって、ZOOM会議ができないとなってしまうこともある(笑)。
こうなると、高齢者のWeb会議開催に当たり現実的なのは、LINEグループ通話か、LINEミーティングである。
主催者だけは最低限全員と友達として繋がっておくようにする。
そうすれば、最低限LINEグループ通話は可能である。
または、LINEミーティングのために、URLの送り先のメールアドレスとして、gmailやicloudなどスマートフォンで読めるアドレスをメンバー全員が指定できるようにすることであろう。
あらゆるビデオ会議ツールにおいて、一番要チェックポイントになるのは招待メールの送り先となるEメールアドレスがPCで読めるかスマートフォンで読めるかであるが、そこで「キャリアメールには招待メールが届かない」というハードルは厳しい。
日本のPCリテラシーの低さによる社会の機能不全が、コロナウィルス騒動によって、浮彫りになったようにも思われる。
高齢者に限らず、PCを自宅で使いこなしていない若者や中堅世代の日本人たちもどんどんBクラス化していき、そちらのほうがより深刻で、先行きは暗い、と感じてしまう。
コロナウィルス騒動をきっかけに、既に、PCも家族に1台ではなく、「一人に1台」の時代になってしまっている。
スマートフォンに一人あたり月8000円、タブレットまで別契約にして、家族で3万円4万円もかけているような家庭も多いが、そういった家庭で家族がほとんどPCをまともに使えていないという暗澹たる風景をよくみる。
月2980円で楽天モバイルのカケホーダイ・ギガ使いホーダイのスマートフォン契約ができる時代、ocnモバイルなどの格安SIMならもっとリーズナブルに使える時代に、docomo、au、ソフトバンクの3大キャリアに無駄な金を貢ぎ続けている層が、若者世代まで含めて多い。
3大キャリアに忠誠心があるからではなく、リテラシーが乏しいから、なんとなく怖くて乗り換えられない悪循環に気付かず安住しているのである。
楽天モバイルや格安SIMに切り替えて浮いたお金で数か月ごとにPCが1台買えてしまう。
しかし、そのPCへのわずかな「投資」すら「ムダ」だと感じてしまうアタマに固まってしまっているのかもしれない。
そもそも、PCだろうとスマートフォンであろうと、Web会議を、映像オンでやる、つまりビデオ会議をやろうとすれば、膨大な通信容量を消費する。
1時間でギガを0.6GB~1GBくらい使うと思っておくべきである。
家族数名が同時にビデオ会議をするという場面も、我が家に限らずもう珍しいものでは無い。
こうなると、ビデオ会議を常用しようとすれば、光ファイバー契約(+wifiルータを購入かレンタル)をした上で、PCやスマートフォンをwifi接続する以外に選択肢はない。
しかし、光ファイバー契約もしていない高齢者や若者がそもそも日本ではまだまだ多い。
光ファイバー契約をケチる時点で、ビデオ会議からは脱落である。
しかしそんな若者や高齢者が、一方で携帯3大キャリアには月8000円、10000円×家族人数分(!)を払うのに何の抵抗もない。
悪くいえば、自分が収奪され、スポイルされていっていることに気付いていないのかもしれない。
残念なことには、その家庭に育つ子供も、リテラシーが身につかないから、その境遇をよしとすることになってしまう。
悪循環である。
スマートフォンは、多くの人にとっては、マスコミやSNSの発する断片的な情報を、あんぐりと口を開けて、家畜のように与えられ、読み流すだけのツールである。
そういったところはややテレビに似ている。
テレビは特にコロナウィルス騒動以降、内容の希薄化が著しく、全く見るに堪えなくなっている。
スマートフォンは、pdfファイルを読むにも苦労するような代物であり、自分から多面的情報、体系的情報を収集し、調査し、分析するにはおよそ向かない。
PCは、自分から情報を取りに行くツールであり、自分から情報を作り出すツールである。
アウトプット量の多い者ほど、スマートフォンやタブレットでは入力速度が遅くて間に合わないからPCでキーボード入力やマウス入力で作業する。
なお、新聞は記事の一覧性が高い点で優れており、高齢者はまだしも新聞を読んでいる割合が高いだけよいとも言える。
しかし新聞も各紙により偏りがあり、メディアの姿勢から視点が狭くパターン化していることが多く、特にコロナウィルス騒動以降は、記事が希薄化、質が低下し、一紙だけでは読むに堪えない状態になってしまった。
マスコミ自身がリテラシーの低さを露呈したのが、コロナウィルス騒動で露わになったことであった。
日本人のリテラシーの低さは、かなり深刻になっているというべきではないかと思う。