Microsoft Teams の優位性

今後、Microsoft Teamsが、ビデオ会議ツールとしても、ビジネスチャットツールとしても、他のアプリに比べて優位性を確立していくだろうと思われる。

 

ZOOM、LINEなどとも比較しながら、こういったツールの動向の近未来について語ってみたい。

 

新型コロナウイルス騒動によって、大手企業においてはテレワークが急遽導入されるようになった。

 

その際に必須となったのが、(1)ビデオ会議ツール(2)ビジネスチャットツール(Webコミュニケーションツール)、であった。

 

(1)の代表格はZOOMである。2020年5月ころのシェアは、一部報道では33%、一方Teamsは18%、といわれていた。

 

ビデオ会議に使われていたのは、私の周りでは、圧倒的にZOOMであった。

 

ZOOMは、ビデオ通話の質がよい。音が途切れにくい点で、一日の長がある。

 

ビデオ会議ツールに特化している分、操作がほかのツールに比べれば比較的わかりやすい。

 

これがZOOMのメリットである。

 

しかしさらにいえば、(1)(2)を兼ねているツールとして、もっともわかりやすく導入のハードルが低いのはLINEである。

 

ZOOM会議もさりながら、LINEグループを使ってのビデオグループ通話をする機会も多かった。

 

ZOOMのバックアップとして急遽働いてくれたこともあった。

 

LINEグループ通話は、ややプライベート寄りである。

 

プライベートで繋がっている関係も多いからそうなるのは当然ではある。

 

LINEグループ通話は、じつに手軽である。

 

LINEで誰か1人が、会議をしたいメンバーと繋がっていれば、その人がグループを作成してしまうことができる。

 

あとは、お互いが、LINEで電話をかけるだけの感覚で、ビデオ会議が可能になる。

 

一時的に繋がるだけでのビデオ会議機能なら、LINEミーティング機能が最近新設された。

 

ZOOMの音質がまだしよいとしても、世間ちまたでしばしば見られた風景は、ZOOMで繋いだものの、誰かのインターネット接続環境がボトルネックとなって音が途切れたことである。これはほんとうによく発生した。

 

音が途切れるボトルネックは、各会議参加メンバーの側の誰かの環境にあることがほとんどである。

 

PCが古かったり、光ファイバー回線に繋いでいるwifiルータの性能が低かったり、wifiルータから離れて接続していて中継器なしでは電波が弱かったり、光ファイバー回線とwifiルータの間のネットワークハブが古くて遅かったりする。

 

わずか3年ほど前の機器でも、ビデオ会議をスムーズにおこなうには、力不足である。

 

音が途切れる原因はほとんどメンバー誰かの側のPC・スマホ・インターネット接続環境にあるから、ZOOMのせいにするべきでもないのだが、いずれにせよ、トラブルは多発していた。

 

LINEグループ通話は、ビデオ通話にしなければ、つまり音声通話だけならば、極めて快適である。

 

お年寄りを含めて現時点でのベスト・ソリューションはLINEグループ音声通話だろうと思われる。

 

しかし、LINEは個人利用を前提としていて、仕事とプライベートの境界を分けられないというネックがあった。

 

このソリューションとしては、LINE WORKSを導入すればいい。

 

無料プランもあって、もう一つLINEのアカウントが持てる。

 

営業時間外は留守設定にしておくことも可能である。

 

そういう意味では、LINE WORKSは、ビデオ会議ツールとしても、チャットツールとしても、一応使える。

 

なお、LINEのファイル共有機能は極めて貧弱で、LINE WORKSでないと、ビジネスに幅広く使えるレベルではない。

 

ビデオ会議ツールのシェアは、きちんとした統計はとられていないようであるが、Android(スマホ・タブレット)上でのDAU(Daily Active Users:1日に一度以上、そのアプリを立ち上げたユーザーの数)の推移が出て来た。

 

https://biz-journal.jp/2020/08/post_173882.html

2020年第2四半期(4~6月)

 

驚いたことに、Microsoft Teamsのアクティブなユーザー数は、ZOOMとまったく変わらないところまで、追いついてしまっている。

 

記事のグラフを見ればわかるが、

 

https://biz-journal.jp/wp-content/uploads/2020/08/post_173882_2.jpg

 

各国でロックダウンや緊急事態宣言が出た4~5月に、ZOOMのDAU数は激増した。

 

しかし6月に入ると急減してしまっている。

 

各ビジネス業界、プライベート問わず、ビデオ会議を開く頻度が減ったのだろうと思われる。

 

Microsoft Teamsはといえば、5月中旬くらいまでにDAU数が急増し、そのあとは、ほとんどDAU数が減ることはなく、そのあとも、ZOOMのアクティブなユーザー数とほとんど並んでしまっている。

 

つまりわかることは、最新情報として、Teamsのユーザー数は、もうZOOMと変わらないと言うことである。

 

Teamsのビデオ会議機能は実はかなり優秀で、そもそもビジネスチャットツール機能がメインであるという点で、価格面も含め、ZOOMへのアドバンテージはいっぱいある。

 

まず無料プランの場合で、Teamsは時間接続が事実上無制限(24時間で切れるそうであるが)なのに対して、ZOOMは40分で切断されてしまう。

 

ZOOMの有料プランは、月2000円(または14.99ドル。ドル決済の方がオトクである)である。

 

Teamsは、Word、Excelなどをマイクロソフト・オフィスを使うために、Office 365 Business Premium(1360円/月)を継続契約している大企業・中堅企業からすれば、もともと入っているアプリケーションのひとつに過ぎない。

 

Skype for Business、Teams、Exchange のないOffice 365 Office 365 Business (900円/月)プランもあるから、差は460円というところか。

 

Office 365を契約していれば、複数のPC、スマホ、タブレットなどからログインして、ブラウザ上からWord、Excelの編集作業が可能になるのがアドバンテージである。

 

単体としてみれば、Teamsは、月540円(年間契約時)で、Microsft 365 Business Basic(旧称 Office 365 Business Essentials)の一部として提供される。

 

Teamsのほかに、Outlook、Word、Excel、PowerPoint、OneNoteのWeb版(ブラウザ上で作業するバージョン。機能制限はあり)が、提供される。

 

OneDrive クラウド ストレージ 1 TB (ユーザー 1 人あたり)もついてくる。

 

https://www.Microsoft.com/ja-jp/Microsoft-365/business/Microsoft-365-business-basic?activetab=pivot%3aoverviewtab

 

かなりオトクである。Web版Officeは別で無料でも使えるバージョンであるがストレージもMicrosoftで一体運用できる。

 

なお、Word、ExcelなどのOfficeソフトのライセンスを既に持っているユーザーには、近日中に、ベンダー経由で、月額399円の「リモートワーク スターター プラン」も提供される。

 

https://blogs.windows.com/japan/2020/08/03/Microsoft-365-new-plan-appeared/

 

ベンダー経由でしか購入できないが、発表されているだけで19社あって、そのうちにも大塚商会、富士ゼロックス、リコー、IIJ、KDDI、GMOなどがあるので、おそらく契約は簡単にできるようになるだろう。

 

さて、月399円とか540円で、Teamsが使えるようになるということは、実は、ビジネスチャットツールがその値段で使える事を意味する。

 

ビジネスチャットツールとして、日本でもっとも評価の高いのは、日本企業が提供している国産ソフトのChatworkである。

 

Chatwork は広告入りの無料プランもあるが、実用的なのは月400円か500円のプランである。

 

ビジネスチャットツールとして世界の古参であるSlack(プログラマーなどの人気が高い)が、無料プランはあるものの実用的な有料プランが月850円からである。

 

Slackの850円と比較すると、お名前ドットコムが販売する、

Microsoft 365 Apps for business

が、Teamsどころかアプリケーション版Officeが付いて月900円、年契約870円@月である。

 

現時点で、ビジネスチャットツール(Webコミュニケーションツール)として一般ビジネスユーザーが使用する選択肢は、Chatwork、Slack、Teamsくらいに限られるように思われる。

 

そうなると、値段に変わりが無いのであれば、ほとんどの人は、Teamsを選択しておけばよいとなるであろう。

 

ところで、弁護士の業界はどうかといえば、まだどのビジネスチャットツールを導入することになっていくかは定まっていない。

 

カオスである。

 

裁判所はビデオ会議ツールにTeamsを採用した。

 

だから多くの法律事務所はTeamsは最低限、ビデオ会議ツールとしてだけは導入していくものと思われる。

 

しかし、各法律事務所はリテラシーの段階でバラバラであり、ビジネスチャットツールの採用の趨勢はまず当面定かではない。

 

また、弁護士同士とか、弁護士とクライアントのやりとりは、複雑、慎重で、必ずしもカジュアルなものではないので、ビジネスチャットツールが優れているかも疑問がある。

 

弁護士の業界では、多くの法律事務所において、ビジネスチャットツールは導入もされないまま、次の時代のツールに世の中が移行するのではないかとも思われる。

 

さて、Teamsのデメリット、課題はなんであろうか。

 

操作性、である。

 

細かく言い出すとキリが無いが、ビデオ会議だけやりたければ、ビジネスチャットツール機能をほぼ持たないZOOMの方が、一日の長もあって、操作性がよい。

 

Teamsは、操作性がよろしくない。わかりにくい。

 

決してZOOMがわかりやすいわけではないが、比較すればTeamsが劣位にある。

 

ビデオ会議を自分が開催したいという人の場合、相手が繋ぎやすいかどうかも考えないといけない。

 

そうなるとビデオ会議ソフトとしての第一選択肢は、ZOOMか、バックアップとしてLINEグループビデオ通話かLINEミーティング、ということになるように思う。

 

ZOOMは、招待される側として、アプリケーションはインストールして、IDは持っておくしかない時代になっている。

 

一方で、自分がずっと有料契約しておくならば、あるいは社内で従業員各自にアカウントを持たせるツールとしては、Teamsがおそらく第一選択になるだろう。

 

Teamsは、ビジネスチャットツール機能中心ではなく、Officeソフトを扱う仕事を進めるためのファイル共有機能のほうが中心にあり、いつでもどこでもどの端末からでも、チームのメンバーがチャットしながらファイルを修正しあい、仕事を進めていくツールという性格が強い。

 

社内向けツールという側面が出発点なのである。

 

社外とのやりとりは、本来、Teamsにとっては、おまけ、オプションだったのである。

 

にもかかわらず、ZOOMの3分の1か4分の1以下くらいのダンピング価格で提供され、Officeソフトのブラウザ版まで抱き合わせでも月540円であり、無料版でも接続時間制限も無く十分に使え、ビデオ会議ツールとして確実に普及しつつある。

 

マイクロソフトがTeamsのビデオ会議機能を強化していくスピードは、新型コロナウイルス騒動以降、驚異的であり、打倒ZOOMに向けて、完全に本気モードであり、既にSlackの存在感はかすんでいる。

 

Slackが、Microsoftを、Teamsとオフィスソフトの抱き合わせが独占禁止法違反であるとして提訴したが、むべなるかなである。

 

今後、Microsoft Teamsが、ビデオ会議ツールとしても、ビジネスチャットツールとしても、他のアプリに比べて優位性を確立していくだろうと思われる。

 

400円、500円で、飛躍的に高性能化していくTeamsを提供されては、他のビジネスチャットツールは、太刀打ちできないであろう。

 

Teamsは、Googleスケジュールとも連携できるなど、必ずしも囲い込み最重視でもないところが好感も持てる。

 

Teamsはマイクロソフト製であり、大企業としても、セキュリティ対策上もこれ以上期待すべくもなく、社内的にも通りやすい。

 

実際に、大企業での本格導入がどんどん増え、アクティブなユーザー数が増えており、一過性でなくなりつつある。

 

遠からず、Teamsのほうが周囲との関係でよい、というビジネスユーザーが増えて、ZOOMユーザーを追い抜いてしまうと思われる。

 

Teamsにとって難となっている、操作性や、独自の理解を要する概念(「組織」と「チーム」の違いとか)は、マイクロソフト製品にいつもつきまとう一番のデメリットである。

 

が、今後改善される可能性は高く、また、普及が拡がるほどに「しようがないけどこれが当たり前」となってしまう、マイクロソフト製品のいつものパターンに落ち着くのではないかと思われる。

 

一方で、ZOOMは、プライベートも含め、カジュアルにビデオ会議だけスムーズにやりたいという、中間層の支持は、広く続くだろう。

 

ZOOMはもともとセミナー開催にもっとも向いたアプリケーションである。

 

さらにもっともカジュアル寄りなビデオ会議ツール・ビジネスチャットツールとしては、LINE、LINEミーティング、LINE WORKSなどが残っていくだろう。

 

Facebook の messenger rooms や、Google Duo 、Google meet なども、ユーザーはついているので、残るだろう。

 

これらは、結局、とくに社外のコミュニケーションの相手方のリテラシーに応じて、リテラシーの高い側が合わせていくしかないものである。

 

とはいえ、ビジネスチャットツール(コミュニケーションツール)は、複数を常時チェックして対応するのは、かなり面倒くさい。

 

複数のメーラ、ビジネスチャットツール、SNSに対応が分散されると、そのチェックや対応に追われ、時間の浪費に加えて、見落しからの対応忘れのリスクを高める。

 

カジュアルな社内からのチャットが雨あられと降ってきたときに、既存のエグゼクティブは果たしてどれだけ対応していけるだろうか。

 

レスポンスの速さが何よりとなり、思いつきを忘れないように瞬間的に一言から2,3行までのコメントで返す、それがあっという間に決裁に進む、といった流れになり、いわば反射神経で仕事をするようなことになるだろうか。

 

意思決定はフラットになる半面、主体的にアイデア出しや意思決定ができるエグゼクティブにますます権限と負荷は集中することになり、ハンコをつくか代案なしにケチを付けるのが仕事といった中間管理職の不適任者は早々に無視されるか邪魔な存在でしかなくなり、組織における既存の職務階層といったものが意味をなさなくなっていくであろう。

 

そういった業務の形の変革に、既存のエグゼクティブの多くは対応できず脱落していくように思われる。

 

企業の情報管理という面でみても、こうもコミュニケーションツールが多種多様に拡散すると、スタッフ個々人のレベルで情報が抱え込まれ、組織としての情報の管理漏れ、組織としての情報の把握が不可能になるということが、問題になってくると思われる。

 

いや既に従業員が発信するSNSの情報管理も、企業にとって深刻なリスクであったが、多くの組織はきちんと対応できていない。

 

ビデオ会議ツールやビジネスチャットツールのダボハゼ式の導入も新型コロナウイルス騒動だからしようがない、と言われた時期はもう過ぎていて、情報管理問題が顕在化することは目に見えている。

 

私などは、秀丸メールに、Eメールや添付ファイルの形で社内情報交換を集約させており、そういう意味では、秀丸メールがコミュニケーションツールの中核をなしている。

 

秀丸メールの動作速度、検索速度、一覧性の高さ、ファイル操作の容易さは、なかなか他のビジネスチャットツールが及ぶものではない。

 

ファイルの管理・整理のルールも、もともと一定のルールを確立している。

 

One Drive、Google ドライブも使わないではないが、補助的である。

 

そうしないと、複数スタッフのファイルの整理が混乱するからである。

 

ビジネスチャットツールのメリットは、カジュアルなコミュニケーションができることである。

 

しかし、ビジネスチャットツールは、どこまでも情報の集約や一覧性の高さにおいては劣り、また、組織内のファイル整理のルールを整えなければ、数年を経ずしてカオスに陥るだろう。

 

なにしろ一旦採用すれば以降はそのビジネスチャットツールに閲覧その他情報の管理環境を依存してしまうことにもなるからである。

 

各ユーザーレベルで情報が無秩序に蓄積されれば、組織全体でどれほど膨大なサーバー容量を食うことになるか、それらを整理統合しようとすればどれだけの労力を要するかについて、ビジネスチャットツールの採用段階で、あまり企業の担当者は考えが及んでいないようにも思われる。

 

いまはまだコミュニケーションツールは、黎明期で、普及期との狭間にあり、ファイル整理のカオスがいまだ顕在化していないだけとも言えるのである。

西村幸三

lawfield.com

京都・烏丸三条にある法律事務所を運営。ニュース・法改正・裁判例などから法務トピックを取り上げていきます。