武田信繁家訓

西村法律事務所のWebサイトのタブ「珠玉のことば」https://www.lawfield.com/proverb.htmlに、私が心の拠り所とする書籍や心に刻み込まれた文章をアンソロジーとして集めているのでその中から抜粋して紹介する。

 

武田信繁家訓から抜粋して現代語に意訳した。

武田左馬助典厩信繁は、武田信玄の弟で、永禄四年の第四次川中島合戦で上杉謙信の猛攻を受け苦境に陥った武田本陣を死守して潰乱を防ぎ、討ち死にした武将である。

父の武田信虎は信玄(晴信)を廃嫡して信繁に家督を譲ろうとしたが信玄によって駿河に追放された。

信繁は固く兄の信玄に使え、文武に優れ、一門衆の筆頭、武田家の柱石であった。

甲陽軍艦には、冒頭で甲州法度とその原型となった武田信繁家訓が掲載されており、武田信繁がいかに家中で尊敬されていたかが伺われる。

真田信繁(幸村)の名も、武田信玄に仕えた真田昌幸が、武田信繁にあやかって名付けたものであろう。

武田信繁家訓は九十九箇条からなり、その番号を冒頭に付けている。

 

1.
急ぎ慌ただしいときも、危急のときも、仁に違わず、仁を忘れてはならない

 

2.
戦場においては、いささかも未練を持たず全力で戦え

 

3.
言動は油断なく、慎重を期すること

 

4.
武勇をもっぱら心がけること

 

5.
虚言を弄してはならない

 

6.
父母に孝養を尽くせ

 

7.
兄弟に粗略な態度を取らないこと

 

8.
自分の力量に達しないことに発言をしないこと

 

9.
あらゆる人に対して、不作法なふるまいをしてはいけない。僧侶・女子供、貧しい者に対してはいっそう丁重に接すること

 

10.
本筋を離れたことを学ぶのは益がない

 

11.
学問は学んでいるだけで考えていなければ深まらない。学ばず乏しい知識で考えると独善に陥る

 

13.
いろいろな礼儀作法立ち居振る舞いをきちんと身につけること

 

14.
趣味風流のたしなみに度が過ぎてはいけない。遊び暮らすと身を滅ぼす。情欲を抑えよ

 

15.
ものをたずねられたときには、失礼な応答をしてはならない

 

16.
いつでも堪忍(我慢、辛抱)が大事である

 

19.
愚痴や文句を周りの者と雑談しないこと

 

20.
部下には慈悲の心を持つこと

 

21.
部下が病気のときは、手間時間がかかっても見舞うこと

 

22.
忠節に励む部下をわすれてはいけない

 

23.
人を陥れるために告げ口する者を許すな

 

24.
諌言を大切にせよ。良薬は口に苦し

 

25.
働く意欲がある部下が困ったり窮したりしていれば助けてやること。人を育てるのは1年どころではなく長い年月がかかる

 

33.
部下の小さな過失は、叱責ですますべきである。小さな罪に対し度々罰すればかえって萎縮を招く

 

34.
論功行賞は機を失わずに行うこと

 

35.
自国、他国の情勢について詳しく調べておくこと

 

37.
他人に、自分の家中の悪事を決して語ってはいけない。悪事千里を走る

 

38.
良匠はどんな材も捨てないし、上将はいかなる士卒も捨てずに登用する。その適性によって要所を考えて配置すること

 

45.
戦が近いときは、兵を荒く扱うこと。兵は、怒る方が、激しく懸命に戦う。相手に対する威力がなければ、柔弱となり、もてあそばれる。威力が強く強く熱ければ、相手は恐れをなす

 

48.
心やすい親戚や部下にも、柔弱であると見られてはいけない。勇猛でないものは、部下から畏敬されなくなる

 

51.
おおかたのことは、人に尋ねられても知らぬふりをするのが無難であることが多い

 

52.
部下が誤って離反した場合でも、処分を受け反省したなら、事情に応じて許して、部下にすること

 

53.
父が処罰されたとっしても、子供が忠孝に秀でていれば、子供に怒りの念を抱かないこと

 

54.
争わず和するべき敵か、破るべき敵か、従わせるべき敵か、を見分けて対応することが大切である

 

55.
わざわざくだらないことまで何でもかんでも人と争ったりすることはしてはいけない

 

56.
善いことは善いこととして賞し、悪いことは悪いこととして咎めて正すこと。逆をおこなえばたちまちみんなが悪に走る

 

57.
食物が届いたときは、みんなに少しづつ配分すること。贈り物があったときは、末端の者とともに分け合って食し、心を一つにすること

 

58.
常にひとつひとつ、結果と業績を残していくように努めなければ、身を立てることはできない

 

59.
目上の者に対しては、自分に一理あっても口答えしないで忍耐すること。口数が多いと無用なことや言い損ないによって、窮地に陥る

 

60.
自分の過ちがあったときに否定して争論してはいけない。過ちを犯して改めないことが本当の過ちである

 

61.
自分は絶対にこれが正しいと確信することと違っていても、そうせざるをえない意見は受け入れること。約束したことが道理に正しい場合は、言ったことを違えず実践すること

 

62.
老人を侮って馬鹿にしてはいけない。父母のように敬うこと

 

63.
家を一歩出れば家に帰り着くまでくれぐれも油断の無いようにしなさい

 

64.
行儀の悪い人、素行の卑しい人に近づかないこと。賢者に親しむこと

 

65.
仲間をむやみに疑ってはいけない

 

66.
人の過ちを批判してはいけない。良い結果は他人の手柄にしてやることである

 

67.
嫉妬は絶対に咎め、許してはならない

 

68.
悪意のある口先上手な者になってはならない

 

70.
機密は守らなければならない

 

71.
ごく普通の平凡な人たちに対して、情をかけること

 

72.
仏や神を信じ、畏れ敬うこと。神は、例や理に外れたことは受け付けない。邪心をもって人に買ったとしても加護はあらわれずやがて滅びる

 

73.
戦いが敗れそうになったときほど、ひとしお奮戦して活躍すべきである。敗勢のときほど、全力で戦う方が誌を免れることができる

 

74.
酔っ払いは相手にするな。無礼な振る舞いがあっても構うな

 

75.
えこひいきしてはいけない。人をえこひいきして法を曲げない

 

77.
宿を取るとき、歩いている時も、前後左右に注意して、油断してはいけない

 

80.
鵜飼、鷹狩、物見遊山は度を過ぎてはいけない。本業がおろそかになる

 

82.
部下に対し、寒熱風雨のときに、憐憫の情をかけること

 

86.
部下や周囲の批判はよく聞き届けて、どれほど腹が立っても堪忍して、自分が向上するように努めること

 

88.
どれほど懇意にしている関係でも、相手の内輪のこと裏のことにまでむやみに立ち入るようなことをしてはならない

 

90.
知り合いだからといっても、重要な事を頼む場合は、慎重にしなければならない

 

91.
党派・徒党を組んではいけない。公平に広く人と親しむこと

 

93.
人前で他人を非難したり、陰口をうわさしたりしてはいけない

 

94.
字をうまく書けるように練習すること

 

96.
準備の薄い相手は攻撃して破りやすい。準備の厚い相手は少数でも侮れない。つまり、自分も準備を厚くすることである

 

97.
見做しなみはととのえておくこと

 

98.
すべてのことにわたって、油断してはいけない。日々に三度、自分の言動を反省すること

 

99.
何事も怠ってはならない。飽きることなく一心に努力することがなによりも大切である

 

西村幸三

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京都・烏丸三条にある法律事務所を運営。ニュース・法改正・裁判例などから法務トピックを取り上げていきます。